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新たなゲート

今日も2度寝の誘惑に勝てずギリギリの時間に登校した遊歩。

席に着くや否やハカセに声を掛けられる。

「おはよ。昨日アニキと連絡が取れて今日仕事帰りに来るって言ってた。それと久しぶりに遊歩にも会いたいから明日有給取って日曜まで3連休にしたとか言ってたけどアニキと会う?」

どうやら昨日の件で兄と連絡が取れたようだ。

「どうしようかな……。んー……。頼み事をするのは俺だし、直接お願いした方が良いよね。いつが都合良いかな?ハカセの家の事情とかも含めての話ね」

「今日は流石に何時に戻ってくるか分からないから明日以降だろうし、いつでも大丈夫だと思うな。アニキと徹夜でゲームするなら金曜か土曜泊まり込みでも問題ないと思う。まあ、親に聞いてみないと何とも言えないけどな」

話を進めているものの、まだ両親の了承は得ていないとの事。

「俺もお母さんに聞かないとだから、予定は明日決める感じでも大丈夫?」

「じゃあ、僕も遊歩が止まる可能性があるけど大丈夫かだけ確認しておくよ」

今は綿密な予定は立てない事にした2人。

その後は担任が来るまでの間、何気ない日常会話を楽しみながら時間を潰した。


この日は特に変わった事もなく、学校が終わる。


帰宅した遊歩は早速母に相談を持ち掛ける。

「お母さん、今日、ハカセのお兄ちゃんが返ってくるんだけど、明日か明後日、ハカセの家に泊まっても良い?」

「かまわないけど、ご迷惑にならないようにするのよ」

提案はあっさり了承された。

深山家と加瀬家は顔を合わせた時に世間話をする程度には交流がある事が大きな理由だろう。

「分かってるって」

返事をして部屋に戻る遊歩を余所に「何か持たせた方が良いのかしら……」

と呟きながら悩む母であった。


一方、自室に戻った遊歩はPCを眺める。

ゲームをするか否かで悩んでいるようだ。

暫時、悩んだ遊歩だが、PCの電源を入れつつデバイス一式を身に着ける。

ハカセが素の状態でゲーム内に入っていたのでデバイスを付ける意味があるかは不明だ。

ただ、現実とゲームの見分けが容易になるメリットはある。


「おかえりなさい」

ゲーム内に入るといつも通りニーナが出迎える。

「ただいま」

「現在、新たなゲートを登録可能な状態にあります。登録しますか?」

(新たなゲート……?もしかして……)

心当たりは1つある。

ハカセの家だ。

「それって、今すぐに登録しないとダメ?明日とかでも大丈夫?」

「はい。問題ありません」

「じゃあ、それは後で」

一瞬、登録しようと考えたのだが、万が一ハカセの家とは別の場所だった場合、問題がある。

明日、ハカセと相談してから登録するか否かを決めようと思い保留する事にした。


「あの後、何か変わった事ってあった?」

「いえ、特にはありません」

「そっかー。ニーナ的には外に出ても安全だと思う?」

「はい。問題ないと思います」

状況を問うたものの、今回は何の目的もなくゲームをプレイしている遊歩。

何かする事は無いかと考える。

「そう言えば、エリアマスターが居なくなった場所ってどうなるの?違うエリアマスターが統治するの?」

結局何も思い浮かばず、雑談をしながら何かやる事があればやろう。という考えに至った。

「ワタシも詳しい事は理解していませんが、周辺のエリアマスターが勢力を拡大するか魔王が新たなエリアマスターを選任するものと思われます。他にも空白地帯のままや周囲で力の強い者がエリアマスターを名乗るなどの可能性もあります」

