強者の誇り、弱者の勇気
静かな夜が明ける前。
森を裂くように、馬の蹄音が響いた。
冷たい空気を切り裂いて、漆黒の外套を纏った一団が小屋へ迫ってくる。
「来たか……!」
レイナは剣を抜き、ユリウスは短剣を握りしめた。
ふたりは無言で頷き合うと、小屋を飛び出した。
森の開けた場所で、彼らを迎えたのは十人以上の武装した兵。
その中央で馬を降りたのは、銀色の甲冑をまとったひとりの女だった。
冷ややかな金髪、鋭い眼光、纏う空気は圧倒的な“王族の剣”。
「久しいな、ユリウス。死んだかと思っていたが、生きていたか」
その声は低く、威厳に満ちていた。
レイナは彼女を見据え、わずかに目を細める。
「……あれが“あの人”か?」
「はい。あの人は、王家直属の騎士長──
そして僕を、ずっと追っていた人です」
女騎士はレイナに視線を移す。
「そこの女……随分と腕は立つようだが、ユリウスを守るというのか?」
「当たり前だ。お前が誰であろうと関係ない。
彼は私の──」
レイナは言いかけて、少し頬を赤くした。
「……大事な戦友だ。渡すわけにはいかん」
女騎士はうっすらと笑った。
「強者の誇りか。だが、私は王に仕える身。
弱者が生き延びるために真実を曲げるなど、許されぬ」
その言葉と共に、周囲の兵が一斉に剣を抜く。
だが、レイナもユリウスも一歩も引かなかった。
「行くぞ!」
「はい!」
激しい剣戟が始まった。
レイナは二人分の敵を引きつけ、鋭い剣筋で次々と押し返す。
ユリウスも短剣を駆使して、死角から迫る敵を仕留めていく。
ふたりの動きは完全に連携していた。
まるで長年の戦友のように──
「レイナさん、右!」
「分かっている!」
背中合わせに展開し、攻撃をさばき、反撃する。
重なる息遣いが、二人の絆の強さを示していた。
だが、女騎士は悠然とその様子を見ていた。
そして静かに剣を抜く。
淡く光るその刀身からは、並外れた気配が滲み出ていた。
「──これが、王家の剣だ」
彼女の動きは、目に映らないほど速かった。
レイナが防御を試みるが、受けた瞬間に腕が痺れ、剣がわずかにぶれる。
「くっ……!」
「レイナさん!」
ユリウスはとっさにレイナの背に回り込み、短剣で攻撃を受け止めた。
その一撃は重く、ユリウスは膝をつく。
けれど、その顔には恐れより強い意志があった。
「僕はもう、逃げません! 大事な人を守ると決めたんです!」
震える腕で短剣を振るうユリウスに、女騎士は目を細めた。
「弱者が……己を超える意志を持ったか。
だがその程度で──」
女騎士の剣が振り下ろされる、その瞬間──
「甘いぞ!」
レイナの叫びと共に、彼女の剣が再び閃いた。
痺れた腕に力を込め、真横から女騎士の剣筋を断ち切るように叩きつける。
鋭い金属音が夜に響き渡り、互いに距離を取った。
「……見事だ。貴様らの覚悟、確かに見せてもらった」
女騎士は深い息を吐く。
そして剣をゆっくりと収めた。
「今ここで命を奪うより、王に直接会わせた方が面白そうだ。
貴様ら──帝都に来い。王の前で、その剣と覚悟を見せてみろ」
女騎士が兵を連れて去った後、静寂が戻った森で。
レイナはユリウスの手を取り、しっかりと握った。
「ユリウス。帝都に行こう。
今度は、お前だけじゃない。私がいる」
「……はい。ありがとうございます、レイナさん」
ふたりは夜明けの空を見上げた。
そして互いの手を離さぬまま、光の差す方へ歩き出した。




