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魔王、武を示す

「いやぁ、お見事。よもや戦わずして勝つとは。感服いたしました」


 そう開口一番に言い放ったのは、上位魔族――アヨンだった。


 場所は魔王城、玉座の間。

 魔王国の主要な面々が揃う中、彼は堂々と立っている。


 鍛え抜かれた体躯。

 歴戦の傷を隠そうともしない佇まい。

 どう見ても、武人の中の武人だ。


「えっと……アヨンさん、でしたか」


 僕は少し緊張しながら口を開く。


「ありがとうございます。その……今回は、僕の軍門に下ってくださる、ということで?」


 恐る恐る尋ねると、アヨンは大きく頷いた。


「如何にも」


 だが、すぐに表情を引き締める。


「ただし、ひとつだけ条件をのんでいただきたい」


 嫌な予感がする。


「魔王殿は、無駄な殺生を好まぬ御方。

 まさに調和と統制を望む器とお見受けした」


 そこまではいい。


「……だがな」


 アヨンの眼が鋭く光る。


「魔王たるもの、武を示さねばなりますまい。

 力なき王に、誰が従いましょうか」


 やっぱり来た。


「武……ってことは」


 僕は乾いた笑いを浮かべる。


「……僕に、戦えと?」


「いかにも」


 即答だった。


「その、アヨンさんと?」


「いかにも」


 逃げ場がない。


「いやぁ……ろくに戦ったこともないんだけどなぁ……」


 そのとき、横からレリィが一歩進み出た。


「ご準備は、すでに整えております」


「……え?」


 差し出されたのは、一式の武具だった。


 漆黒の武者鎧。

 縁は深紅に彩られ、禍々しくも美しい。


 剣、盾、鎧、そして翻る黒きマント。


「……おぉ」


 思わず声が出る。


「いかにもラスボスって感じだね」


 装着されていく装備を眺めながら、正直な感想を口にする。


「でもこれ、魔王っていうより……日本の武者じゃない?」


「先代魔王様の武具でございます」


 レリィは平然と答えた。


「サイズは先ほど調整いたしましたので、問題ないかと」


「へぇ……よく残ってたね。

 あるなら、もっと早くくれてもよかったのに」


 すると、レリィは何でもないことのように言った。


「先日、先代の魔王様が起きてこられまして。

 こちらを置いていかれました」


「……え?お亡くなりになったんじゃなかったの?」


「ご存命です。

 “第二の人生じゃー”と仰りながら、側近をお連れになって各地を放浪なされているそうですよ」


「……なにそれ」


 混乱している間に、話は進んでいた。


 場所は変わり、魔王城の中庭。


 石畳の上で、僕とアヨンは向かい合う。


 武者鎧の重みが、ずっしりと体に伝わる。


「……やっぱ、武者だよな。まぁ、いいか」


 剣を構え、深呼吸する。


 アヨンも、巨大な剣を掲げた。


「よろしいか?」


 気迫が、空気を震わせる。


「いざ――尋常に!」


 次の瞬間。


 ――剣が、激しくぶつかり合った。


 金属音が中庭に響き渡る。

 アヨンの一撃は重く、受け止めるたびに腕が痺れる。


「くっ……!」


 盾で弾き、体勢を崩されそうになりながらも踏みとどまる。


(初めて、剣を振るったのに……)


 不思議だった。


(……やけに、手に馴染む)


 足運びも、構えも、考える前に体が動く。

 剣先が、相手の動きを自然と捉えていた。


(……これが、魔王の力?)


 アヨンの攻撃が、さらに激しくなる。


「やりますな!」


 豪快な連撃が降り注ぐ。


「ここまでとは、思っておりませんでしたぞ!」


 押し切られ、徐々に後退する僕。


 息が荒くなり、視界の端が揺れる。


 ――そのとき。


 左手が、熱を帯びた。


 次の瞬間、魔力が溢れ出す。


「……っ!」


 黒く、しかし澄んだ力が、腕から全身へと巡る。


 世界が、静かになった。


 アヨンの動きが、はっきりと見える。


「な……!」


 驚愕の声を上げるアヨン。


 僕は、一歩踏み込んだ。


 剣が唸りを上げ、魔力をまとって振り抜かれる。


 ――衝撃。


 アヨンの体が、宙を舞い、石畳に叩きつけられた。


「……っ」


 立ち上がろうとするアヨンの前に、

 いつの間にか、僕は立っていた。


 剣先が、静かに突きつけられる。


 動けば、終わる。


「……」


 その瞬間、牛山の声が響いた。


「勝負あり!」


 アヨンは、深く息を吐き――

 やがて、ゆっくりと膝をついた。


「……完敗です」


 その声に、悔しさはなかった。


「魔王殿。

 あなたは、確かに“武”を持っておられる」


 そして、深々と頭を下げる。


「この身、この力、

 すべて御屋形様にお預けいたします」


 こうして。


 魔王国は、一滴の血も流すことなく、完全に統一された。


 魔王コウイチの名は、

 “戦わずして勝ち、

 戦えば必ず制する魔王”として、

 静かにエルディア全土へ広がっていくのだった。

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