「つまり、ニーナもあまり理解してないって事?」

「はい。申し訳ありません」

「別に気にしないで良いよ」

有益な情報を得られなかった事は残念だが、元々情報を得ようと会話をしていた訳ではない。

遊歩は優しい口調でニーナに声を掛け会話を続ける。

怪我が治っていた件や武器の持ち込み、持ち出しなどなど、他にも気になる事はある。

しかし、ニーナからの返答は「分からない」と言うものだった。

会話を続けているとニーナが分からないとする原因が理解出来た。

原因は主に遊歩たちが生活している世界のルールを理解していない為であった。

ニーナの世界と遊歩の世界。2つの世界は似て非なるもの。

細かい部分で異なる事も多い。

その一例に魔法の有無がある。

そう言った部分を理解出来ていないニーナには遊歩が帰還した時の状態の変化、又は遠征してくる時の状況などが分からなかったのだ。


結局何の進展もないまま会話は続いたが、遊歩はある事を思い出した。

それはニーナの目の色の件だ。

ニーナに「目を見せて」と言うのも恥ずかしいし、何かの拍子に見つめ合う事になった場合、更に恥ずかしい。

遊歩は視線を移すフリをしながら不自然に思われない程度に確認をする。

(……本当に金色だ)

そんな事を考え、視線を移した窓の外の光景に違和感を覚える。

(あれ?)

「ねぇ、ニーナ……。外がオレンジ色に染まってるけど何で?」

「夕方だからです」

「うん。それは分かってるよ。その理由が知りたいんだけど……」

「太陽の角度が低くなり、太陽の光が待機を通る距離が長くなるからです。距離が長くなると言う事はそれだけ光が拡散しやすくなり、拡散し難い赤やオレンジなどn……」

「違う違う。そうじゃなくって、前まで何時間たってもお昼みたいに明るかったけど、今はオレンジ色になってるよねって話」

ニーナが天然すぎるのか、遊歩の質問の仕方が悪かったのか。

どちらにせよ、理科の授業の内容のような説明をするニーナを制止し、自身の意向を伝え直す。

「……そう言う事でしたか。恐らく、前任のエリアマスターの影響でしょう。前任のエリアマスターが夜を望まなかったが故に周辺地域で夜が訪れなかったものと考えられます。実際に時間が進まないわけではなく疑似太陽のような光源があるものと考えてください」

何とも迷惑な話である。

「つまり、前にエリアマスターを倒したから昼と夜の区別が付いてるって事?」

「そう言う事だと考えられます」

「さっき特に変化なかったって言ってたよね?」

「はい」

「大きい変化じゃない?」

「……?エリアマスターの影響で雨量が増減したり、夜のみの生活だったり季節が一定だったりする事は珍しい事ではありません。ですので日中のみと言うのも些末な事です」

遊歩は物凄く生活し難そうなどと思いながらも「へぇー」と反応する他なかった……。

「それって、エリアマスターが統治(?)してる場所が全部そんな感じで影響が出るの?」

「いえ、エリアマスターの強さによって影響する範囲も異なります。拠点から遠ざかるほど駅用が小さくなる事は間違いありません」

「そっか」

何となく最後の会話で精神的な疲れを感じた遊歩は早々に雑談を切り上げる事にした。

会話のキリが良いと思うタイミングを見計らい、ニーナに別れを告げ現実世界に帰還。

外を見ると向こうの世界と同じ夕方だった。

(これはこれで時間が分かり易くなって便利なのかな?)

