16 秘密基地 Side彰 ④
さっさと話をさせるためだろう、玲人は拯に命令している。
拯は……涙目だ。
その状態のまま、震える声で話し始めた。
拯は前々から、自分達四人だけの拠点=秘密基地が欲しかったらしい。
玲人は腕を組み、顎に手をあてて拯の話を聞いている。
……カッコイイ。
そのポーズは反則だぞ、玲人。
拯もそう思っているのか、玲人に熱い視線を送っている。
当然その視線は無視されているが、めげずに話し続けている。
拯には『秘密基地は山にあるものだ』という考えがあったため、頑張って探していたらしい。
ここ最近、何やらこそこそしているなと思ってはいた。
だがまさか、秘密基地を探していたとは……。
相変わらず、面白い行動をする人だ。
それは今もそうだが。
玲人の威圧に影響を受け、報告口調になったり敬礼をするのは拯ぐらいだ。
他の人ではそうはいかない。
玲人に威圧されたら、大概の人は何も喋れなくなる。身じろぎすらも出来なくなる。
拯は違う。
喋る事も動く事も出来る。
何より、玲人の眼を真っ直ぐ見つめる事が出来る。
拯のそういうところに敵わないと思ってしまう。
やはり拯は凄い。
玲人の隣に居られるのは、拯だけなのかもしれないな……。
改めてそう考えていると、結揮が自分達の気持ちを代表で言ってくれた。
結揮の言う通りだ。
しかし自分の中では、四人で何かするのが楽しいから手伝うというのが大きい。
――玲人が拯に対して、特別な感情を持っているのは知っている。
文句や愚痴を言いながらも、それらが本心からのものではない事を知っている。
本人には知られないように、拯を全力で援護しているのを知っている。
どんな時も拯の事を一番に考え、行動しているのを知っている。
拯が拯らしくいられる為なら、どんな事でもする覚悟があるのを知っている。
玲人は拯に救われたからそうするのだろう。
だが、自分は違う。
自分は玲人に救われた。
玲人が拯の力になろうとするように、自分は玲人の力になりたい。
自分の決意を再確認していると、拯一人で秘密基地を探していた理由が判明した。
自分達を驚かせるためだったらしい。
……無理だろう。
拯が何かを隠していると、態度に出るからすぐ分かる。
現に結揮と自分は、『拯が何かやっている』と大分前から気付いていた。
玲人は論外だ。
あの人は興味すらないだろう。
拯の嘆きを聞き流す。
放っておいても問題はない。
結揮の見事なスルーは流石だな。
口には出さないが、玲人も同じ事を思っているようだ。
嘆きを無視された拯は複雑な顔をしていたが、渋々ながら結揮の質問に答える。
拯によると、秘密基地は山の奥の方にあるらしい。
洞窟になっており、結構広いとか。
山とは、自分達の学校の裏側にある山を指す。
熊などが出て危険なため、出入りが禁止されている。
まぁ、自分達はそれを無視してよく入り浸っているが。
秘密基地、か……。
一日で行ける距離なら、今からでも行ってみたいな。
「片道は、どのくらいかかるんだ……?」
気になって拯に聞いてみると、一時間半はかかると言われた。
往復では三時間。今から行ったら、歩いている途中で暗くなってしまう。
「夜は危険だからな……」
結揮の意見に同意しつつも残念でならない。
落ち込んでいる自分と結揮を見て、気になったのか玲人が聞いてきた。
拯も身を乗り出してくる。
前とは様子が全く違うから当然か。
結揮が玲人と拯に答えながら、秘密基地について力説している。
鼻息を荒くするほどの熱意はないが、結揮に共感出来る部分ならある。
「するな……」
結揮の言葉に頷く。
自分達の答えに相槌を打っただけの玲人を見て、拯は何か思うところがあったようだ。
明日、四人で秘密基地へ行かないかと誘ってきた。
玲人に興味を持たせようとしているのだろう。
そんな拯の思惑に気付いているのかいないのか、結揮が真っ先に賛成する。
「賛成だな……」
自分も結揮に続く。
後は玲人次第だ。
恐る恐る聞く拯に、玲人は仕方ないといった表情で返事をする。
玲人の唇の左端が少し吊り上がって見えるのは、決して自分の見間違えではない。
「「「了解」」」
自分達は玲人の言葉に、声を合わせて答えた。