6 秘密基地 Side拯 ⑥
俺達の秘密基地は、切り立った崖にぽっかりと穴を空けている洞窟だ。
たくさんの木々が洞窟全体を覆い隠していて、ぱっと見ただけではそこに洞窟があるとは分からない。
出入口からは十メートルほどの細長い道が続いており、更に進んで行くと開けたところに出る。その広さは百畳ぐらいだ。俺は広間と呼んでいる。
広間からはいくつかの道が延びているが、全て行き止まりになっている。
俺は前回来た時に苦労して取り付けた蝋燭へ火をつけながら、三人を広間に案内した。
秘密基地を初めて見た三人の第一声は、
「「「凄い……」」」
中に入り広間を見回して、
「「「秘密基地だな……」」」
そんな三人のハモり×2を聞いて、俺は嬉しかった。
頑張って整えた甲斐があったよ。
何せ、最初は酷かったからなぁ~……。当たり前だけど。
落ち葉が半端ないくらいあって、全部掃き出すのが大変だった。
内部も所々崩れていたしな。修復するのに手間取って、かなり時間がかかった。
……めげずによくやったよ、俺!!
過去の自分を褒めている俺をよそに、三人は広間を歩き回っている。
興味深そうに見ていたり、何かを考え込んでいたり、観察していたりと様々だ。
三人の感想を聞こうと、まずは玲人の方へ近づいた……はずなんだが。
何故、俺は穴に落ちているのだろうか?
さっきまで、広間に穴なんてなかったぞ?!
どうなってるんだ!?
穴の中は真っ暗で、何も見えない。
底があるのかどうかも分からない。
しかも俺の体が、穴の奥へと物凄い力で引き寄せられている。
もう下半身は穴へ完全に入っており、上半身も時間の問題だ。
今は腕の力だけで、穴の縁にしがみついている。
……やばいな。
一瞬でも気を抜けば、穴の中へ引きずり込まれてしまう。声を出すことすら危険だ。
助けてほしいが三人とも俺に背を向けているため、俺が陥っている状態に気付いていない。
くそっ……!!
「やはり違和感があるな……」
何か引っかかるところがあるのか、玲人は首を傾げながら考え込んでいる。
玲人、気付いてくれ!一番近いのはお前なんだ!
気付かないとしてもその後ろ向きのままでいいから、せめてもう少しだけこっちに下がってきてくれ!!
そうすれば、かろうじてお前に触れることが出来る!!
いくらなんでも、触れられたら気付くだろう?!
だから頼む!!玲人、来てくれっ!!!
そんな必死の思いが伝わったのか、玲人は何やら納得のいかない様子で、俺の方へ二歩下がってきた。
あと一歩、あと一歩こっちに来い!!
玲人っ!!!早くっ……!!
耐えているのも限界になった時、遂に玲人の右脚が俺の方へ一歩下がった。
チャンスっ!!!
「……玲人ぉ~!!」
ガシッ!!
「あ?」
玲人の右脚を、両手でがっちりと掴む。
玲人は考え込んでいたためか、本性が現れかけた声を出す。
そして、その原因である俺を捜して……固まった。
まぁ、正しい反応だな。
誰だって、ダチがさっきまで無かった穴に落ちかかっているなど、思いもしないだろう。
ましてや、凄い力で穴の奥へ引っ張られている俺に自分の右脚を掴まれ、自身も引きずり込まれそうになっているとなれば尚更だ。
しかし、流石は玲人。
状況を把握し、復活するのも早かった。
一瞬で我に返る。
「……はぁ?!」
おっ、玲人のポーカーフェイスが崩れた。珍しい。
玲人の驚いた顔は貴重だな。
こんな状況じゃなけりゃ、激写してるところなんだが……実に惜しい。
そんなことを思っている間に、とうとう穴から頭だけが出ている状態になった。
玲人は右膝をつき、地面に両手の爪を立てて堪えようとするが止まらない。
俺と玲人の異常に気付き、結揮と彰が走って近寄ってくるのが見える。
巻き込んで悪いな、玲人……。
そう思ったのを最後に、俺は穴の中へ完全に引きずり込まれた。
三人の姿が見えなくなる。
暗闇の空間に投げ出されて意識が途絶えそうになる前、ふと思った。
結揮と彰も巻き込んだかなぁ……。
まぁ、いいか……俺達が四人揃えば無敵だからな……何があっても大丈夫だろ……。
そして、俺は意識を失った。