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最強の将軍だった俺は剣を捨て、滅亡寸前の小国で宰相になりました――戦わずに勝てと言われても、まずは腐った帳簿を燃やします  作者: 竜太郎


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女王の声――次の欄

諸侯会議室には濡れた羊毛の匂いが残っていた。レイヴは卓上の紙を一枚ずつ並べ、ミレイアが自分の言葉で諸侯会議に立つために集めた数字を見比べた。数字は兵より静かだが、嘘をつけば必ずどこかの暮らしが欠ける。今朝欠けていたのは、子ども三十七人分のパンだった。


「不足ではありません。移されたんです」


トーマが差し出した記録には、同じ印章が二度押されている。レイヴは犯人の名を急いで口にしなかった。ここで一人を斬れば皆は安心する。だが、穴の空いた仕組みは次の誰かを盗人にする。彼が欲しいのは首ではなく、同じ手口が二度と通らない仕組みだった。


ミレイアは小さく息を吸い、会議にいた者たちへ命じた。


「今日から記録を二か所に残します。王城のためではありません。パンを受け取る人が、自分の分を確かめられるように」


反発はすぐに上がった。王族軽視の諸侯に連なる役人は、手間が増える、伝統に反する、民に数字は読めないと声を重ねた。レイヴは反論せず、空の木箱を中央へ置いた。言葉より、失われた重さの方が雄弁だった。


夕刻、最初の記録板が壁へ掛けられた。完璧ではない。書き間違いが二つあり、列に並べない老人もいた。リオナが板の内容を声に出して読み、ハル爺が受取量を指で確かめた。制度は紙の上で完成するのではない。使えない者が一人ずつ減ったとき、ようやく国の骨になる。


レイヴは腰の剣に触れず、次に直すべき欄へ炭筆で印を付けた。王権と議会の境界は、明日には別の不具合が見つかるだろう。それでも、昨日より確かな一歩だった。まだ始まったばかりだった。


(次話へ)

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