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守る理由

村に着いたとき、空気の重さにすぐ気づいた。


 人の気配はあるのに、どこか静かすぎる。


「……様子がおかしい」


 ルナが小さく呟く。


「うん」


 ルークも周囲を見回しながら頷いた。


 家々の扉は閉ざされ、窓の奥からこちらを窺う気配がある。


 歓迎されていないわけではない。


 ——ただ、怯えている。


「すみません」


 ルークが近くにいた村人に声をかける。


 びくりと肩を震わせながら、男は振り向いた。


「あ、あんたたち……外から来たのか」


「ええ。何かあったんですか?」


 男は一瞬ためらい、それから小声で言った。


「……魔物が出るんだ」


 予想通りの答え。


 だが、その表情はただの恐怖だけではなかった。


「ただの魔物じゃない」


 さらに声を潜める。


「夜になると現れて、人を……連れていく」


 ルナの目が細くなる。


「連れていく?」


「殺すんじゃない。連れ去るんだ。何人も……」


 言葉が震えていた。


「だからみんな、夜は外に出ない」


 村の静けさの理由が、ようやく繋がる。


 ルークは真剣な表情で頷いた。


「分かりました。俺たちが様子を見ます」


「ほ、本当か……?」


「はい」


 迷いのない返事。


 男は何度も頭を下げながら去っていった。


 しばらくの沈黙。


 やがて、ルナが口を開く。


「……やる必要はない」


 淡々とした声。


「依頼でもない。ただの厄介事よ」


「そうだね」


 ルークはあっさりと頷く。


 否定しない。


 そのまま続ける。


「でも、放っておけない」


 予想通りの答え。


 レイナは小さく息を吐いた。


「あなたそればっかりね」


「うん」


 あっさり認める。


 それ以上、何も言わない。


 ただ、行くことは決まっているという顔。


 ルナはしばらく黙っていた。


 村の空気。


 怯えた視線。


 そして——


 隣にいる男の、変わらない表情。


「……好きにすれば」


 短く言う。


 それだけで十分だった。


「ありがとう」


 ルークは少しだけ笑った。


 夜。


 村の外れ。


 月明かりが、静かに地面を照らしている。


 気配は、すぐに現れた。


 空気が歪むような感覚。


 次の瞬間、闇の中からそれは姿を現した。


 黒い霧のような身体。


 はっきりとした形を持たない魔物。


 ルナはすぐに魔力を練る。


「消す」


 短く呟く。


「待って」


 ルークの声が入る。


「今度はなに」


 苛立ちが滲む。


「あれ、普通の魔物じゃない」


 ルークの視線は鋭かった。


「……分かってるわ」


 ルナもすでに気づいている。


 あの気配。


 ただの魔物とは違う。


 ——人の気配が混じっている。


「中に誰かいるかもしれない」


 ルークの言葉に、ルナは一瞬だけ動きを止めた。


 その隙を逃さず、魔物が動く。


 一直線に、ルークへ。


「っ——!」


 避けきれない。


 そう判断した瞬間。


 ルナの体が先に動いていた。


 魔法を撃つのではなく、


 ルークの前に立つ。


 展開した防御障壁が、衝撃を弾く。


 鈍い音。


 地面が抉れる。


「……無茶しないで」


 低く言う。


 自分が言う側なのか、と一瞬思う。


 でも、それどころではなかった。


「ルナ」


「黙ってて」


 短く言い捨てる。


 視線は魔物から外さない。


「中にいるなら、まとめて消せない」


 小さく呟く。


 それは、今までなら考えなかった選択。


 ——確実に倒す。


 それだけでよかったはずなのに。


「……面倒だわ」


 そう言いながら、魔力の質を変える。


 圧縮ではなく、分離。


 破壊ではなく、干渉。


 不慣れな操作。


 それでも——


「やるしかないか」


 魔物が再び襲いかかる。


 今度は避ける。


 その動きを見極めながら、魔力を流し込む。


 黒い霧がわずかに揺らぐ。


「今よ、ルーク!」


「うん!」


 息の合った動きだった。


 ルークが踏み込み、魔物の核へと剣を突き立てる。


 一瞬の静止。


 次の瞬間、霧が弾けた。


 中から、一人の人間が崩れ落ちる。


 意識はないが、呼吸はある。


 ルナは小さく息を吐いた。


「……面倒なことをさせる」


 そう言いながらも、どこか力が抜ける。


 ルークがその人物を支えながら振り返る。


「ありがとう」


 その一言に、ルナは少しだけ顔をしかめた。


「礼はいらないわ」


「でも、助けた」


「……たまたまよ」


 視線を逸らす。


 胸の奥が、わずかにざわつく。


 理解できない感覚。


 でも、嫌ではなかった。


 村の方から、人の気配が近づいてくる。


 誰かが助かったことに気づいたのだろう。


 安堵とざわめきが混じる。


 ルナはそれを横目に見ながら、小さく呟いた。


「……やっぱり面倒だわ」


 けれど、その声は。


 ほんの少しだけ、柔らかかった。

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