第二話 セリアさん、選択する。
セリアさんの右腕と右足の謎は?
剣を握りしめ、一人の女が戦場を駆けていた。名をセリアという。その剣の腕は群を抜き、剣聖の候補とまで称されるほどだった。彼女が先陣を切れば、敵は恐れおののき、味方は歓声を上げた。
正門へと向かったセリアたちが見たものは、すでに破壊された門だった。周囲は炎に包まれ、敵がひしめいていた。
「父さん……」
セリアは燃え盛る戦場の中、父の姿を探しながら剣を振るった。その刃は疾風のごとく閃き、敵を次々と斬り伏せていった。そして、戦場の奥で父の姿を見つけた。
「父さん、助太刀する」
「セリア、助かる」
「戦況は?」
「まずいな。このままだと持たない。そろそろ母さんのもとへ戻ったほうがいい」
父の言葉に従い、二人は自宅のある方角へと向かった。しかし、次の瞬間だった。
轟音とともに、彼らの自宅周辺が爆発した。炎が激しく燃え上がり、その一帯は跡形もなく焼け落ちた。
「か、母さん……?」
セリアの目の前に広がるのは、灰と瓦礫の山。母がいたはずの場所は、もはや何も残ってはいなかった。その光景を見つめるセリアの瞳が絶望に染まる。
「ファ、ファリーシア! よくも妻を……!」
怒りに震え、父は剣を振り上げた。その視線の先には、四天王のダイソーガンがいた。
「つ、妻の仇……!」
父は怒りのままに剣を振るい、ダイソーガンへと突撃した。しかし、その刃が届くことはなかった。ダイソーガンの放った火球が、父の身体を吹き飛ばしたのだ。
「父さん!」
セリアは駆け寄った。しかし、父の命はすでに尽きかけていた。
「す、すまない……セ、セリ……」
それが、父の最後の言葉だった。
セリアの中に、これまでに感じたことのない怒りがこみ上げた。彼女は迷うことなく剣を握り直し、ダイソーガンに向かって疾駆した。
「うおおおおおお!」
その一太刀は確かにダイソーガンをとらえた。しかし、すれ違いざまに放たれた魔法がセリアの右腕と右足を奪った。
「……くっ!」
セリアは地に伏した。身体が動かない。戦場の喧騒が遠ざかる。意識が沈み込む。
――誰でもいい。力が欲しい。あいつを倒す力を、私に……。
そのときだった。
炎をまとう異形の精霊が現れた。影の中からもう一つの存在が浮かび上がる。
「右腕をくれるならば、我がそれに代わろう」
「右足を差し出せば、我が汝の足となろう」
死か、生か。選択の時だった。しかし、セリアに迷いはなかった。
「……わかった。契約する」
闇に響く誓約の言葉。
その瞬間、炎が右腕を包み、影が右足を覆った。セリアは新たな力を得た。炎をまとう剣は敵を焼き尽くし、影の足は風のごとく駆けた。そして、再び戦場にその姿を現した。
敵を斬り、魔物を討ち、そして――
光速の剣が閃き、ダイソーガンを斬り裂いた。
戦いは終わった。街は守られた。しかし、セリアの心は何一つ守られてはいなかった。
彼女は倒れた父のもとへ駆け寄る。
「父さん……敵は討ったよ。街も守ったよ……」
焦げ落ちた自宅を見つめる。母がいたはずの場所。もう、何もない。
「母さん……ごめんね……。守れなくて……弱くて、ごめんね……」
セリアはその場にうずくまり、声を上げて泣いた。
夜の風が冷たく吹き抜けていった。