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「おかしいわ。ヒューレッド様が帰ってこないわ。」
王宮内にある宮廷魔術師たちが使用している棟に割り当てられているヒューレッドの自室。そのヒューレッドの自室に聖女であるマリルリはいた。
一刻ほど前に、マリルリはヒューレッドと王宮の側にある森で別れていた。森の中から悲鳴が聞こえたためヒューレッドが悲鳴の原因を確認しにいったのだ。
マリルリは原因を確認したらヒューレッドがすぐに戻ってくると思っていた。そう約束したからだ。この国の聖女であるマリルリとの約束を破った者はいない。それはマリルリが圧倒的な強者だからだ。強者に逆らう人間などほとんどいない。
「一緒にいればよかったかしら。でも、何が出てくるかわからないのに、あんなところにいつまでもいられないわ。それに、ヒューレッドが魔法を使えばすぐに居場所を感知できるし。ヒューレッドは逃げることもできないのよ。」
マリルリはおかしそうにクスクスと笑う。
「走って逃げたのかしら?でも、ヒューレッドは宮廷魔術師。息を吸うより簡単に魔法を使っていた男よ。魔法を使わずに過ごすなんて無理。うふふ。逃げたとしても必ず見つけて見せるわ。」
マリルリはヒューレッドが逃げたとしてもすぐに見つける自信があった。だから、簡単にヒューレッドを森に置いてきたのだ。ヒューレッドが魔獣に害される可能性など、マリルリは微塵も思ってはいなかった。
この王宮の近くにある森には宮廷魔術師であるヒューレッドが苦戦するような魔獣はいないからだ。
マリルリは逃げた獲物を追うのを楽しむハンターのように、舌なめずりした。久々に楽しめそうだと心の奥で微笑む。
「必ず見つけて見せるわ。ヒューレッド様。ふふふ。」
真夜中のヒューレッドの部屋でヒューレッドのベッドに横になりながら、マリルリはヒューレッドを見つけたらどうお仕置きをしようかと思考を巡らせていたのだった。
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