森に導かれて
アルメラが作ったツルがライルを森の奥地に連れ去った。
さっきまでいた場所とは打って変わり、薄気味悪い印象を覚える。だが少し安心した、まだこの辺りは浅いらしい、兄の話からすると深い森は濃い魔力漂っているらしくその中に人間が入ると気持ち悪くなると言っていた。これは、魔力酔いなんだそうだ。また、魔力酔いの状態で魔力を吸い続けると魔力中毒になり倒れるらしい。
でも僕はピンピンしている、気持ちも悪くないのでそこまで深くはないのだろう。
そんなことを考えていたら、巻き付いて森に引きずり込んだツルは力なく崩れ去る。もしかしたら、アルメラのスキルの効果範囲外に来たのかもしれない。
といってもここどこだろ?早く戻らないと、みんなが危ないかもしれないし。
見渡すとそこは緑一色、当たり前だが森だ。木々が生い茂り、枝が伸び切って光が差さず薄暗い、とりあえず目に見える範囲で明るい方へ向かってみる、足元が木の根でガタガタして歩きにくいがしょうがないだろう森だし。
着いた先は、何らかの遺跡跡のような場所。森の中なのにどうしてこんなに明るいんだろうと辺りを見るとここら一帯だけ不自然に木々の量が少ないというか生えてない、ここだけ違う空間にでもいるような錯覚を覚える。
遺跡跡の中心に石の台座?のようなものが倒れてる。
「もしかして、ここがみんなの言ってた宝探しスポットとかか?」
やはりといったところか、中央の辺りに行っても目ぼしい物はなく切なげに倒れて少しヒビの入った石の台座だけが目にはいる。
「こういう台座とか遺跡って怪しいんだよね、まだ何かギミックとかイベントありそうだし。とりあえず、倒れてる台座を立ててみようかな」
当然のことながら何も起こることはなく、中央に台座が直立しただけという結果になった。
なんとも虚しさを覚えたライルは、またカイル達のいた場所を探しに行こうとすると進めない。壁でもあるかのように。一応、観察眼を使ってみる。
なんらかの魔術的要因で現れた、透明な壁。罠の可能性も低く防衛のための装置か何か。超謎。
分からないのが分かったようで観察速度も1秒掛からなかった。
「もしや、これが台座のギミックだったり...んあわけないか?」
中央に直立していた石の台座がなくなっており、そこには大樹が陣取っていた。
近づいてみるとかなり大きい木?何か生き物っぽい木。
「人の子よ、我が封印を解いたのはお主かえ?」
突如喋り出した巨木は問いかけるが、突然のことにライルの動作が止まり思考がフル回転する。
ヤバめの木のでかい魔物の封印解いたってマジ?問いの答えによってはバットエンドありえる?え?死ぬ?ていうか、そこは謎ギミックのおかげでチートアイテムが登場の流れか何もなかったってオチでしょ普通!謎に封印された魔物が出る時じゃないでしょ!こちとらまだ初期レベルのレベル1ぞ!?こんな序盤に隠しボスみたいなの設置すんなや。クソゲーか???おおん?
落ち着け、冷静になれ話してみたら案外良いやつだったりー?いやなさそうだ、食い殺される?人生オワタ、冗談じゃなく人生終わり?食べるならひと思いに...
「食べんよ」
「え?心をお読みになられたのデショウカ?」
「読んでおらんよ」
「まさか、思ってたことが口から出てた?」
「そのようじゃのう」
「どこから?」
「ヤバめの木のでかい魔物、辺りからかのう?」
全部じゃねーか。思ってたことを全部聞かれてしまった。食べないっていってたけど食・べ・は・し・な・い・ってことでしょ?殺される可能性充分ある。暴言いっぱい吐いたし惨い感じに殺される。
あからさまに怯えてるのが分かったのだろう。
「何もせんよ。礼を言いたかっただけじゃ」
「え?」
「わしはのう、3000年前にこの森に生えた一本の木じゃった。じゃがこの森は魔力マナが豊富での100年後くらいには変質してわしは魔木という魔物に変わっていたんじゃ。それから1200年後また変質したのがこの姿じゃ、龍木といっての見た目は普通の木じゃが龍の名を冠かんしたことにより龍に姿を変えられるようになったのじゃ。少し舞い上がってしまってのう、そこらを飛び回ったんじゃよそれが良くなかったのう、近くの村の人間に見つかって後の祭りじゃった。そして、勇者とかいう若造が出てきて封印されたというわけじゃ」
このウッドおじいちゃんドラゴン可愛いな...お茶目か?
