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え?あっはい、怪人です。  作者: 慢ろなる旅人
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6、脱出

「悪いけど入る気はない、って言っても意味ないよねー」


「そうっすね、一応こっちは無理矢理でもいけたんですけど、温情ってことで許可を貰おうとしてるっすからね」


 やはり、黒タイツは俺を逃す気はないようだ。それでも何かないかと辺りを見回すと、あるものが目に入り、呆れ顔になる。


「なあ、黒タイツ。アイツはどうするんだ?」


「?アイツって……………ああ」


 俺が指差した方向には、曲刀を引っ張り続けて疲れたのか、未だ空中に『接着』されている曲刀にしがみついて寝ているフェナミグがいた。黒タイツはフェナミグを見た瞬間、またかという雰囲気を出しつつ、指パッチンをした。その途端、曲刀がガギンッ!という音を立てて『接着』が外れ、フェナミグは曲刀ともに叩き落とされた。


「っ!?………………スー………スー」


 しかし、フェナミグは一瞬ビックリしただけで、また夢の世界に入り込む。黒タイツは苦笑しながらフェナミグを抱え、また俺に向き直る。


「………で、本当に入る気はないんすか?これ以上は実力行使になりますよ?」


 黒タイツは俺を見ながらまた脅しをかけてくる。その声は感情を感じず、ただただ平坦だった。本当に力ずくで入れる覚悟があるらしい。しかし、俺はあることに気づいた。


「なあなあ、そこの全身黒タイツの変態」


「へ、変態!?黒タイツは認めるっすけど変態は違います!………………で、なんすか?」


 俺は変態扱いされて憤慨している黒タイツにある事実を突きつける。


「お前…………………………結び方甘いぞ」


「………………………へ?」


 俺の突然の言葉に呆然とする黒タイツの前で、俺は両手両足を全力で開く。すると、今までイスにくくりつけられていた手足の縄が呆気なく解かれ、自由になった手足で簡単に立ち上がる。


「さあて、ここからは逆襲といこうじゃないか」


 俺は解かれた縄を手に、青ざめている黒タイツにゆっくりと近づいた。黒タイツはしきりに首を横に振っていたが、やがてピタッと止まったかと思うと、ゆらりと右手を振りかぶり、その手にあったフェナミグを俺に向けて投げた。


「これ結んだの、ボスっすーー!!」


「知るかー!?」


 俺は、綺麗な投球フォームで投げられたフェナミグが当たる寸前で右から殴り飛ばす。もはや眠っているのか気絶してるのか分からないフェナミグは、コンクリートだと思っていた灰色の壁を突き破り、そのまま壁を引っ張っていく。そこには………


「おまっ、これ全部布だったのかよ!?」


「くっ、手頃な部屋がなかったんすよ!」


 壁は全てコンクリートっぽく見える布で、フェナミグのせいでその布は全部落ちてしまっていた。改めて辺りを見回すと、どうやらこの部屋は研究室のようで、何に使われるか分からない薬品が並べられた棚や、凶悪そうな武器が壁に掛けられていたりと、全体的にTHE悪の組織みたいな感じになってる。


「ああもういいっす!君は絶対に入ってもらいますよ!」


「嫌だね!最後まで振り切ってやる!」


 黒タイツは壁に掛けられていた短剣を取ると、俺に向けてきた。その短剣は見た目のせいでおもちゃのように見えるが、実際はなんらかの機能があるのだろう。俺は当たるのはまずいと、黒タイツの一挙一動を観察する。対して、黒タイツも俺の隙を窺い、一時的に誰も動かない状況になった。


 そんな状況を打ちこわしたのは、黒タイツでも俺でもなく、部屋に一つだけあったドアが開く音だった。


「なあ、さっき変な音が………」


「大人しく捕まりやがれっです!」


「大人しくできるわけねぇだろ!こっから華麗に逃げさせてもらうぜ!」


 いかにも不健康そうな研究者っぽい女性がドアから出てきた瞬間、黒タイツは俺に短剣を振るが、それを予測していた俺はそれを簡単に避け、そのままポカンとしている女性の横を走り抜けて廊下に出る。


「はっはーー!さぁて出口はどこに………ってお前!出口はちゃんと閉めとけよぉ!?」


「るっさいっす!またボスが開けっ放しにしたんすよー!」


 俺が廊下をぐるりと見渡すと、廊下の先に外へ繋がってるっぽい扉が開いたまんまにされていた。黒タイツの話だとフェナミグが開けっぱにしたらしい。フェナミグは相当な間抜けだろう。


 黒タイツは「待てっすー!」と追いかけてくるが、その手をすんでのところで躱し、一直線に出口へ向かう。


「じゃあな、変態全身黒タイツ!お前のことは通報するまで忘れないぜ!」


「通報した途端に忘れるんすかー!?どうせならもうちょっと覚えといて欲しいですー!」


 俺を捕まえ損ねて転んでいる黒タイツに手を振りながら出口のドアをくぐる。すると、俺は黒タイツに眠らされたあの場所に出た。


 俺は黒タイツが追ってきてないか反射的に後ろを向くと、出口がなくなっていた。それどころか、出口があったはずの場所は道のど真ん中だった。


「え、これどうなってんだ?………………もしかして『転移扉テレポート・ドア』?」


 『転移扉テレポート・ドア』は、まあ某秘密道具のあのドアと同じ機能を持つ扉だ。しかし、転移扉は実験が失敗して多大な犠牲者が出ており、そのせいで実用化には至らなかった失敗作のはずだ。


「…………………ものすごーく嫌な予感がするが、今は無視しておこう。それよりも、今の時間は………」


 俺は誘拐されたときに落としたらしいリュックとスマホを拾い上げ、スマホのホーム画面を見た。


「って、8時ぴったり!?ぬおおお急げーー!」

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