第7話
「お、思わず転移の魔法を使ってしまった。でも、なんとか王宮の外に出ることができたな。」
マリルリの訪問が怖くなってヒューレッドは王宮の外に広がる森にとっさに転移した。辺りを見回して誰もいないことを確認するとホッと胸をなで下ろす。
使わぬようにと言われていた魔法を使ってしまったことにヒューレッドは気づいたが、もうすでに使ってしまった後だったので知らないふりをする。どのみちヒューレッドは魔法に頼り切りの生活をしていたため、誰にも見つからずに王宮から抜け出すということは無理だったのだ。これは必要なことだと、ヒューレッドは割り切ることにした。
「さて、どこに行こうか……。」
マリルリはきっと自分の言うことをきかなかった相手として、ヒューレッドをブラックリストに乗せることだろう。考えすぎな気もしなくはないが、マリルリは一度思い立ったことはなにがなんでもやり遂げようとする強い意志があるのだ。それに、聖女という立場もあるため、いいように職権をフル活用するのだ。
ヒューレッドはこの国を出て行くのであればどこに向かうべきかと考える。一番近いのは南に下ったところにあるサウスフィールド王国だ。だが、サウスフィールド王国は自国民意識が高く、他の国の住人どころか同じ国であろうとも別の地域から来た人間には厳しい面がある。
そのため、サウスフィールド王国はヒューレッドにとっては難易度が高かった。
そうなると、東にあるイーストシティ共和国に向かうのが一番いいのかもしれない。イーストシティ共和国は移民を大々的に受け入れているため、ヒューレッドが向かっても過ごしやすいのではないかと考えた。
ヒューレッドはイーストシティに向かうことを決めた。
「うふっ。ヒューレッド様、みぃ~っけ。」
「うわっ!?」
行く先を決めたヒューレッドの前に、突如マリルリが姿を現した。マリルリはヒューレッドの使用した転移魔法の残滓を元にヒューレッドが使用した魔法がどんなものかということを解析して、後を追ってきたのだ。
「ヒューレッド様の魔力の残滓はとても綺麗ね。おかげですぐに見つけることができたわ。ねえ、ヒューレッド様、どうして私から逃げるのかしら?」
マリルリは生まれつき他人の魔力の残滓を見ることができ、また判別することもできるのだ。
ヒューレッドはマリルリが他人の魔力の残滓を見ることができることを知らなかった。国王であるアルジャーノンが魔法を使わないようにと言った理由を知ったヒューレッドは自分の浅はかさを呪った。
アルジャーノンの忠告を守ればよかったと思うがもうすでに後のまつりである。転移しても、魔力の残滓をたどられてすぐにマリルリに追いつかれるのは必死である。魔法を使わずに逃げるためにはどうしたらいいか。今まで魔法にばかり頼っていたヒューレッドにはすぐに思いつかなかった。
徐々に追い詰められていくヒューレッド。
「ふみゃああああああっ!!!」
追い詰められていたヒューレッドだったが、それ以上に追い詰められていると思われる悲鳴が森の奥から聞こえてきた。