第6話
「ヒューレッド様?いらっしゃらないのかしら?」
何度もマリルリはヒューレッドの部屋のドアをノックする。だが、ヒューレッドはマリルリに会いたくないと部屋の中で息を殺しながらマリルリが部屋の前から早く去ってくれることを願っていた。
「それとも、もう寝ていらっしゃるのかしら?」
マリルリはヒューレッドの部屋のドアのノブに手をかけた。ドアノブに手をかけたマリルリは力を入れてドアを押す。幸いにも、ドアには鍵をかけていたため、ドアは開かなかった。
ヒューレッドはドクドクと脈打つ心臓を押さえ込む。
「まあ、鍵がかかっているわ。ふふっ。ヒューレッド様ってば中にいらっしゃるのね?」
マリルリは嬉しそうに呟くと、なにやら小声で呪文を唱え始めた。すると、ヒューレッドの部屋のドアノブが淡く光り出した。一瞬だけ光った光はすぐに光るのをやめ、元のドアノブに戻る。
ドアノブが一瞬だけ光ったのを確認すると、マリルリはもう一度、ドアノブに手をかけた。今度はするりとドアが開く。
「せ・い・こ・う♪」
マリルリは嬉しそうに微笑むと部屋の中に入っていく。ヒューレッドはまさか魔法で鍵を解除されるとは思っておらず布袋を抱えて部屋の奥に向かう。しかしながら、ヒューレッドの部屋は王宮の一室を割り当てられているだけだ。部屋数は少なく、広さもそれほど広くはない。すぐにマリルリに見つかってしまうのはわかりきっていることだった。
「ヒューレッド様ぁ~?どこにいらっしゃるの?ここかしら?」
マリルリは一直線にヒューレッドの寝室に向かった。そして、ためらう様子もなくヒューレッドのベッドをめくり上げる。
「あら。違ったわ。では、シャワーでも浴びているのかしら?」
マリルリは次にシャワールームに向かう。だが、そこにもヒューレッドの姿はなかった。
「おかしいわね。確かに部屋の中にいると思ったのに……。ヒューレッド様?隠れていなくていいんですよ?マリルリが参りましたわ。ヒューレッド様?」
マリルリはヒューレッドの名を呼びながら部屋のあちこちを探していく。隅々を探しながら確実にヒューレッドの元に向かってくるマリルリ。ヒューレッドの背中を冷たい汗が滑り落ちた。
このままここにいてはマリルリに見つかってしまう。そしてヒューレッドが結婚を断れないように既成事実を作ってしまうのだろうということは、ヒューレッドには簡単に予想できた。
逃げなくてはならない。このままマリルリと相対してしまえば、マリルリがヒューレッドに眠りの魔法をかけるだろう。そう思ったヒューレッドは先ほどアルジャーノンから使わないようにと言われていた魔法を発動させ、王宮の外に間一髪転移したのだった。