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第4章(1)「承認欲求」


『花にも命があるんだよ 楽しく咲かなくちゃ!』


 今日も怪物を倒し、エンディングテーマがイヤフォンから流れる。

 怪物を倒して路地裏に入ったグランダーの表情は、表向きの作られたものから一転、口角を下げて棘のあるようなものへと変わった。その足取りも、何かに苛ついているように速い。

 ここ最近のグランダーは警戒していた。ジェンハリーの事件以降、魔法少女ドキュメンタルは終わること無く、むしろグランダーを倒した新しい敵――怪物を生み出している悪の組織の一員の登場に視聴者が沸き立っている。

 自分は以前の配信で、ジェンハリーを殺した謎の存在に対して立ち向かうという、健気な一面を視聴者に見せた。

 グランダーの信者たちはもちろん彼女の怒りに同調し、ネットでは犯人に対して非難轟々の声が上がっている。少なくとも世間はこちらに追い風だ。

 自分たちのシーズンで魔法少女ドキュメンタルに爆発的な盛り上がりが出て、グランダーは一安心している。それはグランダーが作り出した、悪の組織に対する直接対決、という構図によるものが大きい。


 しかし反面、ジェンハリーが倒されたことも事実である。グランダー曰く戦闘狂のジェンハリーが、呆気なく倒されてしまった事については、重く受け止めなければいけない。

 グランダーは相手がかなりの手練れであることを理解し、警戒を続けていた。

 ジェンハリーが狙われたのは、魔法少女ドキュメンタルが終わった後すぐだ。怪物と戦った後はこちらが消耗しており、相手に有利な状態になる。

 ジェンハリーはいつも全力で怪物にぶつかっていた。彼女の戦闘が映えるのはそれが理由だし、グランダーも見栄え的な視点では参考にしたことがある。

 しかし今は悪の組織の襲撃に備えて、魔力を温存しなければならない。


 怪物を倒すことに慣れてきたグランダーは、魔力を温存する事を覚えてきた。今のグランダーもしっかりと魔力を温存できている状態で、しかもジェンハリーの件があってからは魔法少女ドキュメンタルの警備の魔法少女が増えた。こちらも警戒している以上、相手も消耗は避けられないはずだ。

 グランダーは一息ついて、辺りの音に耳をすます。


(――来てる)


 グランダーの耳に届いたのは、少し遠くから聴こえる爆発音。

 怪物を倒した後なのに戦闘の様子が聞こえるのは、襲撃者が来たという何よりの証拠だ。


「フォグシー、聞こえてる?」


 グランダーはスカートのポケットからスマートフォンを取り出し、自分たちを魔法少女へと変身させてくれたマスコットの名前を呼ぶ。


『聞こえてるよ。悪の組織の奴らが来たみたいだね! 逃げよう!』


 魔法少女と会話するに相応しい、子供向け番組の声優のような可愛らしい声が、グランダーのスマートフォンと繋いだワイヤレスイヤホンから流れた。


「うーん……」


 しかしグランダーは、フォグシーと呼んでいる通話の相手の提案を無視して、その場から立ち動かない。むしろ彼女の体は、先程彼女の耳に届いた爆発音の方を向いている。


『ジェンハリーの敵討ち? やめておいた方が良いよ!』


 グランダーを心配するように焦る声が、彼女の耳に届いている。しかし彼女は忠告を気に留めず、足元のアスファルトへ向けて手のひらをかざした。


「まさか。ここであいつらを倒したら、グランダーの視聴者が喜んでくれるもん」


 ジェンハリーがそう告げた瞬間、数多の魔法陣が路地裏の細い道に展開される。稲光がバチバチとグランダーの周りに発生し、彼女の黄色いふわふわの髪を逆立てた。

 そして魔法陣の展開が終わり、アスファルトから稲光が見えなくなった頃、いよいよ襲撃者はやってくる。


 グランダーは立ち上がり、襲撃者たちを冷たい瞳でじっと見つめる。

 襲撃者は二人いた。黒い仮面に黒いコート、姿を見せたくないのが丸わかりのファッションでグランダーの方へ顔を向けている。

 彼らがジェンハリーを葬った奴に違いない。二人いたとは思いもよらなかったが、グランダーの倒せる許容範囲内だった。

 ここで自分がジェンハリーを殺した襲撃者たちを倒せば、グランダーのシナリオは最高潮を迎える。

 今のグランダーは、仲間が魔法少女としての生命を絶たれ、敵討ちに燃える親友の魔法少女だ。それが成就された時に発生するカタルシスは、計り知れないものがある。少なくともグランダーの読んでいた漫画では、そういった展開が人気を博していた。

 自らの人気を最高潮にまで押し上げる最後の鍵を目の前に、グランダーは笑顔を浮かべる。その笑顔には、打算的な考え方から生まれた闇が漏れ出ていた。


「こんにちは、悪の組織の皆さん。悪いけどグランダーのために、ここで倒されてくれませんか?」


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