彼の手紙
胸の高鳴りをなんとか押さえ、ダイニングルームに着くと、レオニスの両親が笑顔で迎えてくれる。こちらも朝食同様、和気あいあいで過ごすことになった。
午後、レオニスは国王陛下との謁見があり、宮殿へ向かった。私は予定通り、ラザフォード公爵家に顔を出すことになった。両親と二人の弟に迎えられ、久しぶりにラザフォード公爵家の屋敷に足を踏み入れた。
しばらく見ない間に、父親のシルバーブロンドは、銀髪に近くなっている。だが元々ハンサムだったので、いぶし銀の魅力という感じか。母親は、相変わらず美しい。まさに美魔女。明るいパステルブルーのドレスも、見事に着こなしている。
二人の弟は、最後に会った時はまだ幼子だったのに。今はもう十五歳と十三歳になっていた。身長もぐんと伸び、その成長ぶりに驚いてしまう。二人ともブロンドに碧い瞳と、完全に母親似だ。
しばらくは家族水入らずで、お茶をしていた。だが弟二人が席を外すと、いよいよ本題について、両親と話すことになる。
つまりは婚約破棄と新たなる婚約についてだ。
両親は今回の婚約破棄について、パトリック達のでっちあげだと理解してくれた。これは私がプレイしていた乙女ゲームとは違う展開だった。断罪されたジェニファーに対し、彼女の両親は、親子の縁を切る選択をしている。その後ジェニファーは、家族と二度と会うことはない。
今回、断罪は一応回避されており、結果として国民的英雄と婚約できたのだ。よって両親も、溜飲を下げてくれたのかと思った。だが、違っていた。
「レオニス卿が手紙をくれたのだよ。ジェニファーは十年間に渡り、妃教育に真面目に取り組み、最高の成績を修めている。学園での成績も完璧だった。そんなジェニファーが突然、三人もの令息を、ましてや媚薬などを用いて誘惑などするわけがないと」
さらに次の父親の言葉で、私は心臓が大きく反応するぐらい、驚くことになる。
「もしそんなことをするなら、媚薬なんて使わないだろう。自身の身一つで相手の令息を完全に骨抜きにするだろうと。よってマネースキー伯爵令嬢を新しい婚約者にするための、策略に違いない。そう手紙に書かれていたのだよ。……王族を批判する手紙だったからな。既に暖炉で燃やしてしまったが」
これは……まるで私が夢で見たような展開だ。もしやまだ夢を見ているのかと、思わず自分の手を何度もつねってしまった。だがそうなると、レオニスが舞踏会で言っていたことは、なんだったのかと思ってしまう。
この疑問を父親に話すと……。
「舞踏会の話を聞くに、ジェニファーに対し、パトリック殿下は何らかの刑を課すつもりだったと思うぞ。殿下の名誉を汚し、浮気をしたことを理由に。もしレオニス卿がジェニファーの無罪を主張しても、信じてもらえる保障はない。そうなるとジェニファーのことを、悪女と認めた上で、しかもそこに愛などなく、利用するために婚約をする――そう言うことでレオニス卿は、ジェニファーを救ってくれたのでは?」
父親の説明に「なるほど」と思い、さらに気が付く。
タイミングも完璧だったと。
断罪後の罪人を婚約者にするのは、いくら国民的英雄でも許されないだろう。婚約破棄され、まさに断罪前のあのタイミングだったからこそ、全てがうまくいったのではないか。
「ジェニファーと婚約破棄するだけではなく、その名誉も落としたい。悲しいことだがパトリック殿下は、そう考えていた。だが殿下が名誉を落とすまでもなく、ジェニファーが愛のない婚約をする。しかも魔獣に害されても、なんとも思わないと言われたら……。パトリック殿下達も反対するわけがない」
まさに父親の言う通りだ。
もし今、父親が言ったことをレオニスが踏まえ、発言していたのなら……。
彼の評価は真逆になる。
打算的に私と婚約するわけではなく、むしろ私を助け出すために婚約してくれたように思えた。
だがしかし!
レオニスが助けてくれる理由が思い当たらない。魔獣討伐に明け暮れていたレオニスと私の接点なんて、ないと思う。
貴族社会において、他の貴族と知り合うのは、舞踏会、晩餐会といった社交の場だ。だが間違いなく、レオニスは社交なんてしている暇はない。二十三歳にて、舞踏会には一度しか行ったことがないというのは、貴族の令息としては異例だ。しかも唯一出席した舞踏会も、社交界デビューのため。かつ十五歳の一度きり。
でもレオニスは、魔獣討伐の先鋒となる王立イーグル騎士団の団長。仕方あるまい。
一応両親に聞いても、なぜレオニスが私を助けるような行動をしてくれたのか……それは分からないという。真意は分からない。それでも父親は、レオニスが私を助けようとしたと思っている。舞踏会で見せた言動は、彼の本意とは違っているのではと言うのだ。




















