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強者どもは四人いる  作者: 麟凰
序章
18/18

18 秘密基地 Side彰 ⑥

木の枝を掻き分け、隠されていた秘密基地へと入る。

出入口から続いている細長い道を通り、百畳ぐらいの広く()けたところに出た。

拯は広間と呼んでいるらしい。

……拯のネーミングセンスに触れてはいけない。

広間はいくつかの道と繋がっているが、全て行き止まりらしい。


拯は壁に設置された蝋燭へ火を点けながら、自分達を先導していく。

全ての蝋燭に火が(とも)されると、広間全体を把握する事が出来た。

秘密基地の外観を見て



「「「凄い……」」」



と三人でハモったが、広間を見渡して



「「「秘密基地だな……」」」



とまた三人同時に声を発する。

想像していたものよりも、立派な秘密基地だったためだ。

自分達の反応に嬉しそうな顔をする拯。

かと思ったら、次の瞬間には遠い眼になる。

最初に見た秘密基地の状態でも思い出しているのだろう。

それにしても、相変わらず表情がよく変わる人だ。

自分達はそんな拯に話し掛ける事をせず、各自広間を歩き回り始める。


何故放っておくのか?

理由としては、ただ単に拯と関わりたくないからだ。

遠い眼になった拯はなかなか現実に戻って来ない上、一度構えばやたらと絡んでくるからな。

面倒臭い事この上ない。

玲人と結揮も、自分と似たような考えだろう。

だから、自分達は拯が現実に戻って来るまで放っておく。

玲人が拯の頭を叩くという選択肢もあるが、昨日の事があるため玲人もしないようだ。


結揮は広間と繋がっている道を見に行き、玲人は広間の壁や床を観察している。

自分はというと、広間の天井を見ている。

薄茶色をした天井は、まるで誰かが(なら)したかのように真っ平らだ。

ふむ……。

ずっと見ていると、落書きしたくなってきた。

どのようなものならこの秘密基地に相応しいだろう?

古代壁画っぽく棒人間と動物か?

それとも意味不明な記号か?

いや、未知の文字らしきものを描くという手もある。

迷うな……。


どのような落書きにすべきか考え込んでいる時、玲人が何か呟いた。

少し距離があったため、何を言ったのかまでは分からない。

しかし真剣な顔をしている事から、何かに対して頭を働かせているのだと思う。

何を考えていたのか、後で玲人に聞いてみよう。

そう決めて再び落書きへと意識を向けた時、拯の情けない声が聞こえた。



「……玲人ぉ~!!」



助けを求めるようなその声に、何をやらかしたのかと思い拯の方を見る。


拯が、穴に落ちかかっている?何故?

……意味が分からない。

何がどうなったらこうなる?

広間に穴なんて無かったはずだ。

それに何故、玲人まで穴へ引きずり込まれそうになっている?


訳が分からず混乱しながら、二人をよく見てみる。

……原因はお前か、拯。

拯は穴へ凄い力で引き寄せられつつ、玲人の右脚を両手でがっちりと掴んでいた。

玲人は拯と一番近かったが、少し離れて立っていた。

その玲人の右脚を拯が掴めているのは、玲人が数歩下がったからだろう。

拯は玲人に助けを求めるべく、玲人の右脚を掴んで注意を引いたというところか。

完璧に巻き込まれたな、玲人。


しかし流石は玲人だ。

予想外な出来事だったにも関わらず、暫く硬直しただけで直ぐさま状況を把握した。

自分は第三者なため、二人を一歩離れた位置から見る事が出来た。

だが当事者の立場であったなら、玲人みたく瞬時に状況を理解して対応するなど出来ない。

改めて玲人の凄さに感服していたが、玲人の声で我に返る。


玲人の珍しい驚き顔を視界に入れつつ、拯達の方へ急いで走り出す。

その間にも、二人は穴へ引き寄せられていく。

玲人は右膝をつき、地面に両手の爪を立てて堪えようとしているが止まらない。

拯の方は穴から頭だけが出ている状態だ。


間に合ってほしい……!!

その思いも虚しく、拯は穴の中へ引きずり込まれてしまった。

拯を案じる()もなく、玲人へ必死に手を伸ばす。

拯に掴まれていた玲人の右脚が、穴の中へ入っていたからだ。


玲人まで居なくなるのは嫌だ!!

玲人だけは、何があっても絶対に失うものか!!

そう焦る自分に対して、玲人は微笑むだけで手を取らない。

拯も穴に呑まれながら微笑していたが、玲人のそれは違うものも混ざっている。

何を考えているのだろう?

そう疑問に思った直後。


ガシッ!!



「は?」



玲人に右脚を掴まれた。

しかも拯がやったようにがっちりと。

予想していなかった事態に、思わず呆然としてしまう。

まさか……自分を巻き込むつもりか?!

その思いが顔に出ていたのかどうか分からないが、玲人は自分に向かってこう言った。



「結揮を!!」



たった一言だけ、しかしそれだけで玲人の考えが分かった。

何より、玲人の黒い微笑み付きならば分からないはずがない。

玲人は自分()巻き込むつもりだったんだな……。

玲人らしい考えに納得しながら行動する。


ガシッ!!



「へ?」



玲人の望みに応えるべく、自分は結揮の右腕をしっかりとホールドする。

結揮は突然の事に脳が追い付かず、ポカンとしている。

そんな結揮を気にも掛けず、玲人は堂々と言い放った。



「お前らも道連れだ!!彰、結揮を逃がすなよ!?」



玲人の言葉に力強く頷く。

玲人は満足そうに微笑み、穴の中へと消えていった。

玲人の言葉で状況をやっと理解した結揮が、横で何やら喚いている。

だがもう遅い。

何と言おうが、自分達も巻き込まれるのは決定事項だ。それが覆る事はない。


玲人の(そば)にいられるのならば、他は全て些細な事だ。

この穴が何処に繋がっていようとも怖くはない。

それに玲人が自分も巻き込んだという事は、玲人に信頼されている証でもある。

……結揮もというのが気に入らないが、玲人が望むのなら仕方ない。



「……先に行っている」



そう結揮に声を掛け、自分も玲人達の後を追った。


自分の指先すら見えない闇の中で、玲人の事を考える。

玲人は此処で何を考えていたのだろうか?

何を考えていたにせよ、自分がするべき事はただ一つ。

玲人の役に立つ事。それだけだ。

そう改めて自分の想いを確認し、目を閉じた。

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