相違
「────時過ぎ、…………で大規模な爆発がありました。…………現在、警察と消防が…………怪我人などの情報は現在のところ入っていません────」
顔を見合わせる遊歩とハカセ。
ドア越しに聞こえてきたニュースだったので一部しか聞き取れなかった。
だが、確実に心当たりのある単語は聞こえていた。
「ハカセ今の聞いた?」
「あぁ」
「やっぱり、聞き間違いじゃないよね」
遊歩はリビングのドアを開ける。
「母さん!今のニュースって何?」
「近所で爆発事故があったみたいよ。物騒ね……。外も暗くなってきてるし、ハカセ君も帰り道は気を付けてね」
「はい。お邪魔しました」
リビングのドアを閉め、黙って玄関まで向かう2人。
「やっぱりアレが原因だよね?」
「だろうな」
恐らく原因はハカセが使用した魔法なのだろう。と遊歩とハカセは推察している。
2人の間に重苦しく不穏な空気が漂う。
「じゃあ、僕、帰るわ」
場の空気に耐えきれなくなったハカセが玄関の戸を開けながら帰宅する事を告げる。
「うん……またね」
遊歩が小さな声で返答するとハカセは玄関を出る。
「……」
ハカセが帰宅した後も暫時、黙ったまま玄関から動かない遊歩。
「母さーん!俺、ハカセ送ってくるからー!」
「もうすぐ晩御飯だから、あまり遅くならないようにね」
「分かってるー」
玄関からリビングに居るであろう母に声を掛け、家を出る。
走ってハカセを追いかける。
数十秒で歩いているハカセの後ろ姿を確認する事が出来た。
「ハカセー」
「どうした?僕、何か忘れものでもした?」
「そうじゃないんだけど、少しハカセと話したいなって思ってね」
遊歩なりの気遣いなのだろう。
「変なの。まあ、良いけど」
ハカセも遊歩の気遣いには気が付いている。
気が付いているからこそ無粋に断るような真似はしない。
「ハカセの所為じゃないからね。不可抗力だよ不可抗力」
「そうは言ってもな……」
「それに偶然爆発事故が近くであったって可能性もあるし、あの場所だって確証はないじゃん」
遊歩は恐らく爆発現場はあの場所だと考えている。
しかし、ハカセを励ます為にも明るく話すように努めている。
ハカセもその辺りは理解しているが、原因の一端が自身にあると考えると気落ちせずにはいられない。
「まあ、そうかもな……」
遊歩の気持ちを汲んで尚、これが限界だった。
その後もハカセの家に到着するまでの間、会話を続けるもののハカセは気持ちの整理が付かない。
「またね、ハカセ」
「送ってくれてありがとう。また明日な」
玄関先でハカセと別れた後、遊歩の足は自宅とは別の方向へと向かう。
そう、例の現場だ。
現場に到着した遊歩。
(やっぱりここだ……)
現場周辺は警察により規制線が張られていた。
事故からある程度の時間が経っている所為か野次馬は疎らな状態になっている。
もう少し近づいて確認したい気持ちもあるが、邪険にされるのがオチだと思い素直に帰宅する事にした。
「ただいまー」
「おかえり。どうだった?」
「何が?」
「何がじゃないわよ。どうせ見て来たんでしょ?爆発現場」
母にとって遊歩の取る行動は想像に難くない。
『ハカセを家まで送る』と言う普段は行わない行動をした時点で野次馬根性丸出しにして現場に行く事は火を見るより明らかだった。
母としても事故の事は気になっていた。
だが、現場までの距離が少し遠かった事や家事などで時間がなかったので遊歩の帰りを待っていたのだ。
「警察の人が沢山いたよ」
「それだけ?」
「テープが張られてて近づけなかったから詳しく見てないし」
「そう。明日になればもう少しちゃんとしたニュース出るかしら」
遊歩からの情報収集を早々に諦め、食事の準備を再開するのだった。
