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加瀬 正己(かせ まさき)

ハカセの部屋に入り荷物を置く遊歩。

「着替え?シワになるのが気になるならハンガーだすけど?」

遊歩が持っていた見慣れぬ紙袋の中身が着替えだと推測したハカセが親切心から提案をする。

「あー……。違う違う。お母さんがハカセの家にお世話になるからって持たせてきたんだけど、ハカセの親に渡してくれない?」

少し気まずそうに紙袋を差し出す。

ハカセは紙袋を受け取り、中身を確認して察する。

ハカセ自身も他人の親と話すのが苦手なので遊歩の気持ちは理解出来る。

「あとで渡しておく。気を使わなくて良いんだけどな」

紙袋を壁に立てかけ、遊歩の提案を承諾する。

「それで、ゲートの事なんだけど……」

「まあ、そんなに慌てなさんなって。アニキも外出中だし少しゆっくりしようぜ」

早速本題に入ろうとした遊歩だったが、ハカセに制止されてしまう。

遊歩もいても仕方がないと理解しているのでハカセの提案を受け入、談笑をして時間を潰す事にした。


話が盛り上がり始めた頃、不意にドアがノックされる。

ハカセの返事を待たずに勢いよくドアは開け放たれた。

「遊歩、よく来たねー。待ってたよー」

ドアを開け部屋に侵入してきた人物は部屋に入るや否や遊歩に飛びつき、頬と頬を擦り合わせようとするなどの激しいスキンシップを取ろうと試みる。

「こ、こんばんは正己さん……」

両手で正己の顔を押しのけながら何とか挨拶を交わす。

「本当に遊歩はいつもつれないなー。正己お兄ちゃんって呼んで良いって言ってるのにー」

このウz……少し面倒臭そうな人物こそ、ハカセの兄にして今回の目的でもある『加瀬 正己』その人である。

「いい加減離れろ変態!」

ハカセは遊歩と何とかスキンシップを取り続けようと試行錯誤する兄を無理矢理引き剥がす。

名残惜しそうな雰囲気を醸し出している正己だが、弟が遊歩の警備にあたっているので分が悪いと考え、ヤレヤレとわざとらしい素振りを見せながらスキンシップを断念するのだった。


