009
ガイアが私の目の前で、死んでしまったことが一番の心の傷。
もう死んでしまった人間を、考えるのは、良くないって思ってるつもり。
(けど―)
まだ私は、忘れられないでいる。
好きだから。
大切な人だったから。
「果物剥かねぇと食べれないぞ?」
和気あいあいな空気が、病室に流れている。
(やっぱり。今は...)
考えちゃいけない。
「そうですね、ユマさんお願いします」
こんな空気を壊すことなんか。
「え?...やだ、私皮剥けない」
小さな声で、ユマが呟く。
恥ずかしそうに、顔を赤らめている。
「そうなんですか?以外でした」
テルは、ユマの姿を見て、困ったように言った。
カナメも二人のやり取りに、溜め息をつく。
「しゃあない、俺がやる。テル、小包丁出せ」
と言った。
え?
果物切れるの?
「カナメ先輩、果物切れるんですか?」
私の疑問を代わりに、テルが聞いてくれる。
テルも不思議に思っていたのだろう。
当たり前だ。
男な上に、雑なカナメの性格だ。
頷ける。
「な、何だよ?俺が剥けたら、可笑しいのかよ!?」
カナメはさも侵害だ、
と言わんばかりに、怒鳴った。
(怒っちゃった)
「まあまあ、先輩落ち着いて。お願いしますよ」
テルは、小包丁をさっと渡す。
実際に見てみなきゃ、分からない。
そう思ったのか。
「ああ、やってやるよ。テメェら、目を節穴にして、見てろよ!」
果物籠から、林檎を一つ出す。
左手には林檎、右手に小包丁を持った。
スラスラと迷いなく、剥き始める。
段々皮が長くなっていく。
これには、ビックリ。
(性格と手の器用さって関係ないもんなんだね)
感心した。
「凄いね、カナメ!」
「え?あ、ああそうだろ?」
誉めたことにより、さっき怒っていたこと、忘れている。
「流石です。まさか、先輩にもそんな特技があったなんて」
「先輩ずっこい!私にその特技、下さいよ!」
テルは馬鹿に、ユマは頬を膨らませて。
カナメに誉め言葉を言ったのだった。