第6話 トシ、目の前に美少女が現れる。
「ぼ、ぼくは死んでしまうのか……」
意識が薄れゆく中で、大谷トシは己の死を予感した。身を蝕む痛みと冷たさが、彼を深い闇へと引きずり込もうとする。だが、その時、不意に遠くから、か細くも澄んだ声が聞こえてきた。
「た、大変!すぐに治しますね。ヒール!」
その声は、耳許で鳴る鐘のごとく、かすかな光を伴いながらトシの意識に差し込んだ。
「だ、大丈夫ですか?」
再び響く声に、彼はゆっくりと瞼を開いた。そこには、まるで春の花のごとき若き女性が、心配そうにこちらを覗き込んでいた。彼女と視線を合わせた瞬間、その顔に驚きの色が走る。
「恐ろしい兎のような獣に襲われ、大怪我を負っていたはずなのですが……」
その言葉に、トシは訝しげに己の身を検めた。驚くべきことに、先ほどまでの傷はすでに跡形もなく癒え、あの鋭い痛みもすっかり消え失せている。
「な、治っている? え、なぜ?」
不思議そうに呟くトシに、少女は静かに微笑んだ。
「異世界の治癒魔法、ヒールの効果です」
彼女はそう言いながら、柔らかな微笑を浮かべた。その微笑の温かさに、トシはどこか安心感を覚えた。
「わたしの名前はマルシア」
少女は、春風のような声で名乗った。その清らかな響きに、トシは一瞬言葉を失うも、慌てて口を開く。
「僕は大谷トシ。助けてくれてありがとう」
彼が名乗るや否や、マルシアは目を丸くし、何かに驚いたような表情を見せた。
「あなたを見て、感じたのですが……も、もしかして……だ、団長……いえ、大谷ヨシキさんを知っていますか?」
突如として耳にした日本の名に、トシの心は大きく揺れた。
「そ、それは……三年前に失踪した兄の名前……」
思いがけぬ兄の名に、彼は思わず息を呑む。マルシアは彼をじっと見つめ、頷いた。
「あなたはお兄さんによく似ています」
「兄が……この世界に来ているのか? どこにいるんですか!」
期待に満ちた彼の声に、マルシアの表情が一瞬翳る。しかし、すぐにその顔を引き締め、真剣な面持ちで語り始めた——。