エトニアの真実
嵐の後の町は磨かれたようにきれいだった。だが、今の三人にはその景色を楽しむ余裕はなかった。
なかでもスリンが一番衝撃を受けていた。
「ノアスさん。なんでああなってしまったのでしょう」
「それは誰にもわからないんだ。人の心の動きは誰にも分らない。リメーアにさえ」
ディオネはなかば自分に言い聞かせるようにつぶやく。
それは誰にも聞かれることなく風にさらわれた。
「次にどうするかが問題だ。エナタを抜けるか?それともとどまるか?
急に整備されたこの街の中で。ディオネは何かこのことについて知っているみたいだが?」
「ああ、知ってるさ。『時の小屋』にいたときに聞いたこと、トーウ伯爵に聞いたことを合わせてわかったことがいろいろあるからな」
「それを教えてくれないか?」
ディオネは少し困った顔をした。それを教えていいものかどうか、わからなかったのだ。
「どうしても言えない事情があるなら言わなくていい。だが先ほどのことを考えると持っている情報は共有したほうがいいと思う。どうだろうか」
「・・・・・。わかった。話そう。しかし場所は変えたほうがよくはないか」
「近くに人がたくさんいそうな店はないか」
「どうだろう。俺のしるかぎりは、この近くに酒屋が一軒あるだけだが。スリンがいるからさすがにまずいだろう」
「たしかにな」
スリンはじっと立っていた。二人は顔を近づけて話しているため、内容はここまで聞こえてこないが、その口調から深刻そうなことだけは読み取れた。
それならば自分が関与できることは少ない、とスリンは判断したのだ。
「しかしエナタは何といっても首都だろう。さすがに酒屋一軒というわけもあるまい。どこか食事をするところくらいあるはずだ」
「ないと思う」
メルーナーの提案にディオネは即答した。
「少なくとも、俺がこれから話そうとする内容が真実であるならば食事を提供する場所はないとみていいと思う」
「どうしようか」
二人はしばし考え込んでいた。
その状況を打開したのは、スリンの鶴の一声だった。
「あの、こんなところで立ち話をしているのもおかしいから、話すのならばもっと広場とか、公園とか、そういうところに行ったほうがいいと思うの」
「そうだ公園。それは思いつかなかった。公園ならばずっと話していてもおかしくないし、わざわざ聞き耳を立てる人もいない。多くの人が利用するからだれが使ったかなんてわからない。公園に行こうか」
三人は公園の椅子に座り、ディオネの話を聞こうとした。
「俺が知っているのはどこまでが真実かわからない。しかし俺の得た感触によると限りなく真実に近いのではないかと思っている。
この国、エトニアは、最近になって、急激に発展したんだ。本当に今までは灌漑技術一つ持っていない非常に後進的な国だった。トーウ伯爵はこの国にある提案を持ち掛けた。
それが、この国で奴隷貿易を認めるならば、ムツィオで使われている技術や、伯爵が今まで世界を旅した中で見つけた技術を教える、というものだった。
はじめエトニアは拒んでいた。奴隷貿易をひそかに認めたとムツィオに知られたならば、おそらくムツィオとの交易を絶たれるのではないかと恐れていたから。
しかし世界情勢が変わってきたこともあって、エトニアはこの条件を受け入れた。一つの条件を追加して。
その条件は、エトニアが必要最低限以外は他国との交流を持たないということだった。隣国に怪しまれない程度での交流は持つが、それ以上はしないと。他国と活発に交流を持つことで自国の情報が漏れるのを防ぐ。そのために国回りに結界を築き、許可のない交易を防ごうとしている。また、情報交換の場となりやすい飲食店や酒場などは必要最低限しか営業させず、国の許可なくしては入れない。
これが俺が知っている情報だ。どこまで本当かはわからんが」
しばらく沈黙が周りを支配した。
「エトニアから、出よう」
メルーナーは決断した。
「しかしエトニアを出たからと言っていく当てなどどこにある?」
ディオネは反対したが、メルーナーに諭された。
「スリンのためでもある。まだ先は長いが、万一の時のことを考えて、スリンにも身を守るすべを与えたほうがいいだろう。
それに、ここにいると、本当に人が信用できなくなりそうだ。この、嘘と偽りと虚構だけの国では」
「あら、お言葉ね。この国は決して嘘と偽りと虚構だけでできているわけではないわ」
一人の女性が急に声をかけてきた。三人は驚いて振り返った。
「そう、この国はかつてはもっと実直な町だったのに。陛下が血迷われてから、一気に生活が狂ったわ。確かに見た目は発展したいい街かもしれないけどね、住んでいるものとしてはこんな最悪な町はないわ」
そう、女性が断言したとき。
「旅人に極秘事項を漏らした現行犯でとらえる」
屈強な男性が女性を囲んだ。
「あら、早いじゃないの。いいわ。捕まえたければ、捕まえなさい。わたしはこんなことで屈しはしないわ」
女性は円の真ん中で落ち着いて微笑んでいる。それを男性が引っ立てていく。
その様子を見ていた三人は青ざめた。
「この国を、出よう」
今度はそれに反対する者はいなかった。




