パーティ
急いで帰宅した遊歩。
玄関に靴を脱ぎ棄て、リビングに居るか不明な母に大きな声で話しかける。
「母さーん!今からハカセ来るからー!」
例えリビングに居なかったとしても家中に響くような声量。
これで大丈夫と考えている遊歩は自室へドタドタと騒がしく足音を立てながら掛け上がる。
自室に入った遊歩はカバンをベッドへ放り投げ制服の上着を脱ぎ、ワイシャツのボタンを2つ外す。
普段通り動きやすい恰好になった遊歩はPCの電源を入れる。
「準備って他に何をすればいいんだろう……?」
ゲームのダウンロードは完了している。
他にハカセが到着するまでに出来る事と言えばVR用のデバイスの装着のみ。
ハカセが遊歩の家に遊びに来る事は珍しくない。
しかし、今の遊歩は普段以上にソワソワしながらハカセの到着を待ち侘びている。
座ってゆっくりしたり、他の事をしたりで時間を潰せば良いと思うのだが、そうはいかないらしい。
落ち着きなく部屋の中をウロウロと動き回っている状態だ。
自室内では飽き足らず、部屋と玄関を無駄に行き来したり、無駄に冷蔵庫の開け閉めをしたり……。
そんな折、不意に家のインターホンが押され、チャイムが遊歩の耳に届く。
モニターへ近づき訪問者を確認。
画面に映るハカセの姿を確認した遊歩は玄関へ向かいハカセを招き入れる。
母にハカセが来た事を伝え、自室へと向かう。
「で、早速本題だけど、問題のゲームは?」
「うん。これなんだけど……」
ハカセに問われ、スリープ中のPCを動かしゲームアイコンを指差す遊歩。
「いや、DVDで送られてきたんだろ?そっち見せて。出来れば配送されてきた箱とか相手の情報が分かりそうなものが残ってるならそれも出して」
ハカセに指摘され、自分の思い違いに少し羞恥を感じながらゴミ箱を漁る遊歩。
漁ると言ってもゴミ箱の一番上に丸めて捨ててある封筒と当選用紙を取り出して確認しただけだ。
多少、丸めた時のシワを伸ばしハカセに手渡す。
「え?普通の封筒?梱包とか緩衝材はなかったのか?壊れたりしたらどうするつもりだったんだろう?何か危なっかしいな………」
手渡された封筒を確認したハカセが驚愕したような呆れたような感想を述べる。
ハカセが色々と確認している最中に遊歩はPCのディスクドライブを開けゲームを取り出す。
机の上に無造作に開かれたままの状態で置かれているDVDケースにソフトを入れハカセに差し出す。
「うん、特にプチプチとかも入ってなかったよ」
「確かにアニキの筆跡に似ていると言えば似ている気もするし、似ていないと言われれば似ていない気もするな……。こっちの紙は印刷だから手掛かりは0だな」
DVDを受け取る代わりに感想を述べながら封筒などを遊歩に返却。
ひとしきりDVDケースとソフトを確認し終えたハカセ。
「うーん……。何にも分からん。遊歩の事だからDVDとBDの違いも見分けられないのかと思ってたけど本当にDVDだし。まあ、1つ疑問なのは今時BDですらない何の変哲もない只のDVDだって事くらいだな。少しくすんでるって言うか、黄ばんでるって言うか、少し変色してる気もするけど気にするほどでもないしな」
「裏が青いのがBlu-rayでしょ。流石にゲームやってるからそのくらいは区別つくよ」
「それもそっか」
遊歩同様、ハカセも送り主の手掛かりは発見出来なかった模様。
「ゲームも起動してみる?」
手掛かりがあるとするなら、残りの可能性はゲームのみ。
遊歩はハカセの返答を待たず、デバイス一式を装備し始めている。
元々、ゲーム内容も確認するつもりだったハカセ。
遊歩の行動に対して何も口出しをせず待機。
遊歩が全てのデバイスの装着が完了したのを見計らい遊歩に声を掛ける。
「そうだな。僕はモニターで確認して気になる箇所があったら遊歩に指示を出すから、その時はよろしく」
