第2話
「……恐れながら、マリルリ様はなにか勘違いをなされていらっしゃるかと。」
「あら?どうして?なぜ私