魔王、赤い仮面を引く
久しぶりに、あの壺の前に立っていた。
「……まぁ、余裕も出てきたし、回してみるか」
魔石を投入すると、壺はこれまで以上に強い光を放ち始める。
「……お?」
レリィの表情が、わずかに変わった。
閃光が収まる。
そこに立っていたのは──
赤い服に身を包み、仮面をつけた人物だった。
全身から、ただならぬ存在感が漂っている。
「……」
なんだろう、この既視感。
「なにその仮面。それにその服。
昔どこかで見た覚えがあるんだけど」
思わず、正直に口にしてしまう。
赤い仮面の男は、胸に手を当て、丁寧に一礼した。
「シャウと申します」
低く落ち着いた声。
「申し訳ありませんが、この仮面を外すことはご容赦いただきたい」
「……え?」
「お恥ずかしい話ですが、私は極度のあがり症でして。
この仮面がないと、人前に立つことができないのです」
「……」
一瞬、間が空いた。
「いや、人見知りの人がそんな真っ赤な服着るわけないだろ」
我ながら、もっともな突っ込みだったと思う。
すると、会話を遮るように、レリィが一歩前に出る。
淡く光る魔法陣が一瞬浮かび、消えた。
「鑑定、完了しました」
「またそれだ」
「これは……非常によい人財ですね」
レリィは珍しく、はっきりと断言した。
「全体的にステータスが高く、特に直観力が突出しています」
「……ステータスって何」
「反面、“運”の値がかなり低いのが気になりますが……
それを差し引いても、SSR級と判断してよいでしょう」
「だから、その鑑定スキルちょうだいよ」
本気で思った。
シャウは静かに一歩前へ出る。
「未熟者ではありますが、この身、魔王様のためにお使いください」
妙に様になる。
そのとき、玉座の間の扉が開いた。
「よろしいでしょうか、魔王様」
入ってきたのはセレスだった。
「報告です。我が魔王国は、封印域のおよそ三分の一を支配下に置きました」
「……もう、そんなに?」
自覚がなかった。
「次の段階として、西部に存在する中級魔人たちの勢力を取り込む必要があります」
セレスは淡々と続ける。
「まずは軍門に下るよう交渉することになるでしょう。
ただし、交渉が決裂した場合も想定し、軍勢を整えておく必要があります」
いよいよ、という感じがしてきた。
その空気を察したのか、シャウが一歩踏み出す。
「戦いの際には、ぜひ私をお使いください」
仮面の奥の視線が、真っ直ぐこちらを向いている。
「先輩方と違い、新参者の私は、まだ武功を挙げておりません。
どうか、その機会を」
「……別に、他のみんなも、まだ何もしてないけどね」
正論を言ったつもりだった。
だが、シャウは気にした様子もなく、胸を張る。
「勝利の栄光を、すべて魔王様に」
「……」
一拍置いて、僕は聞いた。
「……最後に、裏切ったりしない?」
レリィは満足そうに頷いた。
「使いどころを誤らなければ、最高の戦力になります」
こうして、
赤い仮面のSSRが、魔王国の戦力に加わった。
魔王コウイチの周りは、
有能で、少し問題のある部下ばかりが揃いつつあった。
――たぶん、これが“国が回り始めた”ということなのだろう。




