幕間:天使の実験
人々が寝静まった深夜3時。
D級ダンジョン【第一歩の境界線】には二人の男の影があった。
「ふぅ……ここまで来るのも長かったな」
「あぁ。ダンジョンコアは、言わば心臓。そりゃあこんな深いところにあるってもんだ」
彼らがいるのは、ダンジョンの最下層。
普通では見つからず、入れない場所だ。
そんな場所を堂々闊歩できているのは、彼らが大天使――つまりはB級相当の実力を持っているから。
辺りは物々しい雰囲気を醸し出している。
そこまで大きくない石造りの部屋の真ん中に、紅く光り、心臓のようにドク、ドクと一定のリズムで動く球体がある。
これが、周囲に威圧と神聖な「何か」を感じさせる原因だ。
「そんで、このでっかいの――ダンジョンコアにこのナイフを突き刺せばいいんだな?」
彼の手には、赤色や紫色で複雑な模様が描かれたナイフがあった。
刀身が、ダンジョンコアの放つ鈍い光に反射して妖しく光る。
「そうだ。その聖剣【増血罪】を刺せばいい。俺たちの任務は出現する魔物のランクが上がったことを確認したら終了だ」
「分かった。じゃあ、やるぞ?」
あぁ、と男が頷くと、もう片方は両手で持った聖剣【増血罪】を振り上げ、思い切りダンジョンコアに突き刺した。
すると――ドク、ドクという鼓動が速さを増し、紅い光が更に輝き始めた。その度に聖剣【増血罪】は形を失い始め、最終的にはダンジョンコアに溶けて消えてしまった。
「これでいいんだよな?」
「恐らくそのはずだ。なにせ、この聖剣を造るまでにかなりの時間、だいたい5年は要したと聞く試作品だからな。成功かどうかは見ないとわからん」
「……そんな試作品が溶けてるのは大丈夫なのか?」
「それは大丈夫だ。聖剣と言えども、実際は注射器だ。使い回せないが、刺した対象に効果を及ぼす。全く同じだよ」
「なるほどなぁ……ちなみに邪魔が入る可能性はないのか?」
いきなりの質問攻めに、ため息がこぼれる。
しかし面倒であっても答えるのが天使の性。
気持ちが表情に表れまくっているも、腕を組みつつ言葉を紡ぐ。
「邪魔――それは闇組織たちのことだろ? あいつらは主天使様と権天使様の威圧ですんなり黙ったから大丈夫だ」
「魔将の腕とかドミナジオンとか暴走迷宮とか、特にやばい奴らはそれでも攻めてきそうだが」
「ま、主天使様がいる限りは大丈夫だろう。もし片方が亡くなられたとして、攻撃してくるようなバカならすぐ消し飛ぶだけだ」
「確かにな……」
そこでようやく満足したのか、遠くを見つめて呆然とし始めた。
やっと終わりか、とでもいいたげにまたため息をつく。
「んじゃ、魔物の確認して帰るぞ」
「りょーかい」
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