目覚めたら魔王でした
──声が聞こえた。
「……魔王様。お目覚めください」
やけに澄んだ声だった。
目を開けると、見知らぬ天井が視界に入った。
黒曜石のように光を吸い込む天井、やたらと高い。装飾も無駄に豪華で、正直、落ち着かない。
「……え、どこ、ここ」
体を起こそうとして、僕は固まった。
正面に──とんでもなく綺麗な女性が立っていたのだ。
銀色に近い淡い髪。整いすぎている顔立ち。どこか人間離れした雰囲気。
美人、という言葉では足りない。現実感がない。
「おはようございます、魔王様」
にこり、と完璧な微笑み。
「……え、あの……誰?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
すると彼女は一瞬だけ首をかしげ、それから丁寧に一礼した。
「私はレリィ。魔王様の側近を務めさせていただいております」
「……側近?」
嫌な予感がした。
レリィは、まるで天気の話でもするかのような調子で、こう言った。
「あなたは魔王として生まれ変わりました。おめでとうございます」
「…………はい?」
一拍、間が空いた。
「ま、魔王? あの? 漫画とかファンタジーに出てくる、世界を滅ぼすやつ?」
恐る恐る聞き返すと、レリィは困ったように微笑んだ。
「まぁ、そう思ってしまうのも仕方ないですね」
肯定するんだ、そこ。
「ですが、魔王様は世界秩序を守る存在です。
光あるところに闇があり──という言葉をご存じでしょう?」
「いや、まぁ、聞いたことはありますけど……」
「光と闇が、ちょうどよいバランスを取らなければ、世界は滅んでしまいます。
その“闇”の役割を担うのが、魔王様なのです」
さらっと、とんでもないことを言われた。
「いやいやいや。いきなりそんなこと言われても……
それより、なんで僕はここにいるんですか?」
僕は現実逃避気味に話題を変えた。
レリィは少しだけ視線を伏せ、しかしすぐにいつもの丁寧な表情に戻る。
「実は──魔王様は、数千年前にすでに亡くなっておられます」
「……え?」
「このたび、魔王様をお呼びする際に、冥府より適性のある魂をサルベージさせていただきました」
……今、さらっと物騒な単語が聞こえた気がする。
「それが、あなたです。コウイチ様」
「ちょ、ちょっと待って。
要するに、僕、死んでるってこと?」
「はい」
即答だった。
「そしてここは、魔王の玉座の間です」
改めて周囲を見る。
黒い玉座、赤い絨毯、やたら禍々しい装飾。
「……あのさ」
嫌な汗が背中を伝う。
「じゃあ、僕が生きてた世界はどうなったの?」
レリィは、少しだけ言いづらそうにしながらも、はっきりと告げた。
「率直に申し上げますと──魔王様たちの人類は、滅亡なさいました」
「……は?」
「正確には、この星の外へ旅立たれました。
現在、この星には新人類が住んでいます」
頭が追いつかない。
「えっと……新人類?」
「魔王様に分かりやすく申し上げますと──」
レリィは微笑んだまま、指を立てた。
「エルフやドワーフ、魔物たちが存在する、いわゆる“ファンタジーな世界”です」
「…………」
僕はしばらく言葉を失い、やがて小さく呟いた。
「……マジか」
どうやら、とんでもない未来に来てしまったらしい。
しかも、魔王として。




