キスは薬?
レオニス抜きで夕食が始まり、そこで何があったか、私は話すことになった。
さすがにそうなると、私が悪女と言われている件を、話すことになる。
「ああ、新聞ではいろいろ書かれているな。だがその情報だけを、鵜呑みにするつもりはないからね。目の前にいるラザフォード公爵令嬢は、とても悪女には見えない。新聞が面白おかしく書き立てるようなことも、しているとは思えない」
スターフォード伯爵がそう言えば、スターフォード伯爵夫人もこんな風に言ってくれる。
「レオニスはあの通り、とにかく猪突猛進の一直線な子なのよ。騎士になる、魔獣を討伐する、あなたを好きになる。もうとにかく真っ直ぐ。利害とか打算とか、とてもできる子ではないわ。不器用な子なのよ。それでいて好きな相手に、ストレートに好きって言えないような子だと思うの。もどかしいかもしれないけど、レオニスのこと、よろしくお願いします。あの子はラザフォード公爵令嬢との婚約を、解消するつもりはないと思うわ」
既に婚約契約書へのサインは、レオニスと私、共に終わっている。勿論、双方の両親のサインも済んでいた。私の両親のサインは今日、実家を訪問した際にもらっている。後はこの婚約契約書を、提出するだけだった。宮殿に設置されている血統管理局という、貴族の婚約・婚姻を管理する国の機関へ。受理されれば、正式にレオニスと私の婚約が成立することになる。
この大切な婚約契約書は、馬車の座席の下の荷物置き場に、実は仕舞われていた。無事、持ち帰ることができ、今はスターフォード伯爵が預かってくれている。
夕食の前に入浴を終えていたので、食後は部屋で寛ぐことができた。
レオニスが帰ってきたら、話をしたいと思っていた。彼の真意を知りたい……そう思っていたのだ。でもそれは不安と緊張も伴う。しかもレオニスはいつ帰ってくるか分からないのだ。そんな落ち着かない気持ちがありながらも、私はそのままベッドで寝てしまった。
エアリルは優秀な侍女だから、ちゃんと私の頭に枕をおき、ブランケットもかけてくれている。
そして――。
『ジェニー』
『レオニス様!』
紺色のローブを着たレオニスがベッドに座り、横たわる私を抱きしめた。
『可哀そうに。首を絞められたのだな』
『首を絞めるというか、声を出さないよう、押さえられただけです』
『チュッ』と音がして、レオニスが私の首筋に……キスをしている!
『レ、レオニス様、な、何をされているのですか!?』
『この赤みを押さえるための薬をつけている』
『!? キスが薬なのですか!?』
動揺する私が手を伸ばし、レオニスの頭に触れていたのだけど。
その手は彼の手と共に、マットレスへ押し当てられてしまう。
『沢山のキスマークをつければ、赤みが目立たなくなる』
『えええっ!?』
とんでもない提案をされているのに、嫌ではなかった。
むしろ……。
レオニスがキスを繰り返すので、私の息遣いは荒くなっている。
つまりはとんでもなく甘い衝動に全身が包まれていた。
「うんっ……」
ハッキリと自分の声が聞こえ、目が覚める。
首の辺りがなんだか爽快に感じた。
あ、キスは本当に薬なのね。
すーすーして気持ちいいし、効く気がする。
頬がほころび、「あれ? でもキスは夢の中の出来事では?」と気づき、一気に覚醒が進み、目が覚めた。
大変強い視線を感じ、目を開けると、そこにレオニスがいる。
キャラメルブロンドの前髪は分け目がいつもと違い、碧眼の瞳は力強く輝き、真剣な表情だった。白いシャツにズボンという軽装姿であり、もしかすると徹夜明けで帰宅し、入浴した直後では?と思えた。
レオニスは手に、円形の平べったいブリキ缶を持っている。前世の青いパッケージのハンドクリームを思い出す。
あ、レオニスが首筋に薬を塗ってくれたのだわ。
それで私、キスをされたなんて夢を見てしまったんだ……。
急に恥ずかしくなり、最後に出した声、聞かれていないわよね!?――と少し焦る。冷静を装うため、まずは挨拶をした。
「お、おはようございます、レオニス様」
なるべく落ち着いた風に見えるよう、ゆっくりと起き上がり、でもそこでハッとする。昨日は胸の谷間を指摘されていた。よってネグリジェを確認してしまう。
今回のネグリジェは、淡いラベンダー色で、鎖骨は見えない。つまり谷間が見えているなんてことはない。それにちょっと安心する。
でもその安心は、次の言葉でひっくり返った。
「ああ、おはよう、ジェニー」
……! 心臓がドキリと反応する。
ジェニーと、またニックネームで呼んでくれた。
エアリルは「新聞に合わせた態度をとっただけだ」と言ってくれた。襲撃の場で、突然レオニスの態度が変わった理由を。
ニックネームで呼んでくれたということは、エアリルの説が正解なのかしら?
それにスターフォード伯爵夫妻は、襲撃犯の脅しを気にして、レオニスが婚約を解消する……そんなことは言いださないと言ってくれた。
なんだがドキドキする。
一方のレオニスは、疲れた様子で自身の髪をかきあげた。
指先からサラサラとキャラメルブロンドの髪が流れ落ちる。
なんだか男性なのに色気があるわ……。
いや、そうではなく。
彼には聞きたいことがある。
いつもお読みいただきありがとうございます!
感謝のサプライズ増量更新でした☆彡




















