表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追われし者 前編  作者: 成瀬なる
プロローグ
1/25

すべての始まり

「魔女」。

この世で最大の魔力をもつ処女。

魔術師は男しか生まれないはずだが、稀に魔力を持った女が生まれる。

その者は処女である限り、この世で最大の魔力を持ち続ける……。



ここは、ムツィオ王国の首都、スティノア。首都、とはいっても計画都市であるためさほど大きくはない。ただひとつ、街の中央に大きな鐘がある。

その名も、「時の鐘」。

この国特有の裁き、「追われし(チーアー)」が解放されるときに使われる。

もう少しでチーアーが解放される、五年に一度の時である。

時の鐘が皇帝の手で鳴らされた。

人々は蜘蛛の子を散らしたように走り出す。



 時は少し遡る。

 この国最大の都市、ノスカには貴族の屋敷が立ち並ぶ街がある。その街のなかでも一際目立つ屋敷はこの国最大の貴族、リュウア家のもの。

その、リュウア家の中に、一人の男が入っていく。



 ことり、と音がして、リュウア家の息女、スリンはめをさました。

 まだ夜は空けていない。

 薄明かりが窓から差しているだけだ。

「こんなときにいらっしゃった非常識なお方はどなたですか」

 スリンは半ば皮肉を込めた口調で言った。その口調は幼い外見に似合わず、おとなびていた。

「非常識か。確かに非常識には違いないが、罪人の家に入るのに、常識も何もないと思うがね」

 そして部屋に入ってきた男を見て、スリンは息を飲んだ。

「ほう、その反応を見るとわたしのことを知っているように見える」

「当然でしょう。この国始まって以来最大の裁判官、オストワ様」

「ならば、わたしが一体どういう用件でここに来たのか分かるか」

 スリンは首を横に降り、挑発的に言った。

「なぜオストワ様がここにいらっしゃったのかわかりませんわ。だって」

 そこでスリンは言葉を切り、不安そうに周りを見た。

「ほう、ようやく気がついたか。

 お前の父リュウア・ノルンは本日付で貴族としての資格剥奪並びに幽閉に処される。

 罪人を庇った罪だ。

 当然、娘のお前にも同じ刑が処されるところだが、皇帝陛下からの恩赦がでたのだ」

「おんしゃ?」

 スリンはここで初めて子供らしい口調になった。

「本来はリュウア・スリンも幽閉せよとのお達しが来たのだが、陛下が情けをかけられて、チーアーにすることにされた」

 スリンは混乱した。チーアーとは軽犯罪人もしくは家名を汚したものがなるもの。

「よく分からないという顔をしているな、リュウア・スリン。

 今は分からずともよい。

 さあ、急げ。もうすぐ時の鐘がなる」

 オストワはスリンを「時の広場」まで走らせた。



「時の広場」に急ぐ道中、オストワはスリンに囁いた。

「そなたが困らぬよう、手配はしておいた。

 本来、これは規律違反なのだが、わたしとてリュウア伯爵に世話になった身。

 その娘であるそなたには真の追われし(サー・チーアー)(サー・チーアー)となって自由に生きてほしい」

 広場に着いた後、オストワはスリンを二人の青年に引き合わせた。

「ディオネ、メルーナー。これが、リュウア・スリンだ。

 よろしく頼む」

「スリンともうします。よろしくおねがいします」

 スリンがそう言った瞬間、広場に大きな鐘の音が鳴り響いた。

「逃げよ!」

 その音にかき消されないよう、オストワは叫んだ。

 人々は蜘蛛の子を散らしたように走り出した。



 スリン、ディオネ、メルーナーの三人は、国境をでてすぐにある、無法地帯で立ち止まった。

 平然としているディオネ、メルーナーに対し、スリンは不安そうに周りを見渡している。

「大丈夫ですか、スリン様」

「大丈夫よ。あなたは……?」

「イレサイン・メルーナーです」

 それを聞いたとたん、スリンは慌てて頭を下げた。

「イレサイン家の方ですか。

 無礼な態度をお許しください」

 すると、ディオネが笑い出した。

「そんなにかしこまらなくてもいいよ、スリン。

 わたしたちは家を追われた身だ。

 メルーナー、スリンに気を使わなくてもいいぞ。

 スリンもわたしたちのことは名前で呼んでくれ。

 申し遅れたが、わたしはディオネ。よろしく」

「ディオネ様、よろしくお願いします」

 ディオネは微笑んだ。

「堅苦しいことは止めましょう、スリン。

 わたしたちは今、皆同じ身分なのだから」

 スリンは戸惑っていた。

 今まで自分にこういう風に話しかけてくる人はいなかった。

 スリンはまだ学校にも行っていなかったので、当然と言えば当然ではあるが。

「は……い。ディオネ……さ、ん」

 結局呼び捨てはできなかったらしい。

 ディオネは苦笑した。

「スリン、ディオネ。そろそろ動かないとまずい」

 そんなディオネの考えを破ったのはメルーナーだった。

「そうだな」

 ディオネは同意する。

 三人は無法地帯の中を慎重に歩き始めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