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第2話 自分が話してる途中で会話を勝手に終了させられると悲しいよね

この物語の主人公は竜です。苦手な方はすぐに戻るボタンを押してください。

 ――どれくらいの間目を瞑っているのだろうか。

 ほんの二三秒かもしれないし、もう何分も経っているのかもしれない。

 そんなことも分からなくなるくらいに今の俺は期待と不安で心が埋め尽くされているのだ。

今まで目を開けるという行為に、これ程の緊張を感じたことがあっただろうか?

 瞼の重さがいつもの何倍にも感じられる。

 ゆっくりと開けていく視界、それと同時に高鳴る胸の鼓動、暗闇の中に白銀の世界が広がってゆく。

 

 完全に開けた視界にまず映ったのは、地平線の向こうまで続く白い山脈。

 そしてその下に広がる湖。

 俺は今、山の途中にできた天然の広場のようなところにいた。

 後ろを振り返れば、天まで届くんじゃない? って程の山がいくつも連なっている。

 

 時間は夜。

 空には数えきれないほどの星と大きな青い月のようなものが浮かんでいる。

 今までに見てきたどんな所よりも白く美しいこの景色に、俺は呼吸も忘れて見入っていた。

 

 何ここ? 天国なの? 俺死んじゃったの? 

 ……ごめん、今回はわかってて言ってみただけなんだ、許しておくれ。 

 


 ――白い景色を眼に焼き付けている途中で、俺の頭にある一つの疑問が浮かんだ。

 寒くない。 

 なぜ?

 此処はどう考えたって極寒の大地。

 湖が凍ってないところをみると、今は温かい方なのかもしれない。

 が、問題なのは俺の恰好だ。

 此処に来る前、俺は短パンとタンクトップ一枚だったはず。

 そんな薄着で雪山の中に放り出されて、寒さを感じないはずがないだろう。

 

 おかしいと思い、俺は自分の体に視線を向ける。

 そして思考が息絶えた。

 

 そこにあったのは自分の見慣れた体ではなく、銀色に光輝くボディ……。


「ガアァァァァァァァ!!(イヤアァァァ! なんか俺の体、めちゃくちゃゴツゴツしてるんだけどぉ!?)」


 この日、夜の雪山に恐ろしい竜の咆哮が響き渡り動物たちが恐怖のあまりに逃げ出したというのはまた別の話、なんだろうか?




▽△▽△▽△▽△▽△



 大変だ!

 俺の体もなんかファンタジーなことになってるけど、それ以上に大変なんだ!

 

 …………なぜか、俺が叫んだすぐ後に、上の方から白い防寒着(だと思う)を着た女の子が滑り落ちてきました。




「き、救急車ぁ!!」


 思わず叫んじゃったんだぜ。仕方がなかったんだぜ。

 な~んて、そんなことはどうでもいい。

 

 此処は雪山、そして異世界。

 頼れるのは己の身唯一つ。

 俺がやらないで誰がやる?

 ――さあ、人命救助の始まりだ!

 

 

 まずは女の子の体をじっと見る(断じて変態的な意味ではない)

 歳は……中学生くらい。(ロリだな)

 肩先まであるウェーブがかかった髪は綺麗な空色。(半端ないなっ!)

 瞼を閉じているため瞳の色は分からない。(絶対綺麗だ、そうに違いない)

 血色の良い頬は、指を立てたらどこまでも吸い込まれてしまいそうなほどに柔らかい、と思う。

 だが、今の俺がそんなことをすれば流血沙汰になってしまうので、我慢する。

 ――っく! こんなときにmyボディはいったいどこをほっつき歩いているんだ!


(その疑問、我がはらしてやろう)


 悔しさのあまり、心の中で握り拳を作っていた俺の頭に声が響く。

 どう考えてもさっきの髭爺だった。

 こんな体になった主原因であろう髭爺に食ってかかろうとしたが、それよりも早く奴は攻撃を繰り出してきた。


(ところでお主、人命救助とか言っておきながら結局外見の観察しかしていないではないか)

「いや違う、誤解だ! ちゃんと怪我してないか見てたさ! 決して可愛かったからとかそんな」

(まあまて、今のお主が普通に喋っていては近所迷惑になるだろう。喉を使うな、頭で念じるんじゃ)


 おっと、そういえばそうだ。

 今の俺の外見は、ファンタジーな世界の住人であるドラゴン君だったんだ。

 ここは素直に謝っておこう。


(あ、スイマセンでした。いやでもホントに違うんですよ? わかってます?)

(わかったわかった、その話はもう良い。そんなことよりも、早く本題に入りたいんじゃが)

 

 それでも誤解は解いておこうとした俺に返ってきた言葉は、少しそっけなかった。

 なんかご機嫌斜めな感じ?

 いったい何があったんだい、髭爺。


(まずお主の恰好じゃが、それを説明している暇は正直言ってない。故に結論だけ言っておこう)


 僅かに焦りの色を含んだ声色で、髭爺は言う。

 もしかしたら髭爺も眼の前の気絶してる女の子を案じているのかもしれない。

 確かに、全身を防寒着が覆っているため分からないが、もしかしたらこの子は怪我しているのかもしれないのだ。

 そうだな、ふざけてる場合じゃない。

 そして俺は爺さん、いや神の言葉を真面目に待つことにした。


(…………お主の体は今、我が預かっておる)


 はて、預かってるとはどういうことなのだろうか。

 言い方からして、爺さんの意志で俺はこんな姿になっているのだろう。

 なら、そんなことをする理由はなんだ?

 何か意味があるのだろうか?


 ………………いや、深くは考えまい。

 きっとそこには俺の想像も絶するような、大きな意味があるに違いない。

 そう、例えばだ。

 俺の体がこの世界の環境には対応できず、元の体のままだとすぐに死んでしまう、なんてことがあるのかもしれない。

 もしかしたらこの髭爺、いや神は俺のことを案じてくれているのかもしれないのだ。

 ちょっと泣きそうだ。

 なんだかんだ言ってこの神は、すごく良い奴なんじゃないだろうか?


(そこには、深い訳があるんですよね?)

(当り前じゃ。我がふざけているとでもいうのか、若造よ)


 唯のふざけた白ひげ爺は、もういない。

 此処にいるのは、紛れもない神その(ひと)

 彼が喉を鳴らせば大気が揺れ、手を掲げれば万物がひれ伏す。

 その瞳はすべてを見透かし、その髭はすべてを絡め捕る。

 ――これが、この方が、髪なのだ!

 

(……真面目なのかふざけているのか分からん奴じゃな)


 どうやら心を読まれてしまったらしい。

 プライバシーの侵害で訴えてやりたいところですよ。


(いやぁ~、真面目なのって俺苦手なんです。もうあれですね、真面目オーラに十秒当てられただけで干からびますね)

(お主は社会に出る前にくたばってよかったのではないか?)


 カッチーン。

 今のは頭に来たぞ?

 それじゃあまるで、俺には価値がないみたいじゃないか。

 いくら神でもそんなことを言っていいはずがないだろう。

 ここは男として言い返さなければなるまい。


(何言ってんの! 俺にだってまだまだやりたい事たくさんあったんだからな! まあどうせ、妄想ばかりしてるエロ爺には分からないだろうけど)

(なんじゃと!? 妄想して何が悪い! 妄想の世界ではな、自分がその中心になれるんじゃ! 自分を中心に世界が回っておるのじゃ! そこでは誰もが神になれるんじゃぞ!! 素晴らしいと思わんのか!?)

(あんたは元々神でしょーが! そんな世界で神様気取ってんじゃなくて、もっと真面目に現実世界で仕事しろよ!)


 永遠に続きそうな、くだらない言葉のキャッチボール。


(真面目に働けだと? ハンッ! 一番不真面目なお主が何を言うか!!)

(違う、一番はアンディーだ! ここ、大切!!)

(さっきから訳の分からんことを……いい加減に)

 

 しかしこのキャッチボールは、爺さんが何かを言いかけた時、下の方から掛った声を合図に終わるのだった。


「       」


 いつ目を覚ましたのだろうか。

 声のした方をみると、気絶していた女の子が座りながらこっちを見ていた。

 思った通りの綺麗な緑の瞳で、訝しむように。

 

 ――なんて言ったのかな?

 

 聞こえなかったのではない。

 意味が分からなかったのだ。

 それもそのはず、ここは日本ではなくましてや地球でもない。

 似たような言語が使われている確立なんて零に等しい。

 ――まあもし使われていたとしても、それが日本語以外ならどちらにしろ理解できないのだけど。 


 そこで俺は、頭の中の髭に助けを求めることにした……


(なあ、翻訳機能とかってないの? よくあるじゃん、ネットの小説とかで)

(そんなものはないな)


 ……のだが、軽くあしらわれてしまう。

 しかし、この程度で諦める俺ではない。

 ないというのは恐らく嘘で、本当は面倒に思っているだけだろう。

 ここは日本人の粘り強さの見せどころだな!

 

(そこをなんとか! 言葉が理解できなかったら俺、この先生きていく自信がないよ)

(心配ない。竜は人語を理解しなくとも生きていける。そんなことよりも少し黙っていてはくれぬか? 何と言ってるか聴き取れんじゃろうが)

(そもそも俺は竜じゃないから、人間だから。分かる? それにその言い方、髭には言葉が理解できるんんでしょ? 頼む、なんて言ってるか教えてくれるだけでいいから!)

(うるさいと言っているのが分からんのか!? さっきからしつこいぞ、大体お主のその態度は何じゃ!

我は神だぞ、人間の分際で我に)

「         !!」


 ――しかし、またしても髭のターンは少女によって強制終了させられる。

 相変わらずなんて言っているのかは分からないが、今回は声を張り上げて何かを訴えているように見えた。

 しかも、なぜか女の子は涙目で俺を睨んでいる。


(って、えええ!? 俺なんかした!? ………………あ、成程っ、俺が怖いのか。まあ今は竜だしね)


 それなら彼女の視界から居なくなればいい。

 そう思ってこの場から離れようとしたが、すぐに考えを改める。

 理由は、女の子が自分の左足首を手で押さえているのが目に入ったからだ。 

 

 ――もしかすると足首を痛めているのかもしれない。

 

 となると、一人で歩くのは辛いはず。

 そんな状態の子を、雪山に一人置いて行くなんて出来るはずがない。

 しかし今の俺ではどんなことをしても、この子を怯えさせるだけだろう。 


 ――となると、ここは神の手を借りるしかないな。

 そう思い、俺は頭の中の髭に語りかける。


(爺、どうすればいいかな? なんとかしてこの子を……って、あれ? おーい爺さん?)


 しかし反応がない。

 頭の中から出て行ったのだろうか?

 だとしたら相当に空気を読まない神様だ。

 

(何もこのタイミングで出ていかなくてもいいじゃん……)


 


 ――結局俺は何をするでもなく、ただただ物凄い顔で睨んでくる女の子と睨めっこをし続けるのであった。

 



(この子可愛いな!)

 

少し長くなりそうだったので、今回は微妙なところで終ってしまいました。

スイマセン

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