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長い長い石造りの階段を越えると、
私の実家である
昔から続いてきた由緒正しき神社が見えてくる。
「やっと着いた...」
いくら自分の実家とは言え、
この階段を久々に歩くのは、
とても辛い。
あまりにもゴールが見えなかったせいで、
途中頭がクラクラして、
倒れてしまいそうになったほどだ。
一方シリトさんはと言うと―
「目的地はすぐそこのように見えて、意外と遠いのだな」
顎に手を当てた状態で、
神社の境内を見渡して、
普通に、
息を切らすこともなく、
呟いている。
(...ある意味最強だわ、この人)
私は呆れた感情にも似た、
驚きの声が出そうになる。
「こんな急な階段登ったのに、息上がらないんですね」
私も呼吸の調子が元に戻り、
喋りやすくなったので、
さっき疑問に思ったことを
言った。
「女と鍛え方が違うからな」
(...はい?)
さらっと答えられてしまい、
嫌味を言われたのか、
と錯覚してしまったが―
良く見ると、
人を馬鹿にしたような顔ではなく、
真面目な顔をして淡々と言っているシリトさんは、
全然嫌味を混ぜて、
私に返したのではないと分かる。
「そもそも男と女では、基礎体力が違う。年齢の違いからも体の動かし方、衰えは変わってくるのだから、比べる対象を間違っている」
その後に続けた言葉からも、
私の勝手な勘違いだと
気付く。
(勘違いだって気付いたけど、この人一言余計なんだよなぁ)
学者だか何だか知らないけど、
そんな物事を何でも、
そっちの分野方面に持っていかないで欲しい。
ただでさえややこしいのに、
もっとややこしくなってしまうのだから。
「...もう良いです、分かりました。分かりましたから、さっさと中に入りましょう」
私は降参したというように、
両手を頭の位置まで上げると、
シリトさんに言った。
「そうであったな。どうも君と会話をしていると、話が脱線しがちになる」
(全部私のせい!?)
眉間に皺を寄せながら、
今度は嫌そうに、
シリトさんは言った。
「分かりましたよ...なるべく話が脱線しないように努めます」
あーだこーだ話していても、
この先話が進展することはないので、
不満ながらも、
取り敢えず負けておくことにする。