リアルとゲームの時間軸が同じになった事で初日の様に遅くまでゲームに入り浸る事態は避けられそうだと考えた。


~翌日~

今日もいつもの誘惑に負け、母に叩き起こされるまで夢の世界を堪能していた遊歩の登校時刻はギリギリである。

自分の席まで無事に辿り着き、息を整えながら準備を済ませる。

昨夜ゲームにログインした時の事を報告も兼ねてハカセと少し話をしたかったのだが、他の生徒と会話中だったので諦める。

着席をして担任が来るのを大人しく待つ。


朝のHRの時間に危ないので事故現場へ不要に近づかないように注意をされる。

これは遊歩とハカセに向けられた言葉ではない。

クラス全体に向けられた言葉だ。

昨日の給食の時間、爆発事故の件で盛り上がった所為か学校全体での方針なのかは不明だが、結果として釘を刺される結果となった。

いつもなら出席などを済ませた後に軽い話をして終わるが、今日は注意喚起などの時間もあった為、1時間目が開始する時間ギリギリまでHRが長引いていた。

そして、担任が退出して2~3分もしないうちに1時限目の教師が入室してきた。

もし、HRが早く終わっていたとしても悠長に雑談するほど時間はなかったから後でも良いと遊歩は自分に言い聞かせ、気持ちを切り替え授業に臨む。


1時間目の授業が終わるや否やハカセの席に歩み寄る。

「ハカセ、昨日の事なんだけど」

「うん。今日でも明日でも泊まっても全然問題ないってさ。むしろアニキがワクワクし過ぎてウザかったくらいだな。1日と言わずに2日間泊まってもらえとか言って────」

恐らく兄の事を思い浮かべているのだろう。ハカセは笑いを堪えるようにしながら報告を交えながら昨夜の出来事を話す。

遊歩としては自分の話をしたつもりだったのだが、話の切り出し方が悪かったと少し反省をしながら楽しそうに話すハカセに相槌を打つ。

「ウチも止まって大丈夫だって許可は貰ったから予定はお昼休みにゆっくり立てよう」

ハカセは「そうだな」と短い返事をする。

世間話をしているうちに休み時間は終わってしまったが、ハカセへの報告は急ぎと言うほどでもない。

何かしらの進展があったとしても学校に居る間は何も出来ないのだ。

急いて事を仕損じるではないが、短い休み時間の間には無そうと焦り過ぎて言いたかった事を言い忘れるよりは昼休みにじっくり話した方が良いと言う結論に至る。


今日も今日とてハカセが遊歩の席まで机を持ってきて給食の準備。

短い休み時間では話しきれないと思っていた昨日の出来事をハカセに話す時が来た。

「昨日ゲームにログインした時にね、ニーナに新しいゲートが登録出来るって言われたんだけど、俺の予想だとハカセの家のパソコンの事だと思うんだよね」

遊歩は会話始めの前置きなどを無視し、唐突に話し始める。

ハカセは一瞬、会話を振られた事に気が付かずキョトンとした顔で見つめてしまう。

会話を振られた事を理解した瞬間に遊歩の発言を反芻し、遊歩が何を主張したかったのかを考える。

しかし、聞く態勢に無かった為に遊歩の発言の半分も思い出せない。

思い出した事は『ニーナが何かを言っていた』と言う事と『自分の家のパソコン』の事を言っていたと言う事だ。

2つのワードから恐らく自分の家でログイン出来ない現象についての事だろうと推測をする。

「へー。そうなんだ。で、遊歩はどうしたの?」

聞き直しても良かったのだが、会話をしている途中で話が繋がるだろうと安易に考え、自分の考えを全く言わず遊歩に返す事で新たな情報を聞き出そうと試みる。

「うん、それで、ハカセの家のパソコンから入れるようになるのかなって思ったんだけど、違う場所だったらマズイからハカセに相談してからにした方が良いかなって思ったんだけど、登録した方が良いと思う?」

ハカセの作戦通り、遊歩は何の疑いも持たず話を続けた。

元々予想していたような内容だったと確信したハカセは自分の意見を述べる。

「僕の家のPCと繋がるって確証はないのか?少し危なくない?」

「ニーナに登録が出来るって言われただけだからね。俺も危険かなって思って保留してもらったんだよ」

「ニーナに場所は聞かなかったの?」

「場所?」

「ゲートの場所。登録出来るって事は何処と繋がるかも分かるんじゃないのか?」

ハカセに指摘され、何故そんな初歩的な事に気が付かなかったのかと思う。

「そうだよね。何で気が付かなかったんだろう」

そう言われてもハカセに分かるはずもない。

何処か抜けてる所があるのは何時もの事。

慣れた様子で「まあそんなもんだよ」と苦笑いを浮かべる遊歩との会話を適当に流しつつ、新たなゲートについて考える。

(普通に考えればタイミング的にも僕の家のPCで間違いないと思うけど────)

「ハカセ、聞いてる?」

ハカセはゲートの事を考えていて全く話を聞いていなかった。

「え?あー……。ごめん。ゲートの事考えてて聞いてなかった。何の話?」

先程とは違い、全く話を聞いていなかったので会話の予想すらつかない。

今回は正直に聞いていなかった事を謝罪して聞き直す。

「だから、ハカセの家に行くのは今日か明日か決めようって話」

「アニキが会いたがってるし今日で良いんじゃない?それと、話は少し変わるけど、ゲームの件はアニキには内緒な。ゲートの登録もアニキが返ってからにした方が良いかも」

「でも、話しておかないと色々お願いする時面倒にならない?」

「ゲーム自体の話をしないって言うより、核心部分を話さないって事な。たぶん現実世界にも影響がある事とか。アニキの事だから悪知恵を働かせて変な事しそうだし」

ハカセの言う悪知恵を暫時考える。

嫌いな人を殺したり、所有物や建造物を破壊したり嫌がらせをするなど悪事は簡単に思いつく。

「……確かに」

自分ではやるつもりはないが、他人もやらないとは限らない。

ハカセの兄を信用していないわけではないが、ハカセの言う事も一理ある。

ハカセの意見に同意をし、その後は予定を立てる為の会話が続いた……。


~放課後~

いつも通り、談笑をしながら帰宅中の2人。

「じゃあ、ご飯食べてから行くから8時ごろに行くね」

「了解。アニキにもそう伝えておく。またな」

別れ際に昼に決めた予定の確認をし合う。


帰宅した遊歩はリビングに向かい、母に今日の予定を伝える。

事前に了承を取っていたので母の「そう。気を付けてね」の一言のみで話はスムーズに進んだ。

部屋に戻った遊歩だが、夕食まで微妙に時間が空いている。

ゲームをしようかと考えたが、ゲーム内での目的もないし、何か目的が出来て熱中し過ぎても困る状況。

制服から私服への着替えがてらお風呂に入ろうと思い行動する。

夕方なのでお風呂は沸いていない。

シャワーを浴び、着替え終えた遊歩はリビングへ向かいテレビを見て時間を潰す。

そんな遊歩に母が近づき何かを差し出す。

「はい、コレ」

「何コレ?」

「加瀬さん家に行くんでしょ。お世話になりますって持って行きなさい」

紙袋を受け取り、中身を確認すると菓子折りらしきものだった。

恐らく、昨日遊歩がハカセの家に泊まると言っていたので態々買ってきたのだろう。

「えー……。いいよ」

「良くないの。こう言う事はしっかりしておかないとダメ」

友達の親に畏まった挨拶をするのが恥ずかしいお年頃の遊歩は断ろうとするも、母は遊歩の手を半ば強引に押し返し菓子折りを持たせる。

(忘れたフリして置いて行こう……)

「もしも持って行くの忘れたら3か月お小遣い抜きだからね」

遊歩の邪な考えなど御見通しと言わんばかりに普段は見せない笑顔を浮かべながら釘を刺す。

貴重なお小遣いを人質に取られては従わざるを得ない。

ハカセの両親に直接渡すのではなく、一度ハカセに渡し、間接的にハカセの両親の下に届けば良いと考えを改める。


そんな一悶着があったりもしたが、夕食を済ませると約束の時間が近づいていた。

忘れないようにと玄関に置いた菓子折りを手にハカセの家に向かう。


~ハカセ宅~

ピンポーン……。

インターホンを押すとハカセが出迎えてくれた。

「おじゃましまーす」

「アニキは何か出掛けたから後で呼ぶとして……。取り敢えず部屋に行こう」

ハカセの後に続きハカセの自室まで移動をする。


これからハカセの兄との対面する事になる。

そして、遊歩たちの長い夜が始まろうとしていた────。



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