魔王、内政を学ぶ(実地)
玉座の間。
簡易的とはいえ、それなりに魔王っぽい顔ぶれが揃った中で、僕は腕を組んで唸っていた。
「まずは内政から、がセオリーだよね……」
そして、ふと思う。
「……って、内政って、何をやるんだっけ?」
一瞬、空気が止まった。
最初に口を開いたのは、牛山だった。
「ガチャで作る者だけでは、国は動きません」
真面目な声だ。
「まずは、国内の街々を支配下に置くことが必要かと」
「……街?」
思わず聞き返す。
「この国に、街なんてあったっけ?」
「ありますよ」
レリィが当然のように言った。
「オークやゴブリンたちの大きめな集落がありますし、ごくわずかですが、下級魔人の街も存在します」
「……知らなかった」
「魔王様が鉱山で働いていた間も、世界は動いていましたから」
言い方がちょっと刺さる。
「でしたら」
レリィが続ける。
「魔王様が鉱山で集めてくださった間に城の装置が排出した魔石で、オークたちを追加で出しましょうか。いわゆる、デイリー石ですね」
「……デイリー石」
また嫌な単語が増えた。
結果。
壺から出てきたのは、オーク、オーク、オーク。
数えてみると、七十体。
「……SR、出ないね」
「出ませんね」
レリィは即答した。
「……あれ? でもさ」
ふと疑問が湧く。
「これ、鉱山で僕が掘った魔石より、多くない?」
レリィは少し考えてから、にこやかに答えた。
「そこは、魔王様お一人で掘っておられましたから。仕方ありません」
「なんか納得いかないなぁ……」
ともあれ、戦力は揃った。
「では、手始めに」
牛山が地図を広げる。
「城の近くにある、下級魔人の街へ向かいましょう。
こちらの戦力であれば、十分です」
「つまり……」
僕は確認する。
「降伏勧告、だね?」
レリィが頷いた。
「はい。平和的にいきましょう」
――というわけで。
僕、レリィ、牛山、セレス。
そしてオーク五十体。
その編成で、下級魔人の街へ向かうことになった。
下級魔人の街は、石造りの壁に囲まれていた。
門の前に立つと、守備兵らしき魔人が槍を構えて叫ぶ。
「何者だ!」
レリィが一歩前に出る。
「失礼ですね。魔王様ですよ」
「は?」
守備兵は僕を見て、鼻で笑った。
「こんな、ひょろっとした人間が魔王なはずがないだろう。
いい加減なことを言うな」
そして、そのまま槍を突き出してきた。
「え、ちょっ――」
反射的に声を上げる。
だが。
槍先が僕の胸元に触れた瞬間。
――バキン。
乾いた音とともに、槍は粉々に崩れ去った。
「……え?」
守備兵が固まる。
僕も固まった。
「……あ、そういえば」
後ろで、レリィが思い出したように言う。
「言い忘れていましたが、魔王様は相応にお強いです」
「今、言う!?」
「雑兵ごときでは、傷ひとつ付けることはできないでしょう」
「もっと最初の方に言ってほしかったんだけど!?」
というか。
僕は振り返って、三人を見る。
「……ていうかさ」
牛山は冷静。
セレスは観察モード。
レリィは微笑んでいる。
「みんな、僕を守らなかったよね?」
セレスが眼鏡を押し上げて言った。
「実証が一番、早いかと」
牛山も頷く。
「結果的に、問題はありませんでした」
レリィは、にこやかにまとめた。
「これで、魔王様が魔王様であることは、伝わりましたね」
門の前で震え始めた守備兵を見ながら、僕はため息をついた。
「……内政って、命がけなんだなぁ」
こうして、魔王コウイチの“支配”は、想定よりずっと物理的に始まったのだった。