「それより、遊歩が来るって教えたのに何処言ってたんだよ」

「おぉ!そうだった。大切な事を忘れてた」

ハカセの問いから何かを思い出した正己はドアに近づき廊下から何かを室内へ運び込む。

「遊歩が遊びに来るって話だったからね。色々買ってきたよ」

正己がニコニコしながら運んだビニール袋の中には大量のお菓子と飲み物、紙コップなどだった。

「何で僕には買ってこないのに遊歩には買ってくるんだよ」

正己は「はぁ……」と大きな溜息を吐いた後に口を開く。

「まず、遊歩は可愛い。一葉ももっと可愛かったら良かったんだけど、数年前から成長し過ぎて身長は高くなるし、言葉遣いも荒い。更に兄に対する────」

長々と遊歩の可愛さと弟への悪口を語り続ける正己。

正己がヒートアップして語り続けるのと比例してハカセのフラストレーションは溜まる。

遊歩は正己の止まる様子が無い語りを見て、良く次から次へ言葉が出てくるなと感心すると共に呆気に取られる事しか出来なかった。


数分間、説教に近い悪口を聞き続けていたハカセだったが、遂に堪忍袋の緒が切れる。

「テメーのそう言う所が原因だろー!!!」

正己の胸倉を掴み、何度も前後に揺らしながら反論をする。

ハカセは怒りを顕わにしているものの本気で攻撃する意思はない。

その証拠に正己は両手を軽く前に出し「まあまあ」とハカセを宥めながら揺さぶられている。

正己の表情には余裕すらも窺える状況だ。

恐らく、このような状況に陥る事に慣れているのだろう。

しかし次の瞬間、全員の表情が凍り付く……。

「うるさい!ご近所迷惑でしょ!静かにしなさい!」

部屋のドアを閉め忘れていた所為もあり、ハカセの母に一喝されてしまう。

「「「ごめんなさい……」」」

直接的には遊歩は無関係なのだが、雰囲気的に謝罪せざるを得ない状況。

3人が素直に反省した事で納得したのか、それ以上のお咎めは無く「まったくもう……」と呟くとドアを閉め離れていくのだった。

「愚弟の所為でとんだとばっちりを食った」

「それはこっちのセリフだ。クソアニキ」

親に怒られた事で多少は懲りているのか小声で罵り合いは続いている。


暫時、成り行きを見守っていた遊歩だったか、一向に終わる気配を見せない口喧嘩に嫌気がさし始める。

とは言え、下手に仲裁をして巻き込まれるのは真っ平御免だ。

「ゲームが起動出来ない件って解決したの?」

考えた末の答えは、やんわりと当初の目的を疑問として投げかける事。

「まだだよ。思春期の男の子のPCの中身は見ないのがマナーだしね。特に検索履歴、閲覧履歴とかはね」

「思春期どうこうじゃなく他人のPCは勝手にイジルな」

全く持ってハカセの意見は正論なのだが、下手に噛みついて話が長引くのを避けたい遊歩は勝手に話を進める事にした。

「今、見てもらっても大丈夫ですか?ハカセも大丈夫?」

「あぁ問題ない」

そう返すとハカセはPCを起動させる。

「どれどれ……」

「このアイコンのやつ。一応ソフトもある」

ハカセの説明を受け、色々と操作するもののゲームが起動する気配はない。

「1回アンインストールしても大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

遊歩の返答を聞き、アンインストールと再インストールの作業を開始。

しかし、状況に変化は無かった。

「なんでだろう?」

「僕の家では普通に動くんですが、理由は分からないですか?」

「ん~……分からないね。会社でプログラムとかを解析すれば何か分かる可能性もあるけどどうする?」

悩む遊歩……。

恐らくニーナにゲートの登録をしてもらわない事には繋がらないものだと予想は出来る。

しかし、万が一にも解析をした結果、ゲームが起動する可能性もある。

ゲームの根幹部分を隠そうと昼に話し合った手前、どうするのが正解なのか……。

悩んでいるフリをしながら時間を稼ぎ、ハカセに会いコンタクトを送り見解を請う。

ハカセも遊歩の視線に気が付き何を言わんとしているのか理解は出来た。

だが、ハカセにも何が正解なのかは分からない。

ハカセは軽く頷く事で決定権を遊歩に一任する。

(渡して大丈夫って事かな?僕が決めて良いって事かな?)

遊歩としてはハカセが正己に直接答えるものだと考えていた。

ハカセの思いもよらぬ反応に真意を理解する事が出来ずに混乱してしまう。

「は、はい。問題ないです。解析お願いします」

自分なりの考えを正己に伝える。

万が一、ハカセとの意見の相異があればハカセが止めてくれるだろうと安易に考えたからだ。

……と言うより、考えるのを放棄しただけだ。

「じゃあ、帰ってからだから解析を開始するとしても月曜以降ね。仕事の状況によっては遅くなるかもしれないから、コレが必要になった時は連絡してね。速達で送るか直接渡しに来るから」

