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強者どもは四人いる  作者: 麟凰
序章
12/18

12 秘密基地 Side玲人 ⑥

秘密基地を覆い隠している木の枝を掻き分け中へ入る。

細長い道を抜けると百畳ぐらいの広く開けたところに出た。拯は広間と呼んでいるらしい。

……拯のネーミングセンスには触れないでおく。

広間はいくつかの道と繋がっているが全て行き止まりらしい。

拯は壁に設置された蝋燭へ火を点けながら俺達を先導していく。

全ての蝋燭に火が灯ると広間の全体を知る事が出来た。

まず此処の外観を見て



「「「凄い……」」」



と声を漏らしたが、今もまた広間を見渡して



「「「秘密基地だな……」」」



と三人でハモってしまった。

想像していた以上の、きちんとした秘密基地だったからだ。

そんな俺達の様子を見て拯は満足そうだ。

かと思えば、次の瞬間には何やら遠い眼になった。

最初の悲惨だった状態でも思い出しているのだろう。

俺達はそんな拯を放っておいて各自広間を歩き回り始めた。


放っておく理由は二つある。

一つ。単純に関わりたくない。

二つ。拯が遠い眼になるとなかなか現在に戻って来ない。

これらの事から、俺達は拯の回想が終わるまで好きにさせておく。

いつもみたく頭を叩けばより早く現在に戻って来るんだが……。

昨日のように拯の記憶を飛ばす確率が高い。

ここは触れずに放っておくのがベストだ。

結揮は広間と繋がっている道の一つを見に行き、彰は広間の天井を見て何か考え込んでいる。

俺は気になった事があり、広間の壁や床を観察する。


先程から思っていたが……綺麗すぎる。

掃除道具が散らばっている事から拯が掃除をしたのは事実だろう。

だがここまで綺麗にするには箒や雑巾だけでは足りない。

長い間放っておかれたにしては床に動物のフンなど一つも落ちておらず、壁は削れた跡も汚れた跡も見られない。

ここまでするには、モップやブラシなどで何ヵ月もかけて掃除する必要がある。

だが、拯はたったの数日しか掃除に費やしていない。

拯以外に掃除をした者がいる……?

だとしたら何が目的だ?

俺達と同じ目的にしては時間も手間もかけすぎている。


……いや、俺達以外に此処へ来た者がいるとは限らない。

しかし、いないとも言い切れない。

もしいると仮定するならば疑問が出てくる。

何故、今のタイミングで此処へ来たのか?

何故、今まで掃除もせずに放っておいたのか?

今更になって掃除をしに来た理由は?

俺達に限らず誰かが来ると予想してなかったのか?

予想していたとしたら対策を講じなかったのは何故だ?

対策を講じる必要がなかったのか?

だとしたらその理由は?

考え出せばキリがない。

答えとしてはこう考える事が出来る。

誰かが此処へ来たのは、拯がうろちょろしているのを知ったからかもしれない。

掃除をしてなかったのは、使われないようにわざと汚くしていたのかもしれない。

まぁ、掃除をしに来た理由は分からないままだが。

少なくともこれだけは断言出来る。

拯が全ての元凶だ。


気になった事はもう一つある。

壁や床の所々に文字らしきものが書かれている事だ。

どんなに目を凝らしてもミミズが這ったような跡にしか見えない。

だが、見た事のないそれには規則性があるようにも見える。



「やはり違和感があるな……」



偶然に付いた傷にしては文字と文字との間隔が一定なのはおかしい。

誰かが何かの目的を持って書いた可能性が高い。……考えすぎか?

いずれにせよ、今の少ない情報では答えが出ない。

誰かが来たという証拠もない。

保留にしておくしかなさそうだ。

そう思いつつも、此処にはいない『誰か』について思考をめぐらせる。

誰かが書いたのだとしたら、これには何か意味があるな。

解読出来れば目的も見えてくるかもしれない。

もう少し離れて全体を把握してみるか。

俺は後ろに二歩下がる。

ミミズ文字のいくつかが視界に収まらない。

あと一歩下がった方がいいな。

そう思い、右脚を後ろへ下げた途端。



「……玲人ぉ~!!」



拯の情けない声が聞こえたと同時に、右脚に重みを感じた。



「あ?」



俺は考え込んでいた事もあって不意を突かれた形となった。

普段は隠している本性が声に現れてしまう。

その事に内心で舌打ちをしつつ、そもそもの原因である拯の方へと振り返る。

……は?

何だ、これは?何が起きている?……理解不能だ。

脚を掴まれた事から、拯はしゃがんでいるか座っているかしているのだと思っていた。思っていたんだが……。



「……はぁ?!」



穴に落ちかかっているなど、予想外にもほどがある!!

それだけならまだしも、その穴の中へ引きずり込まれそうになっているだと?!

何をやってるんだ!?


くっ……!

拯に両手で右脚をがっちりと掴まれているため、俺も穴へと引き寄せられていく。

このままでは、拯と共に穴の中へ引きずり込まれるのも時間の問題だ。

拯に手を放せとも言えないしな……。

穴の引き寄せる強い力に堪えられず、俺は右膝をつく。

拯は頭しか出ていない状態になってしまった。


くそっ……!!

無駄だと理解していながらも両手の爪を地面に立て、穴へ引きずり込まれるのを阻止しようとする。

俺達の異常に気付き、結揮と彰が走ってくるが……もう手遅れだ。

二人が来る前に拯が穴へ完全に引きずり込まれた。


拯のやつ、穴に呑まれる寸前まで微笑してたな。

俺達を信頼しているのか……。

全く……。その期待に応えなければならなくなったじゃないか。


俺もそろそろ限界だ。

あいつ、こんな出鱈目な力に腕だけでよく耐えていたな。

……拯の期待に応えるとするか。

ガシッ!!



「は?」



俺は彰の右脚を、拯が俺にしたようにがっちりと掴んだ。

訳が分からず呆然とする彰に俺の思惑を一言で伝える。



「結揮を!!」



そう、俺の思惑とは『道連れ』だ。

ガシッ!!



「へ?」



俺の思惑を理解し、彰は結揮の右腕をしっかりとホールドする。



「お前らも道連れだ!!彰、結揮を逃がすなよ!?」



俺に向かって力強く頷く彰。頼もしいな。

結揮の喚き声をBGMに、俺は拯の後を追った。


黒一色の世界で考える。

広間へ最初に足を踏み入れた時、確かに穴は無かったはずだ。

どうなっている?何が起こっている?

まぁ、そのうち分かるか。


それにしても……拯は大変だっただろうな。

俺達は三人とも拯に背を向けていたから、拯は自分の状態を伝えるのに苦労したに違いない。

穴の力には一瞬も気を抜けず、声を出す事すら危険だっただろうから。


あぁそうだ、拯に追い付いたらサポートしてやらないと。

一人だと何をやらかすか分からないからな。

そう考えたのを最後に、意識が途切れた。

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