なんという格差! これがヒロインと悪役令嬢の違い。
「これは悪役令嬢の断罪ルートとしては、一番SAN値にダメージを与えるものでは!?」
腐っても公爵令嬢。妃教育を受けているなら、完璧な跡継ぎを生める――そんな妻を道具のように見ている発言に加え、万が一魔獣に狙われ、命を落としたとしても。悪女なら、痛くも痒くもない……なんて言われたのだ!
え、私の存在意義って何!?
国の英雄の妻になっても、それはお飾りであり、なんなら……。
「きゃっ」
いきなりレオニスに、肩から担がれていた。腐っても公爵家の令嬢なのに! 抱きかかえられるのではなく、こんな荒々しく、担がれるなんて……!
周囲の貴族が驚いてこちらを見ているだろうことも、なんなら離れた場所から国王陛下夫妻が見ていることも分かっているが。「おろしてください!」と大声を出し、私は暴れた。
だが、レオニスは騎士団の団長。
細マッチョだが、筋肉もあり、力もあった。まったくビクともしない。むしろそのしっかりとした肩、鍛えられた背筋を実感することになる。
「ジェニー、暴れるな。……暴れたければ、暴れても構わない。だが君のその細い体では、自分から逃げ出すのは、まず無理だろう。それに動く度に、君のその素晴らしいバストが背中に当たる。……実にいい感触だ。弾力がありつつ、柔らかさもある」
「なっ……!」
「それに足首を痛めているのだろう? よくその状態で、ヒールのあるパンプスを履いているな。公爵家の令嬢ともなると、ここまで我慢強いのか? いや、妃教育を受けるとこんなに忍耐強くなるのか? 違うな。ジェニファー・マリ・ラザフォードだからだろう。自分の弱みは決して見せない。誰かに弱さを見せるぐらいなら、例え痛みがあろうと、なかったように振る舞うのが、ジェニーなのだろう?」
レオニスの言葉に力が抜ける。
なぜ私が足首を痛めていることに、気づいたのだろう? 舞踏会が開始し、一時間経っていたが、誰も気づかなかったのに。
足首は、パトリックに突き飛ばされ、挫いていた。
舞踏会が始まる前に、パトリックとティアラと口論となり、その結果だった。
口論の理由は他でもない。
今日の舞踏会でパトリックは、私をエスコートすることになっていた。だが直前に突然、ティアラをエスコートしたいと言われたのだ。私としては、もう諦めの境地。だが、ゲームのシナリオの強制力で、自然と文句を口にしていた。そこはゲームの進行通り。
シナリオに沿い、私がティアラに詰め寄ると……唐突にパトリックが、私を突き飛ばしたのだ。そしてこれは、ゲームでは見たことがない展開。
おかげで足首を痛め、本来であればヒールなんて履いていられないし、歩くのさえ無理な状況だ。でもパトリックは私をエスコートしてくれないし、だがこの後は私の婚約破棄と断罪が待っている。ゲームの強制力もあり、私は痛みを我慢し、舞踏会の会場となるホールへむかったのだ。
この世界には魔獣が存在しており、魔法使いはいないが、錬金術師がいた。錬金術師は様々な薬を調合でき、偏頭痛持ちのジェニファーは、痛み止めのポーションを持ち歩いていたのだ。それを飲み、なんとか舞踏会に向かったものの。
そこまで強いポーションではなかった。婚約破棄と断罪の最中は、そのことで頭がいっぱいで、痛みのことを忘れていた。でも今、改めてレオニスから「足首を痛めているのだろう?」と問われると……。
痛い!
それは足首の痛みもそうだけど、心が痛かった。
悪役令嬢として、最悪なエンディングを迎えたことに!
今頃ティアラは、パトリックから「婚約者指名」という誕生日プレゼントをもらい、大喜びしているだろう。その一方で私は、いつ害されても構わないお飾り妻になる女として、レオニスに担がれている。
なんという格差! これがヒロインと悪役令嬢の違い。
涙が溢れそうになったその瞬間。
ふわりと優しく降ろされた。
気づけばレオニスが用意した馬車に、降ろされていたのだ。
これにはなんだか驚き、言葉が……出ない。担ぎ上げられた時は、かなり荒々しかった。でも今は、とても丁寧に馬車の座席に降ろされた気がした。
「!」
またも不意打ちだった。
優しく扱われたと驚き、すっかり気が緩んでいたら、顎を持ち上げられ、口を開けされていた。間髪を入れず、レオニスの顔が近づき……。
キスをされる――!
しかも口を開かせるなんて、いきなり濃厚なキスをするつもりでは!?
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全25話、サクッと一気読み!
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生!
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軌道修正してハピエンにいたします!』
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