「はい、よろしくお願いします」

ハカセからの反応が無かったので話を進めて良いと判断した遊歩は正己の提案を飲む。

「よしっ!これでこの話は終わり。遊歩と遊ぶから一葉は出て行って良いぞ」

「ここは僕の部屋だ」

「もぅ一葉は我儘だな。じゃあ、一緒にゲームしてあげるから持って来れば良いよ」

「何で僕が持ってこないといけないんだよ」

「えー……。お客様の遊歩に持って来させるとか一葉は鬼かよ」

「テメーが動け」

遊歩が遊びに来た時(正己が居る時限定)で毎度行われる一連の流れ。

遊歩も慣れているので何も言わずに見守る。

そして今回もいつも通り「仕方ないなー……」と呟きながら立ち上がる正己。

部屋を出てボードゲームを持ってくる。

「何でテレビゲームじゃないんだよ」

「テレビもハードもソフトもこの部屋に無いから持ってくるの面倒だし」

これまた、様式美と言わんばかりの一連の流れ。

初めのうちは遊歩も手伝いを申し出ていたのだが、いつの間にか流れの一部に組み込まれる事となっていた。

「僕も運ぶの手伝うからテレビゲーム」

「もう、せっかく持ってきたのに」

こう言ってはいるものの正己自身ボードゲームで遊ぶつもりは一切ない。

以前、ハカセが面倒がってそのまま遊ぼうとした時に拒否された事がるので明白だ。

「遊歩もゲーム運ぶの手伝って」

ここで漸く遊歩の出番。

「うん」と短く返事をして3人仲良く元々は正己の部屋だった現在は物置部屋へして使用されている部屋へと移動を開始する。


物置部屋へ移動した3人は慣れた手つきで必要な物を集める。

普段、ハカセがゲームをする時は此処でゲームをしている。

理由は自室へゲームなどを運ぶと部屋が狭くなるからだ。

そして、3人が此処でゲームをしない理由は物置部屋と化しているこの部屋が狭いからである。

「遊歩が僕の膝の上に乗ってゲームすれば運ばなくても良いんだけどどうする?」

「黙れ変態」

これも毎度毎度繰り返されている会話なので遊歩は「ハハハ……」と乾いた笑いを返しながら作業を続行する。

つまり、ハカセの部屋でゲームをする意思表示だ。


部屋へ戻り、セッティングも完了。

慣れた手つきで遊歩にコントローラーを渡す正己。

「じゃあ、遊歩遊ぼうか」

「ボクは!?」

ハカセはぞんざいな扱いに憤り気味な様子で問い掛ける。

「そんな事を言ったって2人で遊べるゲームしかないんだから仕方がないじゃないか」

正己は正論を言っているように感じるが、そんな事はない。

ハカセはゲームをする事はあるがRPGなどのソロプレイを好む傾向にある。

そんなハカセのゲームラインナップを見兼ねた正己が『友達と遊ぶ用』にとの建前で勝手に送り付けてきたものが大半なのだ。

実際は正己が遊歩と遊ぶために購入していると言うのが実状だ。

つまり、購入するゲームを選んでいるのは正己なのである。

「ダウンロード版もあるんだし、何か今購入すれば良いじゃん」

「えー……。嫌だ」

「何でだよ!」

「面倒臭い」

本音は遊歩と遊びたいだけだからだ。

誕生日などの祝い事ならともかく、特に意味もなくゲームを買い与えるつもりは一切ない。

「まあまあ2人とも落ち着いて。初めは負け抜けで格闘ゲームにしよう?」

遊歩はソフトの1つを手にし、2人に見える形で持ちながら提案をする。

内心では納得していないハカセだが「それならまぁ」と引き下がる。

正己も長々と遊歩と遊べる協力プレイ型のゲームをしたかったと言うのが本音だが、遊歩の意見を尊重して了承する。

「じゃあ公平に初めはグーパージャンケンでね。ペアになった人たちで対戦ね。……グッとパーで分かれましょ!」

結果は遊歩がパー。ハカセと正己がグーである。

「「……」」

ハカセと正己は自分の出した手を見つめ黙る。