「それで、封印される前は人を食したりとかは?」
「しとらんよ。わしは、魔物になろうとて普通の木だった頃と変わりない。水と日の光と魔力があれば食物は必要とせん。水は地中の水脈や雨から、日は太陽がある限り何も問題はなく、この森は魔力に満ちている。魔物として生物として生きていくうえでの生命エネルギーは十分に補える、他の生物を捕食したとてエネルギーの回復量などたかが知れている、人も同様にのう。効率の場面からでもそうじゃがまずわしは、肉食系の魔物じゃないから人はもちろん動物も食べないのじゃよ」
元が普通の木だったとは思えないほどの知識に温和な性格、観察眼から見ても嘘を言っているようには感じない、人畜無害なそんなような生き物、本当に魔物なのだろうかと疑いたくなるぐらいに何か親近感の様な優しさを感じた。悪い存在ではない気がした。
「じゃあ、僕は帰っていい?」
「帰っていい事には変わりないのじゃが、少々問題があってのう」
龍木は、ライルの来た木々の方を指す。
「ここら一帯には、強力な結界が張られておる。一度入れば出れないタイプの結界じゃな」
「忘れてた、そうじゃん出られないんじゃん」
「出る方法は、無いわけではないがお主がやるしか方法はないのう」
「え?僕じゃあの結界を突破するのは無理だと思うよ?龍木のあなたなら結界を破壊できるんじゃ...」
「無理じゃな、わしには破壊できん。あの結界はわしに作用するようにできておるんじゃが、結界も劣化、風化する。それか元々、欠陥があったか。それにより他者にも作用するようになってしまっている。だが幸いなことにわしの攻撃だけを無効化している。主なら無効化されずに結界に攻撃することができる」
龍木はにやりと笑ったような気がした。
「でも火力が足りないよ。ていうか何でこんなに結界に詳しいの?」
「火力は心配ない。結界は、年の功と観察眼のおかげじゃな」
「結界のことは分かったけど火力の方は?」
そう聞くと、龍木の彼は何かを取り出す。
それは、緑色の縁の分厚い本。何か神々しいものを感じる。本・書物・文書・古文書・巻物・石板、記憶が巻き戻る。もう一人の自分、異世界?バーチャル?のこの世界で17年間生きて来たライルの知識から情報が得られる。
この世界での本はとても貴重なものだと察することが出来る。
ある話を父と母から聞いた、本・書物について。
本・書物は、魔導書・魔導図鑑・魔導学などを記す歴史的遺産である、太古から最近生み出された魔導書物は国が管理することを義務付けられており、一個人が魔導書物を保有することは許されない。
書物の保存・破棄・契約について。
もし遺跡などで破損した書物を確認した場合、残っている部分を解析、丁寧な保存が義務付けられる。
破棄は、この世にあってはならない魔導書物の破壊方法。世界を終わらせる魔術、生物を消滅させる魔術、魔王創成の儀式に邪神降臨の儀式と、間違っても触れてはならない禁忌の分野をこの世から消すために危ない書物は聖なる炎で浄化しなければならない。あの悲劇をまた起こさぬように。
事例として、盗人が王宮に忍び込み知らずに禁忌の書物を開いたことから、一つの国が消滅する事態が起こった。禁止魔導書 滅魔導書全四章 著作ベルア・メイの滅魔導書第二章 消滅の魔導書ゾイド・ベルアが開かれたことによりゾイド・ベルアという魔人が顕現した。盗人の身体に憑きその国を消滅させ魔人はどこかに消えたという。世界中の人々がある国の消滅の影響を受けた、ある者涙しある者は歓喜したが何故この感情が溢れたのか見当がつかない。
そう、その国に関係する事柄の記憶が全て人々から消えたのだ。ただ一人を除いて、これらの情報は盗人の証言から導き出された真実である。
最後に、契約は魔導書と契約を結ぶことによって恩恵を得る儀式のことであり契約者は魔導書が決めることがあるらしい。事例は少なくほとんどの書物が固有の自我を持たないため基本的な仮契約で済まされるが自我を保有している魔導書は本契約をしないといけない。
現在確認されている魔導書物は以下の通りである。
基本属性の魔導書 属性の魔導書 全七章
古代聖皇国聖書 創造と破壊の書 全二章
主神の魔導書 十柱を司る教本 全七章
禁忌書庫 滅魔法 全四章
黄金の国の魔導書 石炭を黄金に変える方法 全三章
魔導図鑑生物の書 生物の予言書 全一章 etc...