「おーけー」
遊歩は短い返事をした後、グローブ型デバイスを操作し、ゲームを起動。
「えっ……?」
ハカセの狼狽した声が聞こえた。
しかし遊歩の視界は昨晩同様、サイバー空間の様な風景に変化。
(ハカセが何か言った気がするけど、ゲーム開始してからゆっくり聞き直せば大丈夫だよね……)
無事ゲームの起動に成功した事で、遊歩の意識はハカセの声の事からゲームの事へ移行する。
そして、これも昨晩同様、ゲーム内の遊歩の部屋に移動が完了した。
遊歩は一旦、周りを見渡し確認をする。
まず、自身の右手側に視線を移す。
そこには少女がポツンと体育座りの状態で待機していた。
少女は遊歩と視線が合うと立ち上がる。
「おかえりなさい」
「(昨日も同じ会話をしたような気が……)うん。ただいま」
暫時、昨晩の会話が頭を過った遊歩だが、ゲーム開始時の挨拶としてプログラムされている会話だと考え返事をする。
「その方は何方でしょうか?」
少女に問われ、遊歩は少女の視線の先を追う。
遊歩の目に映ったのは口をパクパクとさせているハカセの姿だった。
「あー……ハカセね。俺の友達だよ。……でも、何でハカセまで再現されてるんだろう?やっぱり部屋に隠しカメラとか設置されてるのか?後でしっかり調べないとな……」
少女の質問に淡々と答え、ハカセがゲーム内の自身の部屋に居る事を疑問に思う遊歩。
行き着く答えは隠しカメラの存在。
遊歩は隠しカメラを設置可能な場所を考えながらブツブツと呟いている。
「い、いやいやいや……。何、冷静に紹介してるの!?どうなってんだ……コレ……」
「フルダイブ何とかってやつとか、メタ何とかってやつでしょ?技術の進歩って本当に凄いよね~」
「フルダイブシステムとメタバースだな。……ってそうじゃなくて、僕、何も付けてない!急に視界がぐわー!ってなったと思ったら遊歩の部屋に戻ってるけど、遊歩はデバイス付けてないし、知らない女の子居るし、本当にどうなってんだ!?」
「えっ……?」
暢気にゲーム気分だった遊歩だが、ハカセが狼狽えつつも必死に説明しようとする姿を見て現状を多少理解。
今、自分の立っている場所が只のゲーム世界ではない事に気が付き動揺する。
しかし、動揺した所で何も変わらない。
説明を求めようと少女へ視線を移す。
「ハカセをパーティの一員として登録しますか?」
目の前で繰り広げられた会話を無視し、遊歩の助けを求めるような視線など意に介する様子もなく全く関係のない話をする少女。
「いやいやいや、そうじゃなくって……」
「分かりました。パーティ登録は不要」
「いや、それも違う。……ってか、パーティ登録って何?」
冷静なのか混乱しているのか遊歩は少女の会話の内容が気になってしまった様子。
「そうじゃなくって!ここ何処なの!?」
ハカセは2人の会話に流される事無くツッコミを入れ説明を求める。
「遊歩の部屋です」
淡々と答える少女。
ハカセはガックリと肩を落とし、「それは知ってる」と呟く。
少女も少女で質問に答えたのに納得していないハカセを見て、ハカセが何を質問しているのか理解が出来ず、頭の上に疑問符を浮かべたような表情。
「ゴメン、ちょっとハカセが混乱してるようだから一旦戻っても良い?」
「はい」
少女の短い返事を聞き、遊歩はパソコンを操作。
サイバー空間の様な視界を経由して、自室に戻る。
遊歩は自身に装着したデバイスを全て外し机に置くとハカセに声を掛けます。
「こんな感じなんだけど……どう思う?」
遊歩に質問をされたとて、何の答えも持ち合わせていないハカセ。
『どう』もクソもない。
「ゴメン、ちょっと待って」
遊歩に一声かけてからベッドに軽く腰掛け頭を抱え考えるハカセ。
現実離れし過ぎている状況に理解が追い付かない。