2人が現在考えている事は一致している。

『何故パーを出さなかったのか!?』である。

「流石兄弟、気が合うんだね。はい、コントローラー」

全く心に響かない、不名誉とすらも感じる遊歩の枕詞を聞き流し大人しく渡されたコントローラーを握る。

「一葉を瞬殺しゅんころしてさっさと遊歩とキャッキャウフフタイムに突入する」

「僕に勝ったとしても遊歩と対戦するだけなのに頭ん中お花畑かよ」

ゲームが始まる前から程度の低い勝負は始まっている。

互いに罵り合いながらもキャラ選択も完了。

『ROUND 1 FIGHT』

画面が切り替わり、1ラウンド目が開始される。

開始直後から正己の容赦ない攻撃からのハメ技。

元々の強さも然る事ながら、壁際に追い込んでからのハメ技までの一連の流れは『妙技』と言わざるを得ない。

だが、家族や知り合いなど顔見知りとの勝負でやると嫌われるのは間違いないだろう。……いや、知り合いでなくとも嫌われるのは確実だ。

そんな容赦のない正己の前にハカセは手も足も出ず、正己が宣言していた通り『瞬殺』される結果となった。

そして、ゲームテクニックが一瞬で向上する訳がなく、2ラウンド目も1ラウンド目同様、見るも無残な結果に終わる。

「負け抜けだからさっさと遊歩にコントローラー渡してね」

正己は憎たらしいほどの笑顔を向けながらハカセに指示を出す。

ハカセからコントローラーを渡された遊歩だが、今の勝負を見ていて苦笑いしか出てこない。


遊歩と正己のキャラ選択が完了。

『ROUND 1 FIGHT』

先程とは違い、正己は単発の攻撃と回避に徹する。

技を打つ場合も強攻撃のボタンを使用する事でモーションを大きくすると同時に硬直時間を長くしている。

これで遊歩が回避する余裕と反撃する隙を与える。

60秒の制限時間を一杯に使い、残り体力差で遊歩が1ラウンド目を制する。

「いやー、遊歩は強いなー」

正己の半分棒読みの言葉を聞き、遊歩とハカセは無反応。

どう反応すれば良いのか困っていると表現した方が良いだろう。

そんな中『ROUND 2 FIGHT』と言う掛け声と共に2ラウンド目が開始される。

正己の動きは先程とあまり変化は無い。

但し、1ラウンド目とは少し違い、適度に攻撃を当てる事でダメージ調整を行っている。

2ラウンド目も1ラウンド目と同様に制限時間を使い切り残り体力での判定に移る。

結果は正己の勝利。

そのまま3ラウンド目に突入する。

3ラウンド目も60秒間ダメージ調整を行い正己が勝利を収める。

「遊歩は本当に強いなー。惜しかったけど負け抜けだから、一瞬だけ一葉と変わってね」

制限時間を使い切っての勝利。

満足気な顔で遊歩に話を掛けているが、遊歩に勝たせるつもりはないようだ。


ハカセと交代した後に始まる正己によるハメ技地獄……。

正己は遊歩に勝たせたくなかったわけではない。

正己自身が勝つ事で主導権を握りたかっただけだ。

もし遊歩が正己に勝利した場合、遊歩VSハカセの試合になる。

だが、ハカセが勝利してしまった場合、正己VSハカセを挟んでから遊歩VS正己になる。

その1手間を惜しんだのだ。

あまりにも大人気無い正己の行動と思惑により、ハカセは2回目の勝負も完膚なきまでの敗北を余儀なくされる。

そして始まる正己的に表現すると『キャッキャウフフ』する為の遊歩への接待プレイ。


その行動に嫌気がさしたハカセが遊歩VS正己の3ラウンド目で遊歩を勝たせる為に動く。

制限時間残り10秒を切った段階での物理攻撃。

攻撃と言っても正己を擽る事での妨害行為だ。

不意を突かれた正己は一瞬体を捻じり耐えようとする。

……しかし、ハカセの猛攻に抵抗虚しくコントローラーを手放してしまう。

「ギャハハハハハ……。や、やめて~~。降参、降参」

