初めての契約
エトニアから出るためには、いくつかの小さな町を通らなければならない。その町を通っているとき、三人は首都エナタとの違いに愕然とした。
そこはかつてのエトニアよりもさらに遅れている町だった。
水道技術、灌漑技術はおろか、家すらも原始的なつくりであり、そこで農民たちが鋤や鍬をつかって畑を耕している。その道具も木や石でできていて、金属を使っているものはない。
「エナタはほかの町の犠牲のもとに発展したのだな。ほかの町が遅れても自分たちだけ発展をする。いやなことは隠し、それを暴きそうならば、とらえる。
いったい、何のための国だ?いったい・・・・・・」
メルーナーは激してつぶやいた。
「落ち着け、メルーナー。お前が怒る気持ちもよくわかる。だが、ここはほかに誰が聞いているのかわからない場所。むやみにそういうことを口にするのはよくないと思う」
メルーナーははっとした。自分の不用意な発言のせいで二人を巻き込みたくはなかった。
「そうだな」
そうしているうちに日が暮れてきた。ノアスのこともあり、人に宿を頼む気にはなれなかった。
「今夜は野宿だな」
宿屋も見つからないため、仕方のないことではあるが、スリンはそれがどうしても不満だった。今までそんなことしたことがなかったからだ。
「野宿とは一体どんなものなの」
「家ではなく道端や森の中、草原の中で寝ることだ」
「いやよ。なんか怖いわ」
「メルーナーがしっかりと結界を張ってくれるから大丈夫。決して動物たちは俺たちを傷つけることはない」
「それならよいのだけれど・・・・・・」
ディオネはスリンを安心させるように微笑みかけ、メルーナーに向き直った。
「今回は火をたかないほうが安全だと思う。万一民家に燃え移ったら大変なことになるし、俺らの居場所もなるべく人に教えたくはない」
「それはもっともだな、ディオネ。しかし食べるものはあるか?火が使えないと多くのものが食べられない」
「その点については安心しろ。スリンのフェリアとしての力を使えばいいのだ。契約はしなくても水や、果物くらいは精霊が出してくれるだろうから」
「それは、無理だと思う」
メルーナーはその考えを否定した。
「召喚を行ったら契約をしなければならない。それにこんなところにふらふらと精霊がいるわけはないだろう。この結界の中には」
それもそうか、とディオネはうなった。
「あ、あそこになにか見えるわ」
スリンはふと町の中を見てつぶやいた。
「何だろう・・・・・・。なんか髪の色も肌の色も変わっているし」
「精霊か。おそらく結界に閉じ込められてしまった低級の精霊・・・・・・いや」
メルーナーはそこで言葉を切った。その精霊が出す光は神々しいまでに美しかったからだ。
「まさか。アストフェリ(最上級精霊)か」
その精霊はスリンのもとによると、跪いた。
「リュウア・スリン。わたくしと契約を」
スリンは驚いた。
「わたくしは水の精の最高位、オンディーヌと申します。どうか、契約を」
「・・・・・・。認めます」
スリンは答えた。
その時オンディーヌの顔が輝いた。
「ありがとうございます。それでは今からわたくしはあなたの友となりましょう」
そういってオンディーヌはふっと消えてしまった。
「いったい今のは・・・・・・」
「すごいな、スリン。あの矜持の高いアストフェリがお前に契約してくれ、だって?」
スリンは戸惑った。いったい何が起きたのかよく理解できていなかったからだ。
「オンディーヌ、わたくしはまだ何が起きたのかがよくわからないの。教えてくれない」
オンディーヌは顕現してスリンの前にすわった。
「ほら、スリンも座りませんか」
スリンはオンディーヌに促されるままに座った。
「わたくしたち精霊は多くは一人で生活しています。わたくしはその中でも最高位に属するものです。多くの精霊は人間に召喚され、契約をすることで人間と友になるのです。
召喚を受けるか受けないかは精霊に決定権があります。召喚を受けてもその人が自分と友になれそうになかったり、あまりにも力が弱かったりしたら、精霊は召喚におうじません。
しかし、ごくまれにわたくしとスリンのような関係が存在します」
オンディーヌはそこで言葉を切った。
「それは精霊がこの人間と契約をしたいと思ったため、自ら人間のもとに出向き、契約のお願いをする場合です。この場合決定権は人間のほうにあります。多くの場合これをするのはかなり上位の精霊なので人間が断るのもめったにないですが。
それにしてもわたくしが今誰とも契約を交わしていなくて幸運でした。こんなに素晴らしい素質を秘めたあなたと契約できたのですから」
「つまりそれは、あなたはわたくしと共に行動をするということですね。わたくしに一緒に旅をする友人が一人増えたと思えばよろしいのですか」
オンディーヌはうなずいた。
「とりあえずそんな認識で大丈夫です。わたくしは普段はあなた以外には姿は見えませんが、あなたがこの人に見せたいと願えばそうすることもできます。またあなたが見たくないと願えばそうなることもできます」
「わかったわ。よろしくお願いします、オンディーヌ」
「こちらこそお願いしますよ、スリン」