遊歩が今日1日中話していた事は妄言だと思っていた。
ゲームと現実の区別が付かなくなるほど熱中していたのだろ……と。
しかし、自分がたった今体験した事は確実に夢ではない。
否定しがたい現実。
仮に遊歩が言っていた事が全て現実だとして……。
『仮に』ではない……。今、自分が体験した事が全て。
状況を整理しようとするも、何処から整理すれば良いのか分からない。
全てが現実離れし過ぎている。
仮定に仮定を重ねる事しか出来ず、疑問が堂々巡りする。
遊歩に話を聞いても遊歩自身あまり理解していないだろう。
そう考えたハカセは唯一の手掛かりから情報を得る事が一番無難だと考えた。
「遊歩、もう一回あの世界に行く事は出来るのか?」
「出来ると思うけど、すぐ行くの?」
「勿論。あそこに居た女の子に話を聞くのが一番手っ取り早そうだからな」
そう、ハカセが考えた唯一の手掛かり。
それは現実世界の遊歩の部屋にはいない少女の存在。
あちらの世界に精通していそうな感じで尚且つ現実世界では見た事の無いイレギュラーな存在。
その少女は遊歩と普通に会話をしていた。
つまり、何かしらの情報を得られるのではないかと考えたのだ。
ハカセの提案を受け遊歩はパソコンを操作。
再度ゲーム世界に移動する。
「おかえりなさい」
2人への声掛けなのか、遊歩のみへの声掛けなのか不明だが、少女は2人を出迎える。
少女の存在が無事ゲーム世界への移動を完了した証となっている。
「うん、ただいま。ハカセが君に聞きたい事があるみたいなんだけど大丈夫?」
「問題ありません」
移動前にハカセが『女の子に話を聞くのが一番手っ取り早い』と言っていたのを覚えていた遊歩は少女とハカセが会話をする為に仲介をした。
そして、少女も遊歩の提案に何の疑問も持つことなく快諾している。
これで、少女とハカセが会話をする為の体裁は整った。
早速ハカセは少女に質問を投げかける。
「じゃあ、まず1つ目の質問。ここは何処だ?」
「遊歩の部屋です」
「それは見れば分かる」
「?」
要領を得ない回答。
ハカセは頭を掻き、質問の内容を少し変更する。
「僕たちが居た世界との関係が知りたいって話なんだけど、元の世界から見たら此処は何処になる?」
「申し訳ありません。遊歩とハカセの世界を知らないので分かり兼ねます」
「……。じゃあ、君は誰?」
「ワタシは遊歩のパートナーでこの世界のガイドです」
「遊歩が初めてこの世界に来た、何故此処に居た?」
「ゲートから到来する人のお世話を命じられていたからです」
「誰から?」
「誰……?…………博士……?あれ……?ワタシは誰に……?」
ハカセからの質問に少し考えこむ少女。
少女の口から出た『博士』と言う単語。
しかし、それ以上の言及はなく、少女も少し困惑気味。
「博士って目の前のハカセ?」
遊歩が助け舟を出し、回答を促す。
ジッとハカセを見つめ、少女は答えを見つけ出そうと思考する。
「いえ、違います。ハッキリとは覚えていませんが、もう少し大人な方だったと思います。ただ、雰囲気は似ている様な気もします」
「……まあ良い」
表情などには出さないようにしているが、少女に見つめられ少しどぎまぎした様子のハカセ。
緊張した所為か短く返事をするのみ。
「他に質問はございますか?」
少女はハカセを気にする素振りも見せず淡々としている。
「君の名前は?」
「あー!そう言えば聞いてなかった!」
「名前?名前は特にありません」
「「……」」
先程の事もあり、触れてはいけない部分に触れてしまった自覚のある2人。
何と返事をすれば良いのか悩み黙ってしまう。
全員が沈黙してしまう事で微妙な空気が漂う……。
「い、以前に呼ばれてた時とかはどうしてたの?君に命じた博士から何て呼ばれたたとか万象紲滅剣を俺より前に使ってた人が居たって言ってたよね?その人が君を何て呼んでたとか覚えてない?」