『TIME UP』

正己がハカセの擽り攻撃に抗う中、無常にもTV画面から流れる試合終了の合図。

勿論、勝者は遊歩である。

「よし、コントローラー寄こせ」

「酷い……」

ガックリと肩を落とし項垂れる正己だが、素直にコントローラーを渡す。

「遊歩、次やろうぜ、次」

「ほっといて良いの?」

「良いの良いの。いつもの事だし」

イジケる正己を見て遊歩が心配するもハカセは気にしていない様子。

「おぉ!遊歩、僕の事を気にしてくれるのかい?なんて良い子なんだ。落ち込んでるからヨシヨシって頭撫でて」

何彼と理由を付けては遊歩との過度なスキンシップを取ろうと試みる正己。

ハカセはこうなる事は事前に予想が出来ていた。

そして、遊歩も心配をしている風な事を口にはしていたものの予想は出来ていた。

慣れた手つきで正己を去なし、何事もなかったかのようにキャラ選択を行う。

「遊歩と真面目に勝負するんだから邪魔すんな」

ハカセは遊歩とのスキンシップを諦めきれていない正己を足蹴にし、半ば無理矢理にスペースを確保する。


その後も正己のハカセへのハメ技、遊歩への接待。ハカセの物理攻撃が続き、幾度か対戦相手が変更され続けた……。

「正己さん、他のゲームもやりたい」

同じゲームをやり続けていたのも原因だが、格ゲーは展開の変化が少ないのも原因だろう。

だが、何よりの原因は正己の強さだろう。

明らかな舐めプで手玉に取られた末に敗北するの繰り返しになっていた事に飽き始めた遊歩が正己に提案する。

「パズルゲーム?」

「頭使うのは苦手で……」

「うん。知ってた。シューティング?」

「出来れば3人同時にプレイ出来るものが良いかな」

「うーん……。一葉の持ってるソフトだと無いんだよね」

先述した通り、ハカセの責任よりも正己の責任の方が大きい。

ソフトの選定(特に2人以上で遊ぶソフト)は正己が購入したものしかないと言っても過言ではない。

「そうですよね……。俺が何かソフトを持ってくればよかったんですよね……」

ソフトのラインナップを見直して少しガッカリしてしまう。

いつもは遊歩がソフトやコントローラーを持参するので余計に落胆しているのだろう。

「一葉!何かダウンロードするぞ!ネットに接続しろ!」

「……僕が頼んでもダウンロードしてくれないくせに」

「何か言ったか?」

「何でもねーよ!」

遊歩のガッカリする姿は見たくない!と思った正己の取った選択は新たなゲームのダウンロード。

ハカセも小声で愚痴をこぼすも、新しいゲームを購入してもらえる良い機会だと思い、素直にネットへ接続をする。

「遊歩、何にする?お兄ちゃんに任せなさい!」

自身の胸を軽くポンッと叩き、威厳のある態度を取る。

財力に物を言わせて遊歩の気を引くつもりなのだろう。

『財力に』と言っても所詮ゲームソフト1本分の出費だ。

学生にとっては考える金額かもしれないが、社会人の正己にとってはそれほどの金額ではない。

「どうせならレースゲームが良いな」

ここぞとばかりにハカセは自分の欲しいゲームを主張する。

「一葉の分のコントローラーがないだろう」

しかし、正己の正論によって却下されてしまう。

勿論、コントローラーが無いのも正己の責任が大きい。

あくまでも遊歩と楽しむための道具なので、建前ではハカセが遊ぶ為と言ったとしてもコントローラーは2つで十分と考えている。

そして、ちゃっかりと足りない分のコントローラーはハカセの物だと明言している。

「となると、スゴロク系かボードゲーム系かな?」

「そうだね。ターンバトル系の何かもありそうだね。スゴロクなら種類も豊富だし、ボードゲームは詰め合わせの物も多いから選択肢は多いと思うよ。流石、遊歩は一葉と違って分かってるなー」

