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え?あっはい、怪人です。  作者: 慢ろなる旅人
7/10

7、友の拒絶、悪の受け入れ

「お、珍しい。ギリギリだねぇ」


「なんとか間に合った………」


 机に突っ伏しながら、両手をだらりと下げる。その瞬間、登校時間の終わりを告げる鐘が鳴った。教室の外では、間に合わなくなった者達がそれぞれの担任に叱られている。


「あの、なんだっけ?エルなんとかっていう奴ら絶対許さん………」


「ん?どした?」


 俺の怨念込めた呟きを拾い取った矢尾国やびくに 紗羅さらが近寄ってくる。俺の友達の中で唯一の女子だ。まあ、俺の友達は紗羅を含めて二人しかいないが。あれ?なぜか目から水が………


「ちょ、ほんとにどした!?なんで少し泣いてるの!?」


「いや、なんでもない。目にゴミが入っただけ。ていうか、先生がこっち見てるぞ。はよ席に座れ」


「え、あ、うん………」


 紗羅は若干渋りながらも、ちゃんと自分の席に着く。それを見た先生が朝のSHRを始めた。


「よし、全員座ったなー?出席確認するぞー」


 一人一人名前が呼ばれ、それに応じてハイと返事が返る。しかし、何度か返事がなかったので、休みは割といるようだ。


「えー、九雷木くらいき 志葉しはー。……………欠席っと」


「(ん?あいつが休みって珍しいな)」


 志葉は俺の友達だ。一応、小中一緒だったが、接する機会が少なく、高校に入ってから仲良くなった腐れ縁のような奴だ。成績優秀、運動神経抜群、頭脳明晰の三拍子が揃った奴だが、致命的なことに居眠りばっかりするのだ。なので、クラスメイトは話しかけにく、志葉は基本一人なのだ。


(あいつ、居眠りばっかりする割には学校にちゃんと来るんだよな。でも、今日は休みか。………………放課後に突ってみるか)


「えー、日壺 流雨ー」


「あ、はい!」


 名前を呼ばれ、慌てて返事をする。俺は最後の番号なので、先生は点呼を終了し、今日の日程を話していく。あとでお知らせを読めばいいので、正直暇だ。どうやら、それを紗羅も感じていたらしく、あくびをしている。


(まあ、明日は休みだし、気が緩むのもしょうがないか。さて、今日も頑張るかー)


 俺はそっと気合いを入れ、先生の話を全く聞かなかった。











「お、終わった〜………」


「紗羅、流石に四時間連続居眠りはエグイと思うぞ?志葉みたいに成績が良いわけじゃないのに」


「分かってるよ〜………」


 俺が帰りの準備をしていた隙に俺の席を強奪した紗羅は、朝の俺のようにグデーと萎びながら、スマホをいじっている。一応、帰りのSHRは終わっているので使ってもいいのだが、先生からはあまり良い顔はされない。


「………これはまた優等生期間に入るかな?」


「それはない………と思う」


 優等生期間とは、紗羅の成績がヤバイときにする、いわば期間限定の仲間外れだ。紗羅も俺と同じように友達が二人しかいないので、その二人に仲間外れにされたらやることがなくなり、結果、自分から勉強し出すという小学生のころからの救済措置だ。今までに四回はやった。


