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「最強の女剣士」と「最弱の料理人」は教え合う

作者:イスコ
その女の名はレイナ・ヴァルティス。
 剣の道を極めし者。かつて百人の騎士を一人で退け、「蒼の死神」と呼ばれ恐れられた。

 だが、村の子どもが彼女を見上げる時、憧れではなく怯えの眼差しを向ける。
 商人たちは目を逸らし、旅人は彼女を男と間違える。化粧もせず、髪は短く、所作は荒く。
 誰もレイナを「女」とは見ない。

 そんな彼女の元に、一人の男が訪れた。

「……剣を、教えてほしいんです」

 男の名はユリウス。細身で、力もなさそうで、どこか頼りない。
 だが目だけは真っ直ぐで、嘘のない光を宿していた。

「お前が? 剣を?」

「はい。僕にも……守りたいものが、あるんです」

 仕方なく、レイナは教えることにした。半日で逃げ出すと踏んでいたからだ。
 だが──

「ユリウス、飯はまだか」

「もう少しです。今日は山菜のスープと、干し肉の赤ワイン煮ですよ」

 彼は料理が……いや、家事すべてが異常に上手かった。
 特に料理は絶品。口に入れた瞬間、レイナの眉間がゆるみ、思わずため息が漏れるほど。

 いつしか彼女は、剣を教える代わりに料理を教わるようになった。

 剣術指南の合間に、台所で包丁を握る二人。
 刀の柄よりも軽やかに、レイナは鍋をかき混ぜる。

「……なんで、私がこんなこと……」

「へへ、でも似合ってますよ。エプロン姿、かっこいいです」

 その言葉に、レイナは頬を赤らめた。

 誰も自分を「女」として見てこなかった。
 だがこの男は──恐れず、侮らず、ただまっすぐに自分を見ていた。

 ──こうして、「最強の女剣士」と「最弱の料理人」は、ゆっくりと心を寄せ合っていく。
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