第四話 トシ、異世界に召喚される。
恒例の異世界召喚です。
トシは天井を仰いでいた。そこに何があるわけでもない。ただ、目を閉じる気にはなれなかった。
大学の合格発表の日から、何もかもがどうでもよくなった。第一志望には落ち、滑り止めの大学に身を置くこととなったが、そこに満足を覚えることはなかった。授業は退屈で、人との交わりも億劫だった。気づけば大学に足を運ぶことすらなくなり、そして――留年の知らせが届いた。
「はぁ……」
溜息が漏れた。親の怒声が耳の奥にこびりついている。自分でも呆れるほどに、不甲斐ない。これが、望んでいた未来だったか。
トシは身じろぎし、ベッドの上で寝返りを打った。
「もう、いやだ……異世界でチートしてー魔王倒してー」
半ば冗談のつもりで呟きながら、スマホを手に取った。その指が、ゲームアプリを開こうとした瞬間である。
ピコン
不意に画面が光り、見慣れぬ文字が浮かび上がった。
「おぬしの望み通り、異世界に招待してやる。感謝するがよい」
「……は?」
思わず声を漏らす。何かの悪戯かとスマホの電源を切ろうとしたが、指が動かない。いや、指どころではない。全身が、まるで石のように硬直していた。
そして――
足元に、淡い光が滲むように広がった。
「なっ……!?」
目を凝らす間にも、それは床一面を覆い、やがて幾何学模様を描いた。魔法陣。そんな言葉が脳裏をよぎる。しかし、理解する間もなく、光は次第に強さを増していった。
世界が白に染まる。
意識が、遠のいた。