女性と言うのは不思議な生き物だ。
トラヴィス王国には、二人の王女がいる。
リーデライナー・A・トラヴィス
マレシア・E・トラヴィス
襲撃犯が口にした名は、姉であるリーデライナー・A・トラヴィス。つまりは第一王女だ。
リーデライナーは、金髪の長い巻き毛に碧眼で、肌はつやつやとして、豊かなバストにくびれたウエストと、悪役令嬢ジェニファーに負けないナイスバディ。少し釣り目で、眉もキリッとして、見るからに気が強そうなタイプ。実際、第一王女としてちやほやされているのだから、勝気な性格をしていた。
襲撃犯からリーデライナーの名が出た時。まさか王女の名が出るとはと、レオニスからすると青天の霹靂だった。何度か勲章の授与式で見かけたことはある。だが会話などしたことはなかったという。
レオニスは、国民的英雄だ。それなのに、第二王子の婚約者でありながら浮気をしたビッチと婚約。嫉妬したどこぞの貴族の令嬢が、襲撃犯を雇い、私を襲わせたと推測していた。そしてその令嬢は……なんとこの国の第一王女だったというわけだ。
でも待って!
「あ、あの、レオニス様。リーデライナー王女は、レオニス様のことを好きだったのですか?」
「そうらしい。驚いた。女性と言うのは不思議な生き物だ。ろくに会話したことがない自分のことを好きになるなんて……」
王女は、政治の駒として利用される。ここぞという相手に、時に同盟国、利害が一致した隣国、国内の貴族に嫁がせるのが常套だった。そのために温存されてきたからか。リーデライナーは御年十八歳になったが、いまだ婚約者がいなかった。
さすがに駒として利用するにも、結婚適齢期もある。そろそろリーデライナーも、婚約しておきたい年齢になっていた。
「王女は、ろくに会話もしたことがない自分のことを、一方的に好きになっていたようだ。ただ、自身が王女という立場でもあり、自ら結婚したいと言い出しにくい状態。その一方で、リーデライナー王女には今、縁談話が沢山持ち込まれていた」
つまりリーデライナーは、同盟国や隣国へ嫁ぐ機会がないまま、結婚適齢期となった。そうなると、国内の有力貴族へ降嫁することになる。
結婚適齢期と言えば、レオニスもそうだった。レオニスの場合、適齢期さえ過ぎているが、それは魔獣討伐に明け暮れていたためだ。ゆえに婚約者がいないことは自然な結果だった。
共に婚約者がいない身。そして結婚してもおかしくない年齢。さらにリーデライナーはレオニスのことが好きだった。もう政治の駒として利用されることもない。ならば好きな相手と結ばれたいと、リーデライナーは考えた。
「自分はこれでも国民的英雄と言われている。そんな自分と王女の結婚なら、国王陛下も文句はないと。リーデライナー王女は、自分との結婚について、父親である国王陛下に近々話すつもりでいたようだ」
思い起こせば、レオニスと会うことになった舞踏会で、国王陛下は王女を降嫁させてもいいと確かに言っていた。
つまり国王陛下も、レオニスとであれば、リーデライナーとの結婚も認めると宣言したようなもの。これにはリーデライナーもさぞかし喜んだかと思いきや……。
誤算が生じる。
そう、私、だ。
突如現れた私により、リーデライナーの目論見は崩壊する。
「私が現れたことで、リーデライナー王女は、レオニス様を手に入れることはできなくなった。それでも王女は、レオニス様への想いを諦めきれなかったということですね?」
「その通りだ。何より自分の言葉で、王女は勘違いしてしまったようだ」
国王陛下は、王女を降嫁させても構わないと言っていた。対してレオニスは、妻を娶ったとなれば、魔獣は妻を狙うと指摘。そしてその妻が王女であれば、団長を退き、王女を守ることに専念すると言ったのだ。
これを聞いたリーデライナーは、その理由に納得し、同時に期待することになった。
レオニスは、愛のない結婚相手を選んだ。愛がなければ万一があり、その妻が命を落としても、悲しまないで済む。対して王女を妻とすれば、団長を辞めてでも守ることになる。
「つまり私……悪女から婚約破棄させ、レオニス様には自分のことを愛し、守って欲しい。そうリーデライナー王女が考えたということですね」
「そうなる。しかも、もたもたとしていると、リーデライナー王女自身も、誰かと婚約させられてしまう。やるなら今しかない――そう思い、動いた」
つまり金で傭兵を雇い、私を襲撃させた。そしてエアリルを盾に脅迫。直接私を害さなかったのは、もしもの時の自身の保身のためだ。それに私が公爵家の令嬢だったというのも理由の一つだという。
「ジェニーが男爵家の令嬢だったら、まわりくどいことはせず、手に掛けていたというのだから……」
「今、話したことは、全て襲撃犯が話したのですか?」
「違う。驚いたことがある。襲撃犯を口止めのため、毒殺しようと、リーデライナー王女自身が動いたんだ」
それはどういうことか?
襲撃犯は下っ端に過ぎない。私を襲撃するよう指示を受け、金をもらい動いただけだ。私がどういう理由でひどい目に遭わなければならないのか、その理由も教えられてはいない。それでも私は王都で、話題の令嬢になっていた。
捕らえられた襲撃犯が推測からベラベラ話すことで、自分に辿り着かれたら困る。
そう考えたリーデライナーは、王女という立場でありながら、自ら動くことにした。しかも侍女一人だけを連れて!






















