第三者から見ても当事者から見ても露骨なまでのよいしょ。

ハカセはいつもの事だと慣れた様子で聞き流しながらコントローラーを操作し、ボードゲーム一覧をモニターに表示させる。

スゴロク系のゲームもボードゲーム一覧に表示されていたので余計な手間は省けた。

「どうせなら説明とか見ながら決めようぜ」

言うまでもなく遊歩に向けた言葉だ。

正己に向けて言った所で『遊歩が好きなもので良いよ』と返ってくるだけなのは火を見るより明らか。

あとは遊歩を如何に誘導して自分の好みのソフトに近づけるかが重要になってくる。


30分ほど3人で雑談を交えつつ話し合いながらソフトを選ぶ。

結果としてハカセも満足のいく商品選択になった。

今回選択したゲームはRPG要素のあるスゴロク型ボードゲーム。

勝利条件の設定なども細かく変更出来るので何度でも遊べるタイプのゲームだ。

「じゃあ、ゲームも決まったし早速遊ぼうか。一葉は一人でコントローラー使って良いよ。僕と遊歩が一緒のコントローラー使いまわすからね」

正己がゲームを購入した手前、その程度の事に文句を言うつもりはない。

ハカセは正己の提案を了承し、ゲームを開始する。

始めはオーソドックスに最終的に所持金の多いプレイヤーが勝利。


勿論、RPG要素があると言う事はプレイヤー同士の戦闘などによる妨害も可能である。

そして、正己が妨害する相手はハカセのみ。

遊歩はハカセと正己のどちらに忖度する訳でもなく普通にプレイ。

ハカセは正己の妨害に耐えつつゲームを進行する必要がある。

圧倒的に遊歩が有利な状況である。


結果、1回目は遊歩が勝利を収めた。

その後もNPCを入れたり、勝利条件を変更したりしながらゲームを楽しんだ。


空が白み始める頃、ハカセの眠気が限界に来たようだ。

「眠い……」

「寝て良いぞ。僕は遊歩と遊ぶから。それとも遊歩、僕と一緒に寝る?」

ハカセは正己に「黙れ犯罪者」と軽く正己の頭をはたき、「お言葉に甘えて寝る」と言いベッドに潜り込んでしまった。

「遊歩は眠たくない?」

「まだ大丈夫です」

「そう……。じゃあ、ゲーム変えようか。協力プレイ出来るものにしよう」

少し残念そうな正己だったが、遊歩と一緒に居る時間を堪能しようと気持ちを切り替える。


その後も遊び続けていた2人だが、ハカセの寝息につられたのか遊歩は軽く欠伸をし、両手を上げて伸びをする。

「んー……。ちょっと休憩」

正己はここぞと言わんばかりに自身の太腿を軽くパンパンと叩きアピールをした。

遊歩がその誘惑(?)に乗る訳もなく「ちょっとトイレに行ってきます」と軽く躱されてしまう。


「遊歩お腹すいてない?」

トイレから戻った遊歩に向かい正己が質問を投げる。

「正己さんが買ってきたお菓子を食べながらだったのでそこまででもないです」

「そう……」

そんなこんなでのらりくらりとゲームをしながら時間を潰す2人。


時刻は午前11時前。ハカセが目を覚ます。

「あっ、ハカセおはよー」

「おはよ……。腹減った……」

寝惚け眼を擦りながら、空腹を訴えるハカセ。

正己は時計を確認して提案をする。

「じゃあ、何か食べに行こうか」

正己の用意していたお菓子なども食べ終えていた遊歩も多少の空腹を覚えていた。

正己の提案を快諾し、準備を整える。


遊歩とハカセが準備を整えている最中、正己はソファーでゴロゴロしている父に車を出すように交渉していた。

しかし、返答は芳しくない。

せっかくの3連休、だらけて過ごしたいようだ。

気持ちが分からなくもない正己は『遊歩が居る間くらいはシャキッとして』とだけお願いをし、車を借りる事で折り合いをつける。

免許は一応持っているものの、普段は使用する機会の少ない正己。

父に「気を付けて運転しなさい」と釘を刺されてしまう。

正己自身、言われなくても理解しているが、車を貸す時の定型文の様なものだと思い、深くは考えない事にした。

だが、車を運転するからには気をつけるに越した事はない。

「分かってるって」と軽く返事をし、車の鍵を持って玄関で待機する。

程無くして遊歩とハカセが玄関に到着。

「じゃあ、行こうか。何か食べたいものある?ファミレスで大丈夫?」

玄関から車までの短い距離だが、正己は何処に行くかを決める為に2人へ話を振る。

特に異論のない遊歩とハカセは了承し後部座席へ乗り込む。

「……」

「アニキ早くしろよ」

運転席のドアの横で立ち尽くしたままの正己にハカセが声を掛ける。

正己は2人が何の躊躇いもなく後部座席を選んだ事。

そして複数人で車に乗っているのに助手席に誰も居ない事を考え、悲しみに打ちひしがれていただけだ。

遊歩が助手席に乗ってくれるのがベスト。百歩譲って一葉でも良かった……。そんな事を考えながら心の中で涙するの正己であった……。


後部座席で盛り上がる2人の会話を羨やみながら正己は運転をしている。

注意散漫な部分もあったが、無事ファミレスに到着。

正己の正面にハカセ。そして、然も当然かのように遊歩は自然な流れでハカセの隣に座る。

せめてもの抵抗と言わんばかりに、正己は遊歩の正面側へ少し移動をする。

「遊歩、遠慮しないで好きなもの食べて良いよ。今日は僕の奢りだ」

3人合わせても数千円。ましてや遊歩のみの食事代を考えると、高くても2000円以内。

その程度の金額でアピールが出来るのなら安いものだ。

遊歩も「ありがとうございます」と短い返事をし、本当に遠慮をする事無く自分の食べたいものを注文した。



談笑をしながらの食事を1時間ほど堪能し、店を後にする。

「遊歩、帰る?まだ遊ぶ?」

車に乗り込んだ遊歩に話を掛ける正己。

車を出しているのだから、遊歩の家に寄ろうが実家に戻ろうが同じようなものである。

つまり、遊歩の予定を聞いて気を利かせるつもりの質問だ。

「少し疲れたので帰ろうと思います」

「じゃあ、家まで送るよ」

「ありがとうございます」


遊歩宅前に停車した車から遊歩が降りる。

「ありがとうございました」

「じゃあ、休み明けにでもゲームの方は解析してみるね」

「よろしくお願いします」

「じゃあな。月曜遅刻するなよ」

「うん。じゃあね」

2人に別れを告げ、自宅のドアを開ける。

「ただいまー」

「つかれた……」

自室に戻った遊歩はベッドにダイブし、そのまま夢の世界にダイブする。

こうして遊歩の長い一夜は終わりを告げた……。


遊歩が目を覚ましたのは夜の帳が降り始めた頃だった。


そして、昼夜逆転した遊歩の生活リズムが土日の2日間……。いや、起床してからの1日と数時間で完全に元に戻るはずもなく、月曜の朝に普段以上の地獄を見るのであった────。


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