目標設定と、だいたい無理な現実
正直に言えば、まだ状況を完全には飲み込めていなかった。
魔王?
未来?
人類が宇宙に旅立った?
情報量が多すぎる。
僕は頭をかきながら、玉座の上でため息をついた。
「……まぁ、僕に選択肢がなさそうなのは分かったよ。そこはちょっと不満だけどさ」
レリィはにこやかに頷く。
「理解が早くて助かります」
「助かってないけどね。それで、まず何を目標にすればいいの?」
そう聞くと、レリィは少しだけ姿勢を正した。
「前向きでよろしいですね。では順を追ってご説明します」
そう前置きしてから、さらっと爆弾を投げてくる。
「魔王様がこの世界に受肉なされる、少し前のことです。この城から南にある、人間の国家──皇国にて、“勇者”が召喚されました」
「……勇者?」
「はい。ただし、この勇者は問題があります」
嫌な予感がした。
「今までのルールに違反した、いわゆる“チート行為”による召喚なのです」
「……え?」
「本来、この世界に存在してはならない力を持ち込み、世界の調和を乱しています」
レリィは淡々と続ける。
「ですので──」
にっこり。
「ぶったおしてもらいたいです」
「軽っ!?」
思わず声が裏返った。
「いやいやいや、いきなり第一目標がそれ!? もっとこう、段階とかないの!?」
「ありません」
即答だった。
「世界の均衡を崩す存在は、排除する。それが魔王の役目です」
「……なるほど、分かりやすいけど分かりたくない」
僕は深くため息をついた。
「で、それが第一の目標ね。じゃあ次は?」
「続いては、魔王様の国──魔王国の再建です」
「……魔王国?」
「ええ。名前はまだありませんので、後ほど考えましょう」
名前すらなかった。
「この城と、周囲の領土は残っています。ただし──」
レリィは少しだけ言いづらそうに続ける。
「現状、戦力はほぼありません」
「……え?」
「私を含め、“魔人”と呼ばれる強力な存在はいくつかおりますが、各地で調和と統制を取る役目を担っております。そのため、自由に動かせません」
「ちょっと待って。部下、ほとんどいないってこと?」
「はい」
あっさり言われた。
「どうやって勇者を倒せっていうの、それ」
「ですので、魔王様には戦力を作っていただく必要があります」
いや、だからどうやって。
僕がそう言おうとしたタイミングで、レリィは説明を始めた。
「この世界には、魔力や魔素と呼ばれる力があります。それが結晶化したものが“魔石”です」
「魔石……ゲームでよく見るやつだ」
「その認識で問題ありません。この魔石を集めることで、魔族や魔物を生み出すことが可能です」
「なるほど……」
ここまでは理解できる。
「一応、この城には、魔石を製造する古代の装置もあります」
「おっ、じゃあそれで量産できるんじゃ──」
「ただし」
レリィは静かに言った。
「一日に製造できるのは、オークで十体ほどです」
「……少なくない?」
「効率が悪く、非常に遅いです」
希望が一瞬でしぼんだ。
「ですので、各地で魔石を集めていただく必要があります。魔石さえあれば、この城の古代装置を使って、新たな手下を製造できます」
そして、レリィは少しだけ首をかしげて、こう付け加えた。
「分かりやすく言えば、ガチャですね」
「……急に現代的な例え出てきたな」
しかも、ガチャ。
勇者討伐。
国の再建。
戦力は自前で集めろ。
僕は玉座に深く座り直し、天井を見上げた。
「……魔王って、思ったよりブラックな職業じゃない?」
レリィは、にこやかに微笑んだ。
「はい。ですが、やりがいはありますよ」
その笑顔が、一番怖かった。