「うわぁ、魔導書かぁ」
情報くわしすぎでしょ、もしかして頭良かった?
「おお!お主も魔導書のことを知っておったか!聡さとい子じゃと思ってたがこれほどとはのう」
「ま、まあね」
本当はこの世界で生きて来たライルの記憶だけど、まあ僕もライルだし。
「じゃあ、この魔導書と契約してみておくれ」
契約って言ってもどうやって、とりあえず触ってみるが普通の分厚い本、なにも反応が無いしおじいちゃんはニコニコしてるしで意味わからん時間が約30秒間続き、緑の本をベタベタ触っていた時だった。
『もう!いい加減ベタベタ触りまくるのはやめなさい!!そして、そこのじじいも何か言いなさいよ!!』
現れたのは、小人のような緑色の衣を纏った幼女だ。
『じじい。これはどういう状態だ、説明しなさい』
『それがのう...』
ミニマムグリーン幼女とウッドおじいちゃんドラゴンが何か話しているが聞き取れない。
話がまとまったらしくミニマムグリーン少女はこちらに向かって来る。
『アンタ、名前は?』
「...ライル」
『そう...アタシは、風の魔導書。フェイン・クルゥよ。貴方と本契約を結ぶから血をよこしなさい』
小さくて可愛い・・・。
「え?仮契約じゃないの僕は仮契約でも構わな...」
『とっとと血!!血!!』
「は、はい」
魔導書に落ちる赤い雫は、インクと交わり赤黒い文字を描く、浮き上がって見えたり心地よい風が辺りを吹き抜けたり、自分の中で、強い力が溢れ出てくるような感覚に思わず目をつぶってしまいそうになるが周りを風と共に舞っていたフェインを見て思わず手を伸ばす、それに答えてくれるかのように彼女はニコリとして草花が僕たちを祝福しているように舞い上がる。
風が段々と納まると目の前には上機嫌なフェインがいた。
『ライル凄いわ!!魔力が溢れ出てくる、こんな懐かしく楽しい舞いを踊れたのはいつぶりかしら、ガルム!あなたが言っていた事は本当だったみたいね!』
「そうじゃろう!この深さで平然としていられ、わしの封印まで解いてしまう。この子はやると思っておったんじゃよ」
話が見えない、どういうこと?
「分かっておらぬようじゃな」
『天然ってやつかしらね?』
「どういう?」
『まあ、簡単な話ね。ライルは人より魔力が高いの、レベル1でMP50は魔物レベルよ。まあそせだけじゃないのだけど、それに周りから言われなかったかしら森の奥には来てはダメだと』
絶句。
「え?ここまだ浅いんじゃないの?気持ち悪くないし」
「そんな浅い所に魔物を封印する勇者もいないじゃろ」
クッソ正論かましてくるやん、ミニマムグリーン幼女とウッドおじいちゃんドラゴン。
「まあいいや、フェイン!僕に力を貸して!!あの結界突破するよ!!」
『了解』
彼らは風の様に軽やかに足を運び舞いを踊り、歌うかのように詠唱する。まるで舞台を見ているように錯覚するほど。勢いは止まらず早くなっていく、風を纏い結界に向かって手を振り下ろす、そこから風の刃が飛び出し勢いよく結界を貫く、それでも止まらない風の刃は木々を数本切り倒した辺りでやっと落ち着く。
「ありがとう、ライルよ。また来ると良い!フェインを連れてな」
「うん、超展開だったけど楽しかったまたね、ガルムおじいちゃん」
『また会おうじじい』
魔導書を手に本来の目的である、カイル達の元へ向かうのだった。