「万象紲滅剣?」
聞き馴染みの無い単語に反応するハカセ。
遊歩はハカセに見せる為、アイテムボックスから『万象紲滅剣』を取り出す。
「これが万象紲滅剣。前に此処に来た時にもらったんだよ。銃刀法違反で捕まるから外では持ち歩けないんだけどね」
「…………いやいやいや、そんな事より今の何だ?何処からその剣取り出した?」
遊歩が『万象紲滅剣』を取り出した瞬間、ハカセは口をあんぐりと開け驚いた様子を見せていた。
しかし、何の説明もなく『万象紲滅剣』の説明をし始める遊歩に対し、思わずツッコミを入れる。
「あー……。アイテムボックスの事?こっちの世界では使えるみたい」
質問をされたが、然も当然の知識かのように返答をする遊歩。
「ゴメン……。何か頭痛くなってきた」
「大丈夫?風邪?」
「風邪ですか。病気は初期症状の時の対応が大切です。風邪の場合、十分な水分補給と睡眠。体温調整……」
「誰の所為だと思ってんだ……」
肩をガックリと落とし諦め気味に呟くハカセ。
「風邪はハカセの所為じゃないの?」
「お前らの所為だよ!!ってか風邪じゃねーよ!!」
あまりにも会話が噛み合わなさ過ぎてツッコミを入れる。
遊歩が小さく「ゴメン」と謝罪する。
「僕の方こそゴメン。急に大きな声出しちゃって。話が逸れてるから質問に戻っても大丈夫か?」
「はい。問題ありません」
その後、ハカセが少女に質問をするものの、重要な部分で少女の記憶は曖昧。
結局、遊歩が前日に説明をされた事以上に有益な情報は無かった。
「結局、詳しい情報は無い……か。あっ、そうだ。少し前の質問に戻るんだけど、君は以前、何て呼ばれてたんだ?呼び名がないと今後不便でだろ?」
「GK-27や27番、27号などと呼ばれていた記憶があります」
「……遊歩、どうする?」
予想外の答えに困惑し、遊歩に丸投げするハカセ。
「同じように呼んだ方が良い?って言うか呼ばれたい?」
「…………。いえ、どのような名称でも問題ありません」
少女は少し考えた後、回答をする。
遊歩としては少女の意見を尊重するつもりだったのだが、帰ってきた答えに少女の意思は感じられない。
流石に苦笑いをし、誤魔化す事しか出来なかった。
「そっか~……。27だから……。ニナとかニーナとかって呼んでも大丈夫かな?」
「はい。問題ありません」
「ハカセ、どっちが良い?」
「正直どっちでも良い」
噛み合わない会話や何の成果も得られなかった受け答えなどの影響で疲れていたハカセは力なく答える。
本心から『どっちでも良い』と思っているのだろう。
「じゃあ、ニーナの方が少し可愛いからニーナね。君の名前は今からニーナだよ」
少女にニコッと柔和な微笑みを向けながら新たな名前を伝える。
「承認しました」
遊歩の微笑みにつられ、ニーナも微笑み返しながら提案を了承する。
ただ、普段微笑みなれていないのかニーナは不器用な微笑みになってしまっている。
「それでこれからどうする?」
「ん~……。あっ!そうだ!ねぇニーナ、パーティがどうこうって言ってたけど、俺とハカセがパーティを組んだら何かあるの?」
「色々と便利です」
「また具体性のない答えだな……」
「まあまあハカセ、そんな言い方しないで。色々と便利って事だし、パーティ登録してみようよ」
「遊歩がそれで良いなら別に僕は良いよ」
「じゃあ、ニーナよろしくね」
「承知しました」
短く返事をするとニーナは目の前の虚空で手を動かす。
遊歩とハカセはニーナの行動を見守る。
暫時するとニーナが顔を上げる。
「パーティの登録が完了しました。ハカセが遊歩のパーティに登録された事により、ワタシからの武器の供与が可能になりました」
「やったねハカセ。俺の万象紲滅剣もニーナに貰ったものだからね」