遊歩も自室に戻るか悩んだが、自室に戻っても食事ですぐに呼ばれると考え、リビングでテレビを見る事にした。
いくつかのチャンネルを確認したが、爆発事故の詳しいニュースはなかった。
先程は速報として一時的に流れていただけのようだ。
その後、食事を終え自室に戻る。
(流石に今からゲームやる気にはならないな……)
PCをチラリと横目で確認をするものの、1人で再開する気にはならない。
他のゲームで時間を潰そうとするものの身が入らない。
何をしても20分と経たないうちに飽きてしまう。
ゲームがダメならと漫画に手を伸ばすものの、全く面白くない。
仕方がないと諦め、着替えを準備してお風呂に入る事にした。
ここで勉強と言う考えに行き着かない辺りが遊歩の駄目な所だろう……。
40分ほど入浴したが、気持ちが切り替わる事もなかった。
23時頃までリビングでボーっとテレビを眺めていたが、事故があったと言う事実がチラッと出るのみで爆発事故に関する続報は無い。
母に「いい加減もう寝なさい」と促され、自室へ戻る。
翌日の準備をし、やる事も無かったのでベッドに入り消灯。
今日の出来事を頭の中で整理しようしていたのだが、難しい事を考えているうちに入眠していた。
翌朝、遊歩は目覚ましの音で目覚める。
上体を起こし、数分ボーっとしている。
意識は完全に覚醒している状況ではない。
半分以上無意識の状態での行動。
ここまでの一連の流れがルーティン化している所為で身体に記憶されて勝手に動いているのだろう。
ここからの遊歩の取り得る行動は2つ。
再度上体を倒して夢の世界に逆戻りするか、誘惑に打ち勝ちベッドから脱出するかだ。
本日の遊歩は……。
「zzz……」
6割~8割の確率で2度寝の誘惑に負けている実績は伊達ではなかった。
7時半過ぎ、唐突に遊歩の部屋のドアが開け放たれる。
犯人は遊歩を起こしに来た母だ。
「遊歩、いい加減起きなさい」
口だけでは起きない事を理解している母は同時に強硬手段として掛け布団を剥がす事と窓を全開に開け放つ事も忘れていない。
布団でぬくぬくと微睡んでいた遊歩に朝の冷たい空気が襲い掛かる。
ブルっと一瞬震えた後、胎児のように両足を抱いて丸まって冷気から逃げようとするものの、頼りの布団が奪われてしまっているのであまり意味が無い。
遊歩は寝惚け眼を擦りながらベッドに腰掛ける。
「起きた?」
「うん……おきた」
条件反射で答えているだけで半分は寝ている。
「早く準備を済ませて、ご飯食べちゃいなさい」
そう言い残すと母は部屋から出て行った。
遊歩はボーっとした頭で強奪された布団の行方を探す。
布団はベッドから遠い位置に四つ折りにさている。
幾度となく遊歩と母の間で繰り返された寝起き闘争の末に母が編み出した策略。
それは無理矢理にでもベッドの上から移動させる事。
その効果は抜群だった。
再度眠る為には布団の場所まで移動する行為と布団をベッドまで運ぶ行為、そして布団を広げてベッドに入る行為の最低でも3つの段階を踏む事になる。
ベッドに潜り込むまでの間に否が応でも遊歩の目は覚めてしまうのだった。
遊歩は朝と勉強が苦手なだけで、学校に行くこと自体は嫌いではない。
目が覚めれば普通に学校へ行こうとする。
その後は順調に朝の準備を済ませ登校する。
自分の席に座り周りをキョロキョロと見渡す。
まだハカセは来ていないようだ。
HR前の予鈴が鳴り止んだ頃、ハカセが滑り込むように教室に入ってきた。
「セーフ……」
呟くハカセの軽く息が上がっている事から、走ってきた事が容易に予想出来る。
「おはよう。今日は遅かったね」
「まあな」
ハカセが遊歩の横を通る時に一言だけ挨拶をする。
ハカセが遅刻する事は滅多にない。それどころか今日みたいに予鈴が鳴るまでに登校していない事も稀だ。
遊歩は遅刻しそうになった理由を聞きたかったのだが、もうすぐ朝のHRが始まる。
ハカセがイソイソと教科書などを机に入れ、授業の準備をしている事を確認した事も相まって後で聞けば良いと言う結論に至った。
1時間目が終了したが、2時間目体育。着替えと移動で休み時間にハカセと話す時間はなかった。
3時間目も2時間目の体育からの移動と着替えで時間的余裕はない。
そして、4時間目は音楽で移動。タイミングが合わず、3時間目と4時間目の休み時間も流れた。
音楽の授業が終わり、給食の時間。
いつも通り、ハカセが遊歩の席に机を運んで来る。
「今日、朝遅かったけど寝坊したの?ハカセにしては珍しいよね」
「あー……。あれか。あれは朝、現場を見に行ったからいつもより少し遅くなっただけ」
「現場って爆発現場?」
「うん」
「俺も昨日ハカセと別れた後に行ったけど、警察が居て近づけなかったよ。今朝は大丈夫だった?」
「バリケードテープがあって中には入れなかったけど、警察とかは居なかったな。実況見分は終わったのかな?まあ、結構近くで見る事は出来たと思う」
ハカセが今朝、遅刻しそうになった話から、昨日の爆発事故の話に移る。
「昨日の爆発事故の話?今朝のニュースで行方不明者1名軽症者多数って言ってたけど、どのくらいの規模だったの?」
「行方不明って跡形もなく消し飛んだとか?」
遊歩たちの会話が聞こえて興味があったのだろう。近くにいた女子生徒が会話に参加する。
女子生徒が会話に参加した事を皮切りに近くに居た男子生徒も会話に参加。
遊歩の周りは爆発事故の話で盛り上がり始める。
そして、朝にニュースを見る暇のなかった遊歩にとっては初耳の情報もチラホラ。
「規模か……。見てきた限りだと直径30~40メートルくらいかな。何かクレーターみたいになってたんだけど、あそこって何があったか分かる?」
「ちょっと分からないかな」
そう言うと女子生徒は元々何があった場所か分かる人が居ないか周りの生徒に話を振る。
話を振られた生徒の一人が「確かアパートがあったと思う」と回答。
「アパートだって。急な爆発事故とか怖いよね。でも、全員外出してて、行方不明者が1人だけって結構奇跡的だよね」
女子生徒はそう言い残すと元のグループの方へ向き直り、女子生徒同士で別の会話をし始める。
男子生徒も男子生徒のグループで事故の話をしている。
「行方不明者ってエリアマスターかな?」
会話を聞いていた遊歩の中に1つの疑問が生まれていた。
疑問を解消するかのようにハカセに質問をする。
「どうなんだろうな。そもそもエリアマスターが誰だか分かってない時点で確かめようがない」
口ではこう言っているものの、ハカセの中で十中八九エリアマスターだろう。と推測をしている。
そして、ハカセの中に1つの疑問も生まれた。
その疑問を今、遊歩に伝えるべきかを悩んでいる……。
「あのさ、遊歩……」
「オマエら、事故の話で盛り上がるのはいいけど、さっさと食事済ませろよ。食べるのが遅いと片付けも送れるからな」
遊歩たちの話から波及し、クラス全体で事故の話が盛り上がっていた。
話ばかりで肝心の食事をせずにいる生徒を見兼ねた教師が注意を促す。
生徒たちは各々返事をし、程よく会話をしながらの食事に戻る。
「ハカセ、何か言った?」
「いや、何でもない。気にしないで大丈夫」
教師に会話の出端を挫かれた事により、疑問を口にするタイミングを見失う。
疑問を遊歩に伝えても良かったのだが、注意を受けた手前、話に集中し過ぎるのも問題だと考えたのだ。
