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スリンの真実

 時は少しさかのぼる。

 連れ去られたスリンは、はじめ抵抗していたが、そのうち無駄だと悟って抵抗するのをあきらめた。

「ノウヤ、いったいどんな風にお連れしたの。あたしは、丁寧にお連れ申し上げろと言ったはずよ」

「しかし、メノウ様。彼女は丁寧に連れてこようとして、簡単につれてこられる相手ではありません。彼女には鉄壁の守りがついておりますし」

「だから、あたしが言いたいのはね」

 そこでメノウは口を閉ざした。スリンがなにか言いたげな目で二人を眺めているのに気が付いたからだ。

「見苦しいところをお見せいたしまして申し訳ありません。少々ご不快かとは存じますが、しばしお待ちいただけませんでしょうか」

 スリンは戸惑った。前回メノウと会った時との差があまりにも大きかったからだ。

「あの、メノウ様」

「メノウ、で結構でございます。あなた様は今や、この国唯一の御世継でいらっしゃるのですから」

「それはいったい・・・・・・」

「おや、ノウヤから何もお聞きになりませんでしたか。リュウア・スリン様、いえ、ムツィオ・スリン様。

 ノウヤ、なんで全く何も知らせずにつれてきてしまったんだい。お前のことだから、また悪役ぶって連れてきたんだろう。いい加減やめろって言っているのに。

 スリン様、いえ王女様、立ち話もなんですから、話の続きは馬車の中で」

 そして三人は馬車に乗ったのだった。




「で、どうしてわたくしが王女ということになるの」

 厳しくスリンが言い放つ。

「以前に申し上げませんでしたか。あなたは『魔女』リメスと皇帝の間の子。いくら不義の子とはいえ、その血はいまや王宮内の誰よりも濃い。

 そのためわたしは以前スリン様に申し上げました。

『もし、今の陛下の御子たちに何かあった場合、あたしがあなたを王位継承者に担ぎ出すからね』と。わたしはそれを実現しただけですわ」

「あれは本当のことだったのですか。それではわたくしはお父様とは血のつながりはなかったというの」

「いいえ。リュウア公爵は魔女の兄でしたから、あなたと伯爵の関係は叔父と姪ですわ。それが伯爵が魔女をかばった原因でもあるのよ」

 スリンは目を見開いた。

「あなたは罪の子。魔女の罪の結果生まれた子。しかしその力は誰よりも強く、及ぶものはいないほど。

 陛下はお悩みになったわ。あなたを呼び戻すと魔女の罪をさらさねばならない。しかし、皇帝にはもう妻も子もいない。

 さらに、この間、新たな『魔女』を見つけたわ。それがこのわたくし、メノウなの。

 もっともわたしの魔力は弱いわ。それこそ、イレサイン・メルーナーに負けるくらいには。

 わたしもあなたも民を安心させるためのものにすぎないわ。・・・・・・いないよりましっていうやつね」

 スリンは少し不快そうに眉をひそめた。

「わたくしはチーアーなのよ。そうしたのは陛下。なのに今度は陛下が王女になれって?

 そんなのわたくしには関係ない。チーアーは何にも制限をうけないのよ」

「陛下があなたをお許しになったのは、ほかでもない、リュウア公爵がおなくなりになったためでもあるのです。

 リュウア公爵は最後まであなたを娘だと言っておりました。

 ・・・・・・少しはご安心なされたでしょうか」

 スリンは茫然とした。その瞳からは銀色の涙が滑り落ちてきた。

「お父様が、お亡くなりになられた?嘘よ。そんなはずはないわ。

 だってあの時、またねって、おっしゃっていたもの。

 お父様が約束を破ったことなんて一度もなかったのに」

 スリンは静かに泣いていた。それは、スリンがチーアーになって見せる初めての涙だった。

 馬車は沈黙をはらんだまま、ゆっくりとムツィオに向かう。




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