表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
右手右足を失ってもセリアさんは、負けない!  作者: 山田 バルス
セリアさん、魔王討伐に向かう。
9/56

第9話 マルシアさん、始動!悪は絶対に許さない!

 朝食の席で、マルシアが唐突に言い出した。


「わたしも魔法団に入りたい!」


 ヨシキはすぐに否定した。


「まだ十歳だ。早すぎる」


 だがマルシアは引き下がらない。


「わたしはハーフエルフだから、人間よりも魔法の素質があるの。十歳でも問題ないわ」


 ヨシキは顎に手を当て、しばし考え込んだ。確かに、彼女の言うことにも一理ある。どうせ断っても納得しないだろう――そう思うと、彼は小さく頷いた。


「わかった。試験をしよう。もし魔法の才能が認められれば、入団を許可する」


「わたし、絶対に合格するわ!」


 結果は見事なものだった。マルシアは試験を優秀な成績で突破し、驚くほどの才能を示した。さすがはエルフの血を引くだけある。しかし、ヨシキはそれでも心配だった。年端もいかぬ少女に無理をさせるわけにはいかない。けれど、無下に断れば、彼女の悲しみと怒りが思わぬ方向へ向かうかもしれない。結局、彼は渋々ながら入団を認めた。


 それからの日々、マルシアは昼間の訓練に励み、夜はヨシキと魔法理論を語り合った。やがて、魔物討伐の戦場にも立つようになり、その実力は目覚ましい勢いで成長した。五年後、彼女はわずか十五歳で第二魔法団の副団長に就任した。王国史上、最年少の副団長誕生であった。


 しかし、その平穏な日々は突如として破られた。


 マルシアの十六歳の誕生日を一週間後に控えたある日、王都に緊急の報せが届いた。北方の辺境伯領が、魔王四天王の一人、キャンドラーの襲撃を受けたという。


 第二魔法団の二十名と、第二騎士団の百名が転移魔法により戦場へと向かった。激しい戦闘が繰り返されたが、四天王キャンドラーの圧倒的な力を前に、味方の被害は甚大だった。次第に戦線は崩れ、辺境伯の城も落城の瀬戸際にあった。


「ここを守らなければ、王都まで危ない!」


 必死に叫ぶマルシアの声を聞きながら、ヨシキはふと彼女を見つめた。


「大きくなったな。そして、綺麗になった」


 突然の言葉に、マルシアは目を瞬かせた。


「何を言ってるの?」


「楽しかったよ。お前と過ごした日々は――最高だった」


「ヨシキ?」


「スリープ」


「えっ……な、何……?」


 マルシアのまぶたが、抗いがたく閉じていく。意識の隅で、彼の声が最後に響いた。


「愛している。どうか、幸せになれ」


 それを聞きながら、マルシアは深い眠りへと落ちた。


 ヨシキはエイミーに命じた。


「マルシアを連れて、王都へ戻れ」


「団長は……どうされるのですか?」


 ヨシキは静かに微笑んだ。


「未来を切り開くための、最後の賭けをしてくるよ」


 エイミーは敬礼し、震える声で叫んだ。


「団長に栄光あれ!」


 翌日、目を覚ましたマルシアは、すぐさま辺境伯領へと転移した。だが、そこにヨシキの姿はなかった。ただ、彼が戦った痕跡だけが残されていた。


 城の遥か彼方には、巨大なクレーターが口を開けていた。ヨシキとキャンドラーが激突した場所だった。戦場にいた者たちは後に語った。凄まじい爆音と爆風が大地を揺るがし、その後、二人の姿を見た者はいなかった、と。


 マルシアはただ、立ち尽くしていた。風が吹き抜ける。誰も彼の帰りを告げてはくれなかった。






 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