「んまあ、それは置いといて、これから志葉の家に突るけど、一緒に行く?」


「お、行く行くー。私もちょうど教えてもらいたいところあるし」


 紗羅はそう言うと、そそくさと自分の席に戻って鞄を持つと、教室の外へ出ていった。紗羅は志葉のこととなると急にやる気を出すから不思議だ。


「俺も早く行くか」









「で、紗羅だけ入っていいってどゆこと?」


「知らない。なんか地雷踏んだんじゃない?」


「見えないし、起爆したかどうか分からん地雷って………」


 俺は二階建ての一軒家の前で、スマホのメールアプリを見ながら項垂れる。確かに、志葉との付き合いは紗羅より短いが、割と良い関係を築けていた気がしていた。


「あー、まあそんなに落ち込まなくていいんじゃない?志葉は何か考えがあるだろうし」


「んまあ、あいつなら理由も話そうとしないしな………。なら、紗羅がしっかりと聞き出してくれ」


「お安い御用♪」


 紗羅は軽くそう言い、躊躇なく家へ入っていった。


「………志葉、何かあったんかな?」


 紗羅に任せておけばとりあえず安心できるが、流石にまだ心配だ。しかし、その本人から入るなと言われている以上、俺はあまり関われないだろう。


「待つしかない、か………」


 そう小さく呟き、帰路へ着こうとしたそのときだった。


「おい、お前!通報すらせんとは、我を舐めておるのか!?」


 どこか聞いたことのある声が後ろから響き、まさかとは思いつつも振り向いてみる。すると、案の定見たことのある黒いガン○ラのような変質者がいた。


「んなっ!?誰が変質者だ!我はあの黒タイツよりはまだマシだぞ!!」


 結局変質者であることは認めてしまったフェナミグは、それに気づかずに俺へ近づいてくる。それに対し、俺が取った選択肢は………!


「………………逃げるに決まってんだろーー!」


「あ、ちょ、待たんかコラー!」


 素早く後ろを向いて全力疾走した俺の後をフェナミグが追いかけてくる。流石にマシンボディとあってか、フェナミグの方が若干足が速い。それを本人も分かったのか、段々調子に乗ってきた。


「フハハハハ!貴様はすでに我から逃げれんのだよ!」


「おまっ、調子乗りやがって………!」


 フェナミグの煽りは俺にクリティカルヒットし、俺は足を急に止め、今度はフェナミグに向かって走る。


「お、おい!な何をするつもりだ!!」


「決まってんだろ!ドロップキックだああぁぁ!!」


「ぐわあああぁぁ!!?」


 俺の両足は困惑していたフェナミグの腹を綺麗に捉え、メカニックなのに随分と柔らかいフェナミグは面白いくらいに吹っ飛んでいった。


「っし!逃げるか!」


 呻き声を上げるフェナミグを見て満足した俺は、また逃げようとフェナミグから足を退ける。しかし、とうに気絶していたと思っていたフェナミグが足を掴んできた。


「に、逃さぬぞ………………お前は我とアレを喰らう運命なのだ………」


「え、何、アレって!?」


 俺はフェナミグの言った『アレ』を警戒しつつ、意外と力強いフェナミグの手を振るほどこうと、足を動かしていると、上の方から何やら声が聞こえてきた。


「さあ、そこの囚われの君!これを喰らいやがれ!!」


「その声は、全身黒タイツの変態!?」


「だぁれが変態じゃあ!!もう遠慮なくMAXで撃ってやるわ!!」


 上を見てみると、でっかいドローンに吊り下げられている黒タイツが、魔法少女のステッキを模したゴッテゴテの銃をこちらに構えており、その銃の先には青い光が集まっていた。


「ちょ、話し合えば分かる!!」


「分からん!これで終わりっすーー!」


 黒タイツは躊躇なく引き金を引いた。青い光が、爆発するようにこちらへ迫ってきた。


「ここからでも入れる保険ありますk、ぐわああぁ!!」


「黒タイツ、我を巻き込みやがってええぇ!!」


「ええ!?フェナミグ様も賛成してくれたじゃないっすかーー!!」


 そんな悲鳴を上げながら、俺の視界は真っ青に染まっていき、意識が途切れ………………なかった。


「………あれ?」


 何か衝撃が来ると思ったが、いくら待っても青い光だけで、その光も少し経つと自然に消えていった。


「………もしかして?」


 恐る恐る目を開けてみると、油断して近づいてきたのか、割とすぐ近くの地面に降りていた黒タイツのポカーンとした顔が見えた。


「効かなかった………ぽいな」


「効かなかったっすね………」


 二人して呆然としていると、黒タイツが持っているマジカルな銃から、一枚の紙がひらひらと俺の足元に落ちてきた。俺はそれを拾い、読んでみる。


「えーと?『使用方法・機械右側面にある安全装置を解除すると青い光が発生、時間経過で赤い光へ変化するので、銃の標準器にあるメーターで100%になったことを確認し、引き金を引く。注意・青い光のときに引き金を引くと、ただの派手な閃光になる。直接的なダメージは一切なく、光による目眩しも期待できない』………………らしい」