パーティを登録した事によって明らかになった利点の1つに遊歩は大喜び。
先程、同様の説明をしたにもかかわらず遊歩は『万象紲滅剣』を再度取り出し説明をする。
「貰える武器って決まってるのか?」
そんな浮かれた遊歩を軽く無視し、ハカセはニーナに問いかけます。
「いえ、希望があれば伺いますが、ワタシが所持していない可能性もあるので何とも言えません」
「なるほど……。この世界では魔法とかって使えるのか?」
「適正があれば使用可能です」
「あー……普通に魔法ってあるんだ……。僕に適性は?」
「確実ではありませんが、恐らく適正はあると思われます」
「やった♪じゃあ、魔法武器はあるか?」
「はい」
短い返事の後、ニーナはアイテムボックスの中から1冊の古惚けた本を取り出しハカセに差し出す。
「何か薄汚れてるな……。魔法ってロッドとかじゃないの?」
本を差し出されたものの、汚れなどが気になり中々受け取ろうとしないハカセ。
「魔法いいなー。俺も魔法使いたい」
「遊歩は無理です」
「何で?」
「適正がありません」
「えー……」
2人の会話を軽く聞き流しつつ、汚れを我慢しながら本を受け取る。
本の大きさは少し厚めの新書本程度。
表紙を軽く叩いてみるものの、誇りが出るわけでもなく、汚れが落ちるわけでもない。
(拭いたら落ちるかな……)
本の汚れがどうしても気になるハカセだったが、現状ではこれ以上はどうしようもないと諦め、パラパラと捲りながら中身を確認する。
本の中身は文字がビッシリと書き込まれている。
(うわー……。これ、詠唱用の呪文か?)
書かれている文字の一部を黙読したハカセは魔法関連の武器で渡された事を加味する事で魔法を使用するのに詠唱が必要な事を悟る。
「それは『カロンの書』と呼ばれていた魔導書です。基本的には詠唱の長い魔法ほど強力な魔法とされています」
「カロンの書……?」
「正確な筆者は不明なのですが、表表紙の端に筆者らしき名前の一部が読み取れる事から『カロンの書』と呼ばれています」
ニーナの説明を受けたハカセは本を閉じ、拍子を確認する。
「カロン……=……キ……。うーん。確かに名前っぽいと言われれば名前っぽいけど……」
汚れの所為か。傷の所為か。将又、経年劣化の所為なのか直接の原因は不明だが、相当掠れていて表紙の文字自体が読み難い状態だった。
(あれ……?でも、この名前って……)
「ハカセ、何か魔法使ってみてよ」
「え?今?部屋が燃えたり、壊れたりするかもしれないけど大丈夫?」
名前が気になり、何かを考えこんでいるハカセに向かい遊歩が声を掛ける。
魔法を使ってみたい気持ちはあるものの、遊歩の考えなしの提案に少し困惑気味だ。
「それもそうだね。じゃあ、外でやろう」
「公共の場で許可なく魔法を使用する事は魔導法で罰せられます」
「えー……。じゃあ、練習場とかある?」
「遊歩の世界には魔法練習場があるのですか?」
「無いよ。って言うか魔法自体ないから」
「そうですか」
「ハカセ、どうする?」
急に話を振られても困る。これがハカセの本音だ。
更に魔法を使う場がないのに何故『カロンの書』を渡してきたかも謎だった。
一瞬、本音を言おうか迷ったハカセだが、グッと堪え話を繋ぐ。
「要は公共の場ではない広い場所があればOKってことだろ?じゃあ、そういう場所を探す目的も兼ねて外に出ないか?僕も外の様子を見てみたいし」
そんな場所があるならニーナが教えてくれているだろう。と内心では思っている。
しかし、外の様子を見てみたいと言うのは嘘ではない。
そして、外にも魔法を練習可能な場所がないと分かれば遊歩も納得するだろう。と考えた結果、ハカセなりに遊歩とニーナが納得出来そうな折衷案を出した。
「そうだね」
こうして、遊歩はハカセを連れて2度目の外出をする事になった────。