10 秘密基地 Side玲人 ④
「拯」
再度呼び掛けるとやっと話し始めた。
拯は前々から俺達四人だけの根城というか、秘密基地が欲しかったらしい。
「で?」
俺は腕を組み、顎に手をあてて拯の話を聞いていたんだが……。
拯。
何故、俺を見つめる?
何故、俺に熱い視線を送ってくる?
お前はどうだか知らないが、俺は男にそんな眼で見つめられても嬉しくない。
俺が熱い視線を無視している間も拯は話し続けている。
『秘密基地は山にある』という固定概念に基づき、頑張って探していたらしい。
ここ最近何やらこそこそしていると思ったら秘密基地を探していたのか。
それはいいとして。
何故、報告口調になっている?
しかも敬礼までするとは、俺の威圧感に影響されたか?
拯の言動を分析していると結揮が俺達の気持ちを代表で言った。
結揮の言う通り、拯が一言声を掛けてくれば俺達は手伝う。
俺達に関わる事ならば拯一人だけに任せておくような事はしない。
俺達に関わらないような事でも拯が真剣にやろうとしているのならば、俺達は全力で拯を援護する。
まぁ、文句や愚痴は言わせてもらうが。
これらの俺達の想いを拯は知らないだろう。
俺達が拯に知られないようにしている所為でもあるが。
拯は知らなくていい。
俺達が心に刻んでさえいれば、それでいい。
知ったらきっと、お前は無茶をしなくなる。
拯は無茶をしてこそ拯だ。
拯は無茶をすればいい。
俺達が全部カバーしてやる。
……何事にも限度はあるがな。
因みに拯が一人で秘密基地を探していたのは、俺達を驚かせるためだったらしい。
無理だ。お前は隠すのが下手だから何かやってるとすぐ分かる。
結揮や彰は『拯が何かやっている』ととっくに気付いていたようだし、俺は論外だ。そもそも興味すらない。
拯が『ヘコむ』とか言っているがお前なら大丈夫だ。心配ない。
拯の嘆きを華麗に無視する結揮。
流石だな。ここまで華麗なスルーは俺でも難しい。
山は俺達の学校の裏側にあり出入りが禁止されている。
熊やらなんやらが出て危険らしいが一度も見たことがない。
誰かが襲われたというような話も聞いたことがない。
一応市の所有となっているらしいが、整備も何もされずほっとかれている。
俺達はそれを幸いとばかりに、出入り禁止を堂々と無視してよく入り浸っている。
拯が言うにはその山の『奥の方に秘密基地があり、広い洞窟となっている』とか。
片道は約一時間半、往復では三時間かかるらしい。
……それにしても、さっきから結揮と彰がやけに拯の話に食い付く。興味が出てきたのか?
「お前達、興味があるのか」
気になったため聞いてみる。
拯も気になっていたようで身を乗り出してくる。
当然か。結揮も彰も最初は興味なさそうだったからな。
結揮の答えは至ってシンプルだった。
『秘密』という響きにワクワクするらしい。
分かったから、鼻息を荒くするのはやめろ。
そんな結揮に彰も同意する。
「そうか」
二人の答えに対し、俺は相槌を打つ。
二人とも拯の話を聞くにつれ実感が出てきたのだろう。
だが拯は俺のそんな態度に何か思う事があったらしい。
いきなり明日は四人で秘密基地へ行かないか、と言い始めた。
拯の事だから俺にも秘密基地への実感や興味を持たせよう、などと考えたのだろう。
拯の案に真っ先に賛成したのは結揮、続いて彰。後は俺次第となる。
……仕方ない、付き合ってやるか。
「……いいだろう。明日、午前九時に校門前へ集合だ。いいな?」
俺の言葉を待っていた拯達にそう告げると、三人は声を合わせて返事した。