二人で握る刃
襲撃から一夜明けた。
レイナとユリウスは、森の小屋に戻っていた。
静かな朝。鳥の声が穏やかに響く。
「……さて、話してもらおうか」
レイナはユリウスの正面に座り、鋭い視線を向けた。
だがその目には、昨夜ユリウスが戦った時に見せた勇気への信頼もあった。
ユリウスは深く息を吸い、語り始めた。
「僕は、帝都の近衛だったんです。剣の腕も買われていました。
けれどある任務で、王族の汚職に巻き込まれ……口封じのために仲間を失いました。
生き残った僕は逃げるしかなかった。そして、名前も捨ててこの地に流れ着いたんです」
「……なるほどな」
レイナは短く言うと、顎に手を当てて考え込んだ。
思ったよりも重い過去だった。
だが、彼は戦った。今も自分の隣で、恐れずに立っている。
「つまり、お前を狙ったのは、あの時の連中か」
「はい。王族の血筋と結びついている“あの人”が、僕を追い続けているんです。
レイナさんを巻き込みたくなかった……でももう、言い訳できません」
ユリウスは顔を上げた。
その目は、逃げていた頃の彼とは違う──剣を取り戻した戦士の目だった。
「……なら、これからは二人で戦うだけだ」
レイナはゆっくりと言い、腰の剣をすっと持ち上げた。
そしてユリウスの短剣と合わせるように、その刃を彼の前に差し出す。
「ひとりでは守れないものも、二人なら守れる。
そうだろ?」
ユリウスは驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべ、短剣をレイナの剣にそっと重ねた。
かしゃり、と小さく金属が触れ合う音が、静かに響く。
「はい。もう逃げません。レイナさんとなら、どんな敵も恐くない」
そう言って視線を交わした瞬間──
ふたりは自然に手を重ね合っていた。
剣よりも温かい、けれどどこか同じくらい強い想いが、指先から伝わってくる。
レイナは少しだけ頬を赤らめながら、視線を逸らす。
「お前、昨日から急に……口が上手くなったな」
「そ、そうですか!? いや、必死で言葉を選んでるんです……!」
必死に弁解するユリウスに、レイナはふっと笑った。
鋭い剣しか知らなかった自分が、こうして誰かと笑い合える日が来るなんて──
ほんの少し前まで想像もできなかった。
その夜、ふたりは剣の稽古を始めた。
背中を合わせ、足音を合わせ、呼吸を合わせる。
「右から来るぞ」
「はい!」
息を乱さず、連携を重ねるごとに動きは鋭さを増していく。
稽古を終えたとき、ふたりの間にあった迷いや壁はもう消えていた。
「レイナさん……ありがとう。僕は、剣を取り戻せた。
そして……レイナさんと、こうしていられて、本当にうれしいです」
「……お前が隣にいるのは、悪くない。
私も、戦う理由が増えた気がする」
小屋の外には、月が雲間から顔を出していた。
月明かりの下、ふたりの剣はもうひとつに重なり──
その絆は確かなものになっていた。