神との出会い
「あの馬鹿が」
トラクタスのしようとしていることを感じたテンパスは、慌ててトラクタスのもとへ飛翔した。
やっとのことで追いつくと、トラクタスの頭に拳骨を落とした。
「何やってんだ」
「だからごめんなさいって言ったのに」
「俺たちの力は世界を滅ぼすことも瞬時にできる。それを忘れたのか」
テンパスの剣幕にトラクタスは首を縮めた。
「大体、俺に黙って人間と契約しようなんて千年早い」
「ごめんなさい、兄さん。でも」
「でもじゃない」
激しい口調がトラクタスを打った。
「俺たちの力を考えろ。軽薄な行動は許されない。
ジルフェのような精霊が契約をするのと、俺らが契約をするのはわけがちがう」
「彼女は大丈夫だと思うけど」
「何事にも絶対はない。彼女がこのまま成長する保証はない」
「でも、それはどの過程でもいえることだよ。だから、いつ契約するのか、は余り関係ないんじゃないのかな」
「彼女はこれから精神的に大きく成長する時期にあたる。その過程で彼女が変わらないという保証はない。だから、彼女と契約するのはあと五年待つんだ」
トラクタスはうなだれた。
「少し言い過ぎたか」
テンパスはぼやいた。
「ごめんなさい、兄さん。考えなしでした」
「なんでかってに戦ったの」
ウムスは戻ってくるなり、スリンの喝をくらった。
「すまない。僕はあれが許せなかったんだ」
「どういうこと……?」
「今はまだ、言えない。いずれその時が来たら必ず言うと約束するよ、スリン」
スリンは少し考えていたがやがて微笑んだ。
「分かったわ。あなたが言いたくなるまで、待つわ。でも、つらかったらいつでも言ってね。
だってわたくしはそのためにいるんですもの」
ウムスも微笑もうとして、失敗した。
「ありがとう、スリン。君がいることで、僕の罪は少し軽くなった気がする。決して忘れてはいけないことなんだけれども」
「え?」
ウムスは少ししゃべりすぎた、という表情をして、押し黙った。
「しょうがないわね」
スリンは静かにウムスの隣に座っていた。
ややあって、根負けをしたかのように、ウムスはぽつり、と言葉を落とした。
「僕の罪は、契約主を殺したことだ」
それは、静かに、静かに波紋を呼んだ。ウムスのその言葉を聞いたほかの精霊たちはそろってウムスに詰め寄った。
「どういうことだ、ウムス。話せ」
「まだ、スリンに聞かせるべきじゃない。
でも、あの後、僕は結局、彼を殺した。それは、否定しようのない、事実だ」
「それは、規律違反です、ウムス」
ジルフェまでもがウムスを責めた。
「責めないでくれ、とは言えない。だが、君たちには、僕が何を考えていたのかを知っていてほしかった。あとで、話そう」
精霊たちはしぶしぶウムスのもとから離れた。
「すまない、スリン。見苦しいところを見せてしまった」
「いいえ。大丈夫よ。わたくしはあなたを信じているから」
夜。みんなが寝静まった頃。精霊たちがひそかに話す声が、聞こえた。
時は流れ、スリン、十三歳、ディオネ、十八歳、メルーナー、十九歳。三人はチーアーとして最後の年を迎えた。
テンパスとトラクタスが盛んに様子をうかがっているが、いまだに関わりを持ってくる様子はない。ウムスは、少しのけ者にされていたが、スリンがあまりにも屈託がないので、知らず知らずのうちに周りも受け止めていた。
「あと一年か」
感慨深げにつぶやくディオネにメルーナーも同意する。
「そうだな。こんなことがなければ一生出会わなかったが」
それに関してはいいとも悪いとも言い切れない、と二人は分かっていた。いいとするには二人が負わされた運命は余りにも過酷すぎ、また悪いとするにはこの逃亡生活の間の出会いが素晴らしすぎた。
「もう一度、時の鐘が鳴ったとき、わたしたちはお別れだね」
何気ない口調でディオネはつぶやいた。
「ディオネさん、メルーナーさん。少し、わたくしの話を聞いていただけませんか」
スリンのいつになく真剣な口調に二人は思わずうなずいた。
「もう知っているとは思うのだけれど、わたくしはどうやらこの国の唯一の世継ぎらしいのです。それで、前に王宮に呼ばれた時、サー・チーアー(真の追われし者)となった暁には王宮に呼び戻す、それまでは自由にしておれ、という陛下からのお言葉をいただきました。
サー・チーアーとなるまであと少し。いえ、決して少しではないのだけれど、今までのことを考えたら、あと少しだわ。そうでしょう?
サー・チーアーとなったら、わたくしは音楽宮に入ろうと思っていたけれど、それももう無理のようね。だから、お願い。わたくしに音楽を教えてください。わたくしがこの先も歩いていけるように」
二人は閉口した。なぜなら二人とも音楽の心得などなかったからだ。
「わたくしにお任せください」
不意にジルフェが口を開いた。
「わたくしの知り合いで、音楽を司る神がいます。その人に教えを乞うたらいいでしょう」