給食を終え、昼休み中。
あまり時間は取れなかったのもの、ハカセは遊歩に要点だけを伝えておく。
「遊歩、エリアマスターの事なんだけど、やっぱり行方不明の人だと思うよな」
「うん。でも、さっきハカセも言ってたけど確かめようがないよね」
「それって少しおかしくないか?」
「何が?」
遊歩は特に疑問に思う事はない。
故にハカセが何を『おかしい』と感じているのか理解できない。
頭の上に疑問符が浮かんでいる様な遊歩の表情を見て、ハカセは自分が異様に感じている点を口にする。
「だってさ、鬼原の事は僕も含めて皆忘れてるんだろ?何でエリアマスターは行方不明なんだ?」
「……どういう事?」
ハカセが指摘している事が理解出来ていない。
ハカセは「はぁ……」と軽くため息をつき遊歩でも分かるように説明をする。
「だから、行方不明って事はエリアマスターが居たって事でしょ?」
「そうだね」
「何で鬼原の存在は忘れられてるのに、エリアマスターの存在は覚えてるの?行方不明って事はその人が居た証拠があるって事でしょ?まあ、エリアマスターじゃない可能性もあるけど、行方不明者の情報が残ってるのは不自然だと思うんだよ」
「なるほど!……なんでだろう?」
ハカセの言いたかった事は理解した。
しかし、その真相は不明のままである。
その後、2人で仮説を立ててみたものの、所詮は仮説。
確信の持てる答えは出ないまま昼休みは終了した……。
~放課後~
「遊歩、帰ろうぜ」
帰り支度をしている遊歩はハカセが声を掛けられる。
遊歩は「うん」と短い返事をしてハカセの提案を了承。
日常会話をしながら校門を過ぎるとハカセは急に話題を変更。
昨日の爆発事故の話をしたいようだ。
「今から現場に行ってみないか?」
「良いけど、入れるかな?」
遊歩も事故の事は気になっているので反対する理由はない。
「多分まだ無理じゃないかな。僕は朝見て来たけど、時間が無かったからもう少しゆっくり見たいだけだし、何か手掛かりを得られる可能性は低いと思う」
「それもそっか」
短く返事をするものの、遊歩は自分たちにしか理解出来ないような手掛かりがあるかもしれないと少し期待している。
~爆発現場~
「やっぱりは入れないね」
未だに規制線が張られている。
バリケードテープの目の前まで近づいたものの、その先は大きな穴が開いているだけで特に手掛かりになりそうなものは見当たらない。
「ハカセ、これからどうする?」
「軽症者が沢山いたって言うだけあって、建物の破片とかが散乱したっぽいよな」
遊歩の質問を無視し、ハカセは現場の考察を続けている。
「そうだね。あっちでもそうだったもんね」
「そうなんだよな……。遊歩の話も考慮すると鬼原の存在だけが唯一の違いなんだよな。……あっ!あと、ニーナの存在か」
「まあ、ニーナは俺が初めてゲームにログインした時にキャラエディットしたんだよ。細かい所まで設定させられて少し面倒だったんだよね」
「えっ?」
遊歩の発言はハカセにとって初耳。
驚愕のあまり、言葉を失ってしまう。
「あれ?言ってなかったっけ?」
ハカセにゲーム内容を聞かれた時に説明をしていたと思い違いをしていた遊歩。
当時は頭が働いていなかった為、抜けてしまっていたのだろう。と考えた。
「なるほど……。だから、髪の色が薄紫だったり……」
「あー……。あれね。白って設定したんだけど、やっぱり少し紫が入ってる感じだよね。まあ、真っ白よりは良いよね」
「目の色が金色っぽかったり、現実離れしてるのか。まあ、それはそれで過去の記憶があるのは矛盾してる気もするが」
「あれ?」
「どうかした?」
(赤と青のオッドアイにしたはずだったけど、設定の時、見間違えたのかな?)
「ううん、何でもないよ」
自分の思い違いか操作ミス、選択ミスの類だと考え、ハカセの疑問を流す。
「となると、やっぱりニーナが何か知ってる気がするんだよな」
「じゃあ、今からゲームしてニーナに聞いてみる?」
「とは言え、ニーナもニーナで怪しいんだよな」
「何が?」
「明らかに核心の部分だけ覚えてなかったじゃん。本当に記憶が無いのか怪しい。実は僕たちに何か隠してるって可能性もあるかも」
「そうかもしれないけど、確かめようがないよね」
「そうだな」
「「……」」
遊歩としては自分で作成したキャラと言う認識が強いので疑いたくないのかもしれない。
しかし、ハカセにとっては無関係な事なので疑惑の目を向けてしまうのも仕方のないだろう。
結果、会話が止まり、2人の間に何とも言えない重たい空気が流れる。
暫時、時が流れる。
「今日もゲームやる?」
話を切り出したのは遊歩だった。
「今回の爆発事故が偶然だった可能性も無きにしも非ずって感じだけど、ゲームと何か関係があるなら、あっちで何か大きな事が起きると危険すぎるんだよな」
「でも、俺たち以外……。例えば元々あっちに居る人が何か事件とか起こした場合どうなるんだろう?」
「……」
恐らく、今回の様な原因不明の事件、事故、病気などになると予想は出来るが確証はない。
ハカセは正直に自分の予想を述べて良いのか迷い、答えに詰まる。
「やっぱり何か分かるまでやらない方が良い?」
「とは言ってもこのままじゃ何も分からないしな……。そうだ!1つ試したい事があるんだけど良いか?」
「試したい事?」
「僕の家のパソコンにゲームをインストール出来るかどうかを試したい」
「あっ、それ出来たら便利かも。ハカセの家からも入れたら俺の家に集まる必要もなくなるもんね。やってみようよ。今からハカセの家にゲームソフト持って行けば良い?」
ハカセが遊歩と一緒にプレイするとは言っていないにも拘らず、遊歩の中では2人が集まってゲームをする事が前提となっているようだ。
そして、ゲームの危険性を理解しているのか疑いたくなるほど遊歩はゲームをやりたいようだ。
「ま、まあそれでも良いけど……」
「じゃあ、準備したらすぐ行くね」
「お、おう……」
遊歩の食いつきように多少引き気味なハカセであった……。
~ハカセ宅~
「おじゃましまーす」
「誰も居ないから気を遣う必要はないよ」
家に上がる前に挨拶をする遊歩だったが、ハカセの家族は不在のようだ。
しかし、遊歩はハカセの家族に気を遣って挨拶をしたわけではない。
挨拶はしっかりとする。そう躾けられたが故の癖の様なものだ。
深山家の教育の賜物とも言えるだろう。
「ハカセの両親は共働きだもんね。自由な時間が多そうで良いよね。ウチのお母さんはいつも家に居て、何かにつけて小言は多いし────」
ハカセの部屋へ移動するまでの間、遊歩の母に対する愚痴は続く……。
ハカセは『血は争えないんだな……』などと思いながらも適当に相槌を打ちつつ遊歩の話を聞き流した。
「はい、コレ」
PCのDVDドライブのトレイを開けたハカセにソフトを渡す。
ハカセは慣れた手つきでPCを操作し、ダウンロードを開始させる。
「普通にダウンロードできそうだな」
プログレスバーの存在を確認し、ハカセが短く一言口にする。
遊歩もハカセの横から画面を確認し同意をする。
PCから読み込み音が消え、インストールが完了。
デスクトップ上にショートカットは存在しているが、遊歩が初めてインストールした時とは違い、ランチャー画面は出てこなかった。
「ダウンロード出来た?」
「たぶん」
ハカセはゲームアイコンをダブルクリックする。
「あれ?起動しないんだけど」
しかし、何も起こらない。
何度かクリックしてみるものの、状況に変化は無い。
ダブルクリックでの起動を諦め、右クリックでメニューを出して起動を選択。
一瞬、ゲームウィンドウの枠のみが出現するのだが、すぐに消失してしまう。
頭を悩ませているハカセを横目に遊歩も同様の事をしてみるが結果は同じだった。
「なんでだろうね?」
「うーん……。分からん」
「ハカセのお兄ちゃんに聞けば何かわかるかな?」
「アニキか……。いつ戻ってくるか分からないんだよな。いつも連絡も無く突然戻ってくるからな。今は仕事してると思うから後で連絡してみる?」
現在一人暮らし中のハカセの兄。
遊歩も新作ゲームを渡される時に度々顔を合わす機会のある人物だ。
ゲーム会社に勤めている事もあり、ハカセの家のPCでゲームが出来ない理由を解決出来ると思い提案したが解決まで時間が掛りそうだ。
「連絡出来るならお願い」
「OK、夜電話してみるよ。ソフトは持って帰る?」
「再インストールしないといけない可能性もあるから置いて行っても良い?」
「良いよ。アニキが戻ってくる予定が立ったら明日教えるわ」
「うん。じゃあ、今日は帰るね」
「まだ何も分からない状況だからあのゲームはプレイしないのが無難なんだろうけど、遊歩にゲーム禁止って言っても無駄だと思うから程々にな」
ハカセの家でログイン出来なかったので解散する流れになった。
帰宅した遊歩だが、ハカセから忠告を受けた事もあり、ゲームをする事無く眠りについたのであった────。