悪役令嬢は国を追い出される。でも天の愛し子なので別の国で幸せになりますね。
悪役令嬢がちゃんといじめをしています
天におわす神々よ。どうか私の懺悔をお聞き届けください。
私、エマ・アデライドは公爵令嬢という身分にもかかわらず男爵令嬢であるサラ・ヴィクトリアさんを虐めてしまいました。彼女が私の婚約者であるアンセル・ベルトラン王太子殿下と密かに浮気をしていると、私達が通う学園の噂で聞いたからです。
噂通り、二人はとても仲睦まじく、まるで私が邪魔者のようにすら感じました。学園内はその娘のシンデレラストーリーで持ちきり。そして、私が近いうちに捨てられるだろうとの噂も。
今までなら、王太子殿下のお側にいるのはこの私。でも、今はいつ何時もあの娘が側にいるせいで、近寄りがたい。あんな娘、消えてしまえばいい。大体、たかが男爵令嬢が王太子妃になんてなれっこない。なれても側妃よ。大して美人でもない、ちょっと可愛い程度のくせに。鶏ガラのように細過ぎる身体つきのくせに。運動だってからっきしのくせに。あんな娘、ただ物珍しさで可愛がられているだけよ!大体あんなに男を侍らせて恥ずかしくないのかしら!
私は本気でそう思って、取り巻きを使って虐めを開始しました。
「サラさん、分を弁えなさい。アンセル王太子殿下に貴女は相応しくないわ」
「その件は誤解なんです!アンセル王太子殿下と一緒にいるのは、とある事情があって…それよりも、嫌がらせをやめてください!このままでは、エマ様が困ることになってしまいます!」
「たかが男爵令嬢が何をできるというの。それに、とある事情ってなによ。何かあるなら言ってみなさい」
「それは…言えません、まだ。でも、このままだと本当にエマ様は…」
「そんな戯言に騙される私ではありません。必ずアンセル王太子殿下の側から貴女を排除してみせるわ。覚えておくことね」
しかし、すぐにアンセル王太子殿下の耳に入って、私は注意を受けたのです。
「これ以上過激なことはしないでくれ、エマ。虐めなんて今すぐやめるんだ」
「何故ですか、アンセル王太子殿下!あんな娘のどこがいいのですか!」
「違うんだ、エマ。サラ嬢とはそんな関係じゃない。今は言えないが、いつか本当のことを言うから…頼むから、嫌がらせなんてやめるんだ」
「…アンセル王太子殿下、私はそんな言葉を信じるほど愚かではありませんわ」
「エマ…!」
「ご機嫌よう」
私はアンセル王太子殿下の忠告を受け入れませんでした。たかが男爵令嬢を虐めたくらいで、とアンセル王太子殿下に落胆しました。もうそこまで虜になっているのかと。
そして日に日に嫌がらせは加速していきました。そんな中で、学園のイベントでダンスパーティーがありました。
そこで、私は断罪されたのです。
アンセル王太子殿下を含めあの娘を取り囲んでいた男全員から、私が取り巻きにやらせた虐めの数々を暴露されます。しかし私は公爵令嬢。あちらは男爵令嬢。痛くも痒くもない。そのはずでした。実際、断罪劇の間他の皆も失笑していましたし。
ですが、最後まで私の罪を読み上げると、アンセル王太子殿下は言いました。この方は、隣国の国王の隠し子である、と。
瞬間皆がざわつき、私は信じられない思いでいっぱいでした。ですが、彼女は普段は隠していた隣国の王家の証である首筋の痣を皆に見せました。つまり、本当ということ。
そうして私は、何もかもを失って国を追われたのです。両親と兄は、迷惑を掛けてしまったというのに国外追放を言い渡された私を心配してくれました。アンセル王太子殿下の計らいで、両親と兄にはお咎めは無しになったそうですが、それでも社交界では色々言われるでしょう。本当にごめんなさい、お父様、お母様、お兄様。
ああ、どうか愚かな私をお許しください、天におわす神々よ。
「お前だけが悪いわけではないよ。虐めはいけないことだったが、あの娘も王太子も紛らわしいことをした上噂を握りつぶすことが出来なかったのだから。それに、お前の後釜には結局あの娘が座る予定だしね。お前の懸念は正しかったようだよ。お前のしたことは許してあげるから、イストワール皇国の中央教会に身を寄せなさい。我らが天の愛し子よ。それと、これからは天の愛し子であることを隠さなくてもいいよ。今まで窮屈な思いをさせてごめんよ。だが、あの王太子と一緒になるよりも、お前がもっと幸せになる道が切り開かれるだろう。それで許しておくれ」
はい。天におわす神々よ。
私は神々の言葉に従い、イストワール皇国の中央教会に向かった。中央教会は既に神々の神託を受けており、私をすぐに受け入れてくれた。
ー…
五年が経った。私は今、中央教会で天の愛し子として大切にされている。中央教会に併設された孤児院の子供達の面倒を見ながら、楽しく賑やかな生活を楽しんでいる。両親と兄も、それを知るとすぐにイストワール皇国に移住してきた。イストワール皇国は、天の愛し子である私の家族に新に公爵としての位を授けて下さった。
ベルトラン王国とイストワール皇国はこの五年で大分動きがあった。
まずイストワール皇国。天の愛し子である私を受け入れてくれてから、災害に見舞われ枯れた大地に緑が瞬く間に戻り、長年の採掘ですっからかんになったはずの鉱山からは鉱石がたくさん採れるようになった。国民たちのさまざまな病気なども瞬く間に回復し、国民皆健康体に。
一方でベルトラン王国は、サラさんとアンセル王太子殿下の結婚が大々的に発表され幸せそうに見えたのに、その後さまざまな厄災に見舞われた。地震が起き、流行病が広がり、飢饉に見舞われた。その後私が天の愛し子としてイストワール皇国の中央教会に拾われたと知ると、アンセル王太子殿下が私に頭を下げてベルトラン王国に戻って欲しいと言ってきたが、私はこれを拒否。ベルトラン王国はこれから衰退していくだろう。といっても、私を捨てた天罰を天におはす神々が与えたというわけではない。私が何かの間違いで、本来生まれるべきだったイストワール皇国ではなくベルトラン王国に生まれてしまったため許されてきた、本来受けるべき天の采配が今になって私が国を離れたことで一気に襲っているだけ。元々こうなるべきだったそう。
ということで、私は色々すっきりして楽しく生きている。もう天の愛し子であることを隠す必要もないしね。孤児院の子供達も素直で可愛いし、幸せだ。それに、中央教会の聖王猊下からたくさん可愛がってもらっているし。聖王猊下の孫息子であるデュドネ様との婚約も持ち上がっている。本当に幸せだ。
「エマ、また子供達と遊んできたのかい?」
「デュドネ様!はい、とても可愛い子ばかりで、つい」
「僕はエマの方が可愛いけどねぇ。まあ、子供達が可愛いのは同意だよ。僕もちょっと孤児院に顔を出してこようかな」
「なら、私も行きます!」
「ふふ。一日に何度もエマに会えるなんて、子供達は贅沢だね」
私の頭を撫でると、手を差し伸べて私を孤児院までエスコートしてくれるデュドネ様。こんなに幸せでいいのかしら?
最初からエマにサラの正体を伝えていればよかったのにね