「………………青い光だったっすね」


「………………青い光だったな」


 二人の間に沈黙が流れる。頭上では、一羽のカラスがアホを嘲るように、カーカー鳴きながら飛んでいった。


 そのなんとも言えない空気を先に破ったのは、俺でも、カラスにバカにされた黒タイツでもなく、黒タイツの背後から現れたあの不健康そうな女研究者だった。


「やっぱり不発になっていたか。君は私の説明を聞いていなかったんだな」


「あ、姐さん!?まだ太陽沈んでないですけど、大丈夫なんすか!?」


「これくらいの光量なら、短時間だが平気だ。それに、組織の危機となっては私も出ないわけにはいかないからね」


 姐さんと呼ばれた女研究者は、自分のボサボサした長い茶髪をいじりながら、こちらへ歩いてきた。何やら組織の危機やら気になることを言っていたが、今は追及するときではない。一刻も早くここから逃げ、通報しなければ。


 今まであまり意識していなかったが、ここは志葉の家の近くなのだ。ここでドンパチしてたら、そりゃ志葉か紗羅が様子を見にくるだろう。あいつらは絶対に巻き込みたくない。


「あ、いや、待ってくれ。今回は君をどうこうしようとするわけじゃないんだ」


「………………銃を撃っておいて?」


「いや、これは、その、なんていうか………………そこの黒タイツ君が復讐したいって躍起になっていてね………」


「僕のせいっすか!?ていうか僕の名前は黒タイツではないですよ!?」


 黒タイツの抗議を聞きながら、バツが悪そうに頭を掻いていた女研究者は、やがて意を決したように、俺に頭を下げてきた。


「すまん、この通りだ。実はさっき、うちと贔屓にしていたお得意先が急に取引を取り消しにしてな。新しい取引先を探そうにも、『怪人』界隈では私達は厄介者なのだ。なら、新しい人をスカウトするしかない」


「それで、君がうちに入ってくれると助かるんす。確かにさっきはめっちゃやり過ぎたっすけど、新しい取引先が見つけるまででいいんです。バイトとしてちゃんとお給料も出しますから!」


 女研究者と黒タイツはそう頭を下げて、二人して俺に懇願してきた。一応、こいつらは犯罪を犯したという証拠はなく、俺は一回誘拐されたが、ここまで切羽詰まっている様子を見てしまうと、何か手伝えることはないか考えてしまう。紗羅や志葉からはお人好しと言われているが、これは確かにそうであろう。


 とりあえず、俺は一番重要なことを聞いておく。これの条件次第では、入るかもしれないし、一気に冷めてしまうかもしれない。それぐらい重要だ。そんな大事な質問とは………


「………………いくら出るの?」


「え?あ、えと、確か、日給3万までは出せるはずだが。あ、これは頑張り関係なく、一定だ。仕事が終わればどこかで遊んでいてもいい」


 今まで一度もバイトしたことがないが、日給3万はそうとう破格ではないだろうか。これは月に90万、年に1080万稼ぐ計算になる。こんなの、バイトに払う金額ではないだろう。何か裏がありそうだ。


「………汚い金じゃないだろうな」


「実は、うちは株で大儲けしまして、とりあえず基地を二つ作るくらいには金が有り余っているんすよ。でも、取引先がいなけりゃ、資材はないのに金だけが腐るほどあるっていう奇妙な状況に陥っちゃうんすよ。だから、君には何がなんでも入って欲しいんです!!」


