入浴中だっ……
急に魔獣討伐に出た理由、ちゃんと教えてもらわないと!
他にも聞きたいことは山ほどある。
伝令が帰還を伝えたということは、レオニスの帰還は夕食後、くらいかしら?
そこで私はレオニスに、魔獣討伐の労をねぎらいつつ、「落ち着いたら二人で話す時間を作ってください」ということなどをしたためた手紙を書き、部屋に届けることにした。
手紙を書いていると、双子の騎士が同時に、本から顔を上げる。
「……外が騒がしい気がします。確認に行ってまいります」
ネープルスが部屋を出て行き、程なくして私は手紙を書き終えた。そこでロゼリオに声を掛け、レオニスの部屋へ手紙を届けに行くと伝える。
本当はエアリルに届けてもらえばいいのだろうが、この時間帯、使用人の多くは夕食の準備で忙しい。よって自分で出向くことにしたのだ。
ロゼリオは快諾し、私についてレオニスの部屋へと向かう。
「!」
レオニスの部屋から、従者が足早に出て行くのが見えた。
私達とは反対方向に小走りで向かい、距離があるのでこちらには気づいていない。
帰還の知らせを受け、準備をしていたのね。
レオニスの部屋の扉の前に到着したので、ノックすると、現れたのはネープルス。
「ネープルス?」
「ラザフォード公爵令嬢! レオニス団長は既にお戻りになっています。今、入浴をされながら、自分の報告を聞いていたところです」
レオニスは夕食に間に合うよう、帰還を急いだ。その結果、屋敷への到着が、伝令の早馬とほぼ同時刻になっていた。
「そうなのね。入浴中だっ」「ジェニー」
ネープルスの後ろから姿を見せたレオニスは、まさに入浴を終えた直後だった。しかも私が来たと分かったからだろう。バスローブ姿で現れたのだけど……。
無造作に羽織っただけのバスローブは、胸元が大きく開いている。
まだ湯気が感じられるその肌は血色がよく、胸筋に見える古傷さえも、セクシーに思えた。見事に割れた腹筋まで見え、息を呑む。
さ、さすが騎士団の団長。そしてこの国の英雄だけあるわ。見事な体躯……!
「なんだ。いきなり欲情しているのか?」
「ち、違い……ます」
いや、違わない。そんな今すぐレオニスに抱かれたいなどとは思わないが、魅了されているのは事実。
「無事のご帰還に挨拶へ来たまでです。お帰りなさいませ、レオニス様」
ともかく見事な胸筋と腹筋に目が釘付けになったことを誤魔化したいと思い、踵を返すと。
「待て」とばかりで腕を掴まれる。
驚いて振り向くと、清涼感のある香りを鼻孔に感じた。
つまりレオニスに抱き寄せられ、チークキスをされている。
「わざわざ、ありがとう、ジェニー」
少しハスキーなささやきを耳元でされ、熱い息もかかり、一気に全身が熱くなる。
しかも目の前にレオニスの素肌が見えていた。
そこはかとなく感じてしまう、レオニスの男の色気。
レオニスから解放され、一度部屋に戻った。そして夕食のため、ダイニングルームへ向かっても。あの素晴らしい体と、耳にかかったレオニスの熱い息ばかりを思い出してしまう。
ダイニングルームに、自身の両親と共に着席するレオニスは、白シャツを着て、コバルトブルーのスーツ姿で、あの色気はどこにもない。
きっちり襟元までボタンが閉じられていることで、あの素肌と筋肉を思い出し、思わず頬が緩む。するとスターフォード伯爵夫人が嬉しそうに「ほら、ラザフォード公爵令嬢も、夫婦の寝室は一緒がいいって微笑んでいるじゃない」と言われ、手にしていたパンを落としそうになる。
ついレオニスの素敵な体躯を思い出し、皆の話を聞いていなかった。
しかも最悪なタイミングで、微笑んでしまった!
「今の微笑みは、考え事をしていて、つい出たものです。夫婦の寝室の件で、反応したわけではありません!」と言うことなんてできない。裏を返せば「いやいや、夫婦の寝室は一緒なんて困りますわ!」になってしまうのだから。そんなネガティブなことを、私から発信できない!
というわけで、半笑いでこの話題はやり過ごすことになった。
さらにウェディングドレスの刺繍やレースについて自分から話し始め、夫婦の寝室の話題を終わらせることに成功した。
それにしても。
レオニスが帰還したので、皆、お酒を飲んで、大騒ぎになるのかと思った。今日の夕食の席には、王立イーグル騎士団の副団長や上級指揮官も数名いたからだ。でも明日、レオニスは襲撃犯が収監されている王都警備隊の牢に行く。
よって和やかに夕食の時間が過ぎていく。
食後の紅茶を飲み終えると、副団長や上級指揮官は、料理の美味しさとご馳走になった御礼を述べ、帰宅した。
部屋に戻り、エアリルが入浴の準備を他のメイド達と共にしてくれている間。私は部屋に届けられていた新聞を見ていた。
新聞には、レオニスのことが記事になっている。かなり私的な理由で、討伐に出たのかと思っていた。でも国王陛下にきちんと話を通している上に、討伐した魔獣についても報告されている。その成果が記事になっていたのだ。






















































