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KOBE MEMORIES  作者: 口羽龍
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 それは2025年の1月の下旬の事だ。今年は神戸にとって、特別な年の始まりになった。今年は阪神・淡路大震災から30年が経ったのだ。


 今から30年前の1月17日、マグニチュード7.3の大地震が発生した。6000人以上の人が犠牲になり、多くの人々が悲しみに暮れた。それから30年、神戸は何事もなかったかのように復興し、生まれ変わっていく。そして、阪神・淡路大震災を知らない人々が、経験していない人々が多くなってきている。


 だが、その痕跡が残っている部分もあり、30年前に神戸で大きな地震があったんだという事を後世に語り継ごうとしている。そして冬になると、鎮魂の意を込めて神戸ルミナリエが行われる。かつては12月に行われていたが、コロナ禍で中止になっていた。だが、コロナ禍が収まり再開されたら、1月の下旬に行われるようになった。そして今年は、1月24日から始まった。


 北区に住む生田希望いくたのぞみは小学5年生。阪神・淡路大震災を知らない世代だ。神戸に生まれ育った両親は阪神・淡路大震災を経験したものの、あまり覚えていないという。希望は阪神・淡路大震災の事を祖母から聞いたという。


 今日も学校を終えて、希望は家に帰ろうとしていた。明日は休みだ。家でゆっくりとしつつ、パソコンでもするか。


 と、希望は誰かに肩を叩かれた気がした。誰だろう。希望は振り向いた。


「ん?」


 振り向くと、そこには同級生の谷上勇気たにがみゆうきがいる。どうしたんだろう。


「裏山に変なのがあるんだって」

「変なの?」


 希望は驚いた。裏山とはこの小学校の裏にある山だ。昔はここに登る人がいたものの、今ではあまり登る人がいないという。その山がどうしたんだろう。何かの遺跡だろうか? 遺跡だったら、大発見だろうな。


「石なんだけど、変な模様があるんだ」


 変な模様。よくわからない。自分の目で見てみよう。きっと面白いものに違いない。


「えっ!? 面白そう。見たい!」

「いいよ! 明日、裏山に来て!」

「うん!」


 勇気は教室を出て行った。希望は思った。どんなものだろう。明日、勇気と一緒に見に行ってこよう。きっと面白いものに違いない。




 翌日、希望はその裏山にやって来た。裏山はアスファルトで舗装された道路がなく、獣道ばかりだ。もう何年も人が歩いていないようで、雑草だらけだ。本当にこんなのがあるんだろうか? 疑問に思えてくる。でも、自分の目で見てみたいな。


 裏山の中腹まで来た時、希望は勇気を見つけた。勇気は厚着を着ている。寒さ対策は万全だ。希望は勇気の後についていった。どんな場所にあるんだろう。とても気になるな。


「ここにあるの?」

「うん。ここなんだ」


 2人は獣道を歩いている。本当にここにあるんだろうか? 希望は疑わしくなってきた。


「どこだよー」


 しばらく歩いていると、石が見えてきた。この石だろうか? 明らかにおかしい。こんな山奥にこんなのがあるとは。いつ、だれがこんなのを作ったんだろう。


「これだけど」


 希望は近づいた。そこには石がある。石には何かが刻まれている。まるで時計の針のようだ。でも、どういう意味だろう。全くわからない。


「これは、何だろう」

「みんな知らないんだって」


 勇気はその模様の意味が全くわからない。同級生に聞いても、全くわからないという。


「そうなんだ」


 と、希望はその模様を見て、何かに気が付いた。時計の針の模様だとすると、これは何かの時間を表しているのでは?


「ん? 何だこの模様」

「これが気になってるんだよな」


 希望はその模様を触った。その模様には、何か意味がありそうだ。


「時計の針?」

「うーん、言われてみればそうだけど」


 勇気はその模様を見た。よく見ると、それは5時46分を指している。全くわからない。


「5時46分を指してる」

「これに何の意味があるんだろう」


 と、希望が反応した。それを見て、何かわかったようだ。


「ちょっと待って! 5時46分って何かで聞いた事がある」

「えっ!?」


 勇気は驚いた。希望は何かわかったんだろうか? ようやくその答えが見つかりそうだ。


「阪神・淡路大震災が起こった時刻だよ」


 希望が言うに、5時46分と言えば、阪神・淡路大震災が起こった時間だ。どうしてそんなのがあるんだろう。


「あー、おばあちゃんから聞いたあの話ね。この時間だっけ」

「うん。毎年1月17日は朝から何か騒々しいと思わなかった?」


 勇気はその時、ぐっすり寝ていて、全く覚えていない。だが、いつもに比べて両親がシャキッとしているみたいだ。もっと朝早くから起きているようだ。


「うん。朝からお父さんやお母さんがリビングにいたんだけど、まさかそれかな?」

「きっとそうだろう。あれが起きた1月17日の午前5時46分は、黙とうが行われるんだって。だから、みんな起きてるらしいよ」


 希望は知っている。毎年1月17日は午前5時46分になると、黙とうをして、犠牲になった人々の冥福を祈るのだと。


「そうなんだ。じゃあ、この模様の意味は、あれが起こった時刻を指してるって事?」

「そうだと思う。でも、どうしてこんなのがあるんだろう」


 希望は首をかしげた。それに、何の意味があるんだろう。今度、祖母に聞いてみようかな? ひょっとしたら知っているかもしれない。


「僕にもわからないよ」

「うーん・・・」


 と、希望は裏山から見える神戸の景色を見た。今から30年前の1月17日、神戸は1日にして焼け野原になった。かつて家族が住んでいたという新長田は商店街が焼け野原になり、大変な事になったと言われている。だが、今ではすっかり復興して、明るい雰囲気になっている。そして、新長田駅の近くには、震災復興と地域活性化のシンボルとして、神戸出身の漫画家、横山光輝の代表作、『鉄人28号』の等身大モニュメントがあるという。


「そういえば、あれからもう30年近くになるらしいね」

「僕らはその後に生まれたけど、神戸でこんな事が起こったってのを、これからも忘れずに語り継がなければならない」

「そうだね」


 突然、その石が光りだした。何が起こったんだろう。2人は呆然となった。


「ん?」

「光ってる。何だろう」


 突然、辺りが光に包まれた。2人は辺りを見渡した。何も見えない。


「うわっ!」


 あまりにもまぶしくて、2人は目をふさいでしまった。

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