第6章(1)「主役魔法少女の意地」
フォグシーは近くにある箱バンの中に置かれたモニターから魔法少女ドキュメンタルの映像を――ティアラビイの様子をつぶさに観察していた。
何事もなくエンディングテーマが流れるテレビの映像。
熊の人形のような姿をしたフォグシーは、その脚を揺らして苛々をつのらせていた。
(どうして、どうして僕の力で見つからないんだ……!)
グランダーが襲撃されたあの日から、襲撃者と思われる魔法少女を探す事にしたが、それが全く見つからない。
魔法少女ドキュメンタルのプロデューサーである以上、フォグシーには放送局の魔法少女の個人情報まで調べることが出来る権力を持っていた。
その権力をもって襲撃者となるあの魔法少女の事を探してはみたが、一向に見つかる気配もない。
顔も魔法もある程度見ているはずなのに、どこにも該当する魔法少女の情報が無いのだ。
魔法少女ドキュメンタルに関わる魔法少女たちはもちろんのこと、少なくとも放送局のすべての魔法少女を洗い出した。
それでも見つからないのだ。
(……何かがおかしい。誰かがあの襲撃者に力を貸しているとしか)
フォグシーは自身のプロデューサーとしての勘から、何かおかしな事が起きていることを察知していた。
他局からの陰謀か何かだろうか、という事も今は念頭に置いている。
もちろんそうなのであれば放送局に所属する人間として、謎の魔法少女たちの存在を抹消するのは当たり前の行動だ。
放送局が管轄している魔法少女の力は、妖精の国から与えられたものだが、犯罪や軍事などへの利用はもちろん禁止されている。
だからこそ放送局はその魔法少女をかなり慎重に取り扱いしているのだ。万が一放送局に与えられた魔法少女の力が誰かに悪用されたと知れれば、打ち切られてしまう可能性もある。
ただフォグシーは全く別の点で怒りを顕わにしていた。
自分の番組が謎の魔法少女たちにぶち壊されており、その怒りのぶつける先が全く見当たらないのだ。
我が子同然の番組の中で理想を追い求めてきたプロデューサーとして、バカにされているようで腹立たしかった。
ジェンハリーたち魔法少女たちの事は正直どうでも良い、ここでティアラビイが殺されようが構わない。魔法少女など腐るほど替えがいるのだから。
だが自分の築き上げてきた番組はたった一つだ。それを邪魔する奴は、どうしてもこの手で殺してやらないと気がすまなかった。
「フォグシーさん、奴らがやってきました。警備を突破して、ティアラビイさんの方へと」
「――来たね、死にぞこないのクソったれ共が」
フォグシーは白い箱バンから出て、小さい体で朝日を見上げる。この太陽が上りきる頃には、自分の思い描く魔法少女ドキュメンタルが戻っている事を信じて。
* * *
青い髪を靡かせて、ティアラビイは路地裏の狭い空間で、二人の魔法少女を前に、善戦していた。
得意の水魔法と、その温度を一気に下げて凍らせる魔法を駆使し、敵の魔法を完全に弾いて、時に敵に攻撃をしていた。
ティアラビイは小学生の頃からバレエを習っており、スケートの要領で敵の攻撃を避け、そして懐に飛び込んでいく。
対して謎の黒い仮面の魔法少女は、氷の地面で思うように動けず、そもそもこちらの攻撃を避けることすら出来ていなかった。
炎の魔法を使う魔法少女は地面の氷を溶かしながら進んでくるが、その時点で魔法を使っているため、こちらも防戦一方。
ティアラビイの方が形勢は有利になっていた。
一つの攻撃の波が終わり、謎の魔法少女二人はティアラビイの攻撃範囲から外れ息を整える。
(はあ……はあ……思ったよりも消耗が激しいわね)
ティアラビイは少し大人びた、ふっくらした唇が、自らの呼吸で乾いていくのを感じる。
ティアラビイも魔力の消費量が激しく、息を荒げているのは同じだった。
普段ならこの時点で倒れそうなティアラビイが、この二人に善戦しているのは、ジェンハリーとグランダーの敵討ちに燃えた、一人の魔法少女の意地によるものだった。
ティアラビイは昨日の事を思い出す。
ティアラビイは魔法少女専門の病棟の一室で眠っている、ジェンハリーとグランダーの前に座っている。
二人は謎の魔法少女――世間一般では悪の組織と呼ばれている奴らに魔力を取られ、魔法少女として再起不可能になっていた。
医者からは命に別状は無いと言われているが、魔法少女を続けるのは難しいという。
意識のない二人の寝顔を見つめ、ティアラビイは音もなく握りしめた拳を震わせながら、敵対した魔法少女たちを思い出す。
確かに自分たちはやっかみを受ける立場ではあるが、それによって魔法少女としての権利を剥奪される覚えはない。
ブルーム・ティアラビイは、ジェンハリーとグランダーと仲良しだった。ここ最近はグランダーの自己顕示欲が増して暴走することはあれど、ジェンハリーはティアラビイに出来ないことをどんどんやってのける行動派で、ティアラビイには真似をすることが出来なかった。
歪みはあったかもしれないが、三人はいつまでも仲良く過ごすはずだった。
だが今はこの有り様だ。魔法少女はもう自分しかいない。
……そして予想通り、次は自分が狙われている。
ティアラビイは乾いた唇を舌先で湿らせながら、襲撃者の二人を氷のように鋭く睨んだ。
『ティアラビイ、聞こえているかい?』
無線イヤフォンから聞こえてきたのは、フォグシーの声だった。
ティアラビイは睨みを弱めずにはいたが、意識を自らの耳元へと向ける。
「はい、聞こえてます」
『僕も今駆けつけてる、それまで持ちこたえていて!』
「……わかりました」
その了承に返すフォグシーの言葉は無かった。
フォグシーとの連絡が切れて、ティアラビイは苛々をつのらせる。
フォグシーは自分に対して、襲撃していた魔法少女たちの殺害を命じていた。
元々魔法少女ドキュメンタルのプロデューサーであるフォグシーの命令には逆らうことが出来ない。それにここ最近のフォグシーはかなり機嫌が悪く、自分の言うことには口を聞かなかった。
ティアラビイに断る権利は実質なかったが、彼女はむしろそれを快諾する。
親友二人をあんな状態にまで追いやった犯人を、自分の手で殺すことが出来るのだから。
しかし先程のフォグシーの反応から察するに、フォグシーは自分が二人を止められるとは思っていないのだろう。
(……上等だわ)
なめられたもんだ、とティアラビイは唇をぎゅっと噛み締め、二人の敵討ちの決心を更に強める。
目の前の友人を助けられない奴が、本物の魔法少女であるはずがない。
ジェンハリーとグランダーが倒れている以上、自分こそがブルームの名を冠する最後の魔法少女だった。
だからこそ、自分は二人の分まで戦わなければいけない。その勇気がブルーム・ティアラビイに力を与えている。
鬼気迫る表情のティアラビイに、目の前の襲撃者たちは気圧されているように見えていた。