 こんな大富豪なのに取引先がないとは、こいつらは何をやらかしたのだろうか。しかし、それを聞くのは野暮というものだろう。こいつらは『怪人』だ。何かやらかしたから、『怪人』になっているのだ。


 俺は、黒タイツ達からの条件を吟味してみる。まず、給料は文句なしだ。仕事内容は若干不安なところがあるが、黒タイツを見るに完全な犯罪組織ではないのだろう。そこを瞑れば、今すぐにでも入りたいバイトだ。


 そこまで考え、俺は結論を出す。一応、俺は金欠というわけではないのだが、金はあった方がいい。未だ頭を下げている黒タイツ達に朗報を言ってやる。


「………………ん、分かった。入るよ」


「ほ、本当か!?ありがとう!」


「マジっすか!?もうダメかと思ったっすー!」


 二人は安堵して緊張が途切れたのか、その場に座り込んでいる。ちなみに、フェナミグは銃で撃たれたときから気絶し、俺の足にしがみついている。なぜか死後硬直のように足を握りしめていて、あまり痛くはないが、めっちゃ邪魔だ。女研究者を立たせていた黒タイツを呼び、一緒に引き剥がしてもらった。


「んじゃ、そういうことで、今からうちに来るっすか?僕らとしてはその方が都合がいいんですけど」


「あー、そっか、帰ってもやることないしなー………………行くか」


 でかいフェナミグを器用に担いだ黒タイツの後をついていく。一応、家族には帰りが遅くなる旨のメールを送っておいた。うちの家族はあまり関係が濃くないので、俺がいなくても意識する人は少ないだろう。


「じゃ、ここから先は他言無用だぞ?あまり騒がれても両方困るだけだしな」


 黒タイツの横を歩いていた女研究者が不意に立ち止まり、そう言った。しかし、ここは住宅街のど真ん中だ。ここに基地があるとは考えにくいのだが。


 その俺の思考を読み取ったのか、女研究者はクスクス笑った。


「フフフ、ここに基地はないよ。君も今朝、見ただろう?私達は、基本『転移扉』で移動する。君にもパスワードを教えておこう」


 意外と妖艶な笑い方の女研究者は、懐から鈍く灰色に光る拳大の石を出すと、それを掲げて小さく呟いた。


「『黒の対は白なり。我らは白を侵す者なり』っと」


 女研究者の詠唱が終わると同時に、目の前に一つの扉が音もなく現れた。それは今朝見たあの鉄製の頑丈そうな扉だ。


「さ、早速中に入ろうか」


 女研究者は重そうな扉を軽々と開き、さっさと中に入っていく。黒タイツもフェナミグを背負って入っていったので、俺は慌ててあとに続き、扉をくぐる。すると、俺が入るのを見計らったように扉が勝手に閉まった。


 扉の先は長い廊下で、左右には異常な量の扉があった。これら一つ一つが別の場所につながっているのだろう。照明が少ないので、若干ホラーになっている。


 俺がこの光景を見て呆けていると、それを見た女研究者はまたクスクスと笑った。それを見るとなんだか俺が子どものような扱われている気がして、あまりいいものではない。それがあっちにも伝わったのか、すぐに笑いを引っ込めた。


「すまないね。私は子どもが大好きなもので。しかし、ここ最近は子どもと接していないから、君すら子どもと認識してしまうようだ。まあ、ここで駄弁るより、先に基地へ行った方がいいだろう。基地に繋がる扉はこっちだ」


 女研究者はそう言いながら、左にあった木製の扉に手をかける。その扉には9913と番号が書かれていた。


「ちゃんと番号は覚えておいた方がいい。そもなくば、そこで寝ているフェナミグのように、一晩中廊下を走り回るハメになるからな」


 女研究者はそう俺を脅しながら、扉を開けた。そこには、やはり、俺が朝に見たあの研究室があった。


「それじゃ、改めて紹介するよ。ここは悪の組織『エルドラ』。君がこれから救う、厄介者の巣窟さ」


 女研究者はそう笑いながら、俺を歓迎した。

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