第1話 世界で一番アホな人生の最後
――――今日、私こと桐宮悠は永遠の眠りにつきました。
何で分かるのかって? そりゃあ仰向け状態の俺のお腹の上で、威厳たっぷりな白ひげオジサンが座禅を組んでいるからさ。
どうして死んだのかって? それは俺にもわからない。
覚えているのは友人との六時間耐久鬼ごっこのあとへとへとになって家に帰ってきて、それから夕飯の準備をしようとしてたってこと。
まぁそっちも気になるけど、まずはこのオジサンの方だろう。
「あの、オジサン? ちょっといいですかね」
「今いいところだから邪魔するでないわ、この若造が!」
なにしてるのかを尋ねようとしたら物凄い剣幕で怒られてしまった。
てへっ、失敗しっぱ……じゃねえよ!
「人の上で何座禅組んでんっすかアンタは!? てか何、今いいとこってあれですかアハーンな妄想ですかこの髭!」
「髭ではない、髪じゃ! ……いや神じゃ!」
……最初の方発音が完璧髪だったよこのオジサン。
アナタの場合顎から生えてくる毛が髪なの? それはちょっと無理があるんじゃないかい?
いくら頭の上の方が荒れ地だからって……現実を見ろオジサン、髭に髪はかえられないよ。
「髭とか髪とかは正直どうでもいいんだけど、妄想の方は否定しないでいいの?」
「そんなことよりもお主、なぜここに来たのか知りたいのだろう?」
話の矛先を変えたらあっさりと受け流されてしまいました。くっ、これが神クオリティーなのか!?
まあ確かにそっちも気になってから別にいいんだけど。
「あ、そうそれ。なんで? もしかしてあれか、最近よくある神様の間違いか何かで死んじゃったってやつ」
「いや、違う。お主が死んだのはお主自身の運がなかったからじゃ」
「え? 運って神様が操るもんじゃないの?」
「何故そんな面倒なことをしなければならない」
ええ~? どんだけダメなのこの神さん。
「それでお主がここに来た理由じゃが、人間には一瞬だけ体が脆くなる瞬間があっての。その瞬間にある程度の衝撃を受けると死んでしまうのじゃよ」
「いや、なにそれ? それが本当なら人間弱すぎない? じゃあもしその瞬間にでこピンされたりしたら死ぬの?」
「ああ、死ぬぞ。でこピンの衝撃なら即死レベルじゃ」
――よわっ 脆いなんてもんじゃないだろそれ!?
それが本当なら格闘技やってる筋肉盛り盛りの人とかが、普段ならどんな攻撃も耐えられそうな筋肉の申し子たちが、箪笥の角に小指をぶつけただけで死んじゃうかもしれないんだぞ!?
カッコ悪すぎるだろ人間!
「ん? でもそんな事実今まで知らなかったんだけど」
「あたりまえじゃ。これが原因で死んだのはお主が初めてじゃからな」
「……え? マジで?」
「だから言ったじゃろう? お主自身の運がなかったからだと」
運がないってレベルじゃない気がする。
てか逆に運がいいんじゃないか? そうだよ、運が良すぎたんだよ俺。
あっはは~、じゃあ俺は選ばれた人間なんだきっとそうだ。
……そう思わないと俺、悲し過ぎて生きてけないよ。
あ、もう死んだんだった。
そういえば、どうやって死んだんだろう?
やっぱり箪笥か、箪笥に小指をぶつけて死んだ十九歳の男性とか新聞に出ちゃったりして。
やったぜ新聞初デビューだ!
「で、お主を死に至らしめた主な原因じゃが」
ゴクっと喉を鳴らして俺は身構える。
ものすごく聞きたくはないけど、やっぱり人には向かい合わなきゃいけない事実ってもんがあるしな。
よぅし、どんな情けない理由でもバッチこいだ!
さあ、俺の胸に飛び込んでおいで、マイハニー!
「お主、頭を掻いておったじゃろう? それじゃよ」
かく? かくって掻くって書く掻くのこと?
混乱して来たぞ、あれ、掻くって……。
「うん? じゃあ俺は自分で自分の頭を掻いて死んだってこと?」
「そうじゃ」
「ほんとにそんなことで? あんまし強く掻いたりしてないよ?」
「ああ、あれぐらいでも十分に即死レベルを超えておるよ」
「……マジ?」
「マジじゃ」
「…………うそぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」
たぶん、今までで一番大きいうそおんだったと思う。
じゃあ俺、自殺なわけですかそうですか。
しかも頭掻いて自殺とかクオリティー高すぎるでしょ……。
今の俺はまさしくorz。
もう完全体と言っても過言じゃないくらいにな。
「グッバイ、俺の人生 グッバイ、俺の尊厳」
俺、泣いてもいいんだよね?
「さて、そろそろ本題に入ろうかの」
「俺にとってはさっきのが人生最大の本題な訳ですが……」
「まあ聞け、本来ならお主はあれで終わりだったのじゃが、丁度やってもらいたいことができての。実はある世界のある子どもが、これから大変な目にあうことになっておる。我は神なので世界に直接関与することはできん。故にあの子に手を貸すことができん。そこでお主にあの子を助けてもらいたいのじゃ」
「ちょっと待って、なんでオジサンが人を助けようとするんだ? 直接関与できないなら知り合いでもないんだろう?」
「ああ、その通りじゃ」
「じゃあなんでさ?」
「それはな、あの子が我の好みのタイプだからじゃよ」
……いや、タイプだからじゃよ、じゃねーから!
何威厳たっぷりに腕組みながら言ってんだよ、全然神っぽくねーから、唯の変態髭爺だから!
こんなやつの頼みなんて誰が聞くかっ
こんな髭無視してさっさと永遠の眠りに……
いやだがまて俺、早まるな。
あの口ぶりからしてあの子というのはおそらく女の子!
さらには神のタイプ!
正直に言って神のタイプが何なのかなんてさっぱりだが、それゆえに見てみたいという好奇心もある。
そ・し・て 助けてほしいってことはつまりそういうシチュエーションってことだろそうだろアンディー!?
アンディーが誰かは後で俺にメールで聞いてくれれば教えるよってそんなこたぁどうでもいい。
ここは男として、やるしかないな。
よし、そうと決まれば早速行動さ。
「わかりました神様、その役目どうかこの私、桐宮悠にお任せください。必ずやその子を悪の手から救い出して見せましょう」
この科白に、さらに片膝をつきあたかも中世の騎士が己が主に永遠の忠誠を誓うかのようなポーズをエンチャントするぜ!
ふっ、このデュエル、もらった!
「おおそうか、ならばお主に頼むとしよう。その子の名前はフィオレンティーナ、カルカントという小さな街に住む貴族の娘じゃ」
よし、ビンゴ!
それになんか名前がもうお姫様って感じだ。
やっべ、すっげー燃えて来た!
「ではお主をカルカントの近くへ送る、目を瞑れ」
俺は言われたとおりに瞼を下ろす。
だがそこに映るのは暗闇ではない。
そう、そこには俺を待ち受けているであろうバラ色の甘い時間が!
願うは唯一つ、神が普通の性癖であることのみ!
「ではあの子を頼んだぞ、悠よ」
「はっ」
――そして、光と共に悠の姿が掻き消えた……。
この物語の主人公は、中身は人間ですが外見は竜です。苦手な方は戻るボタンを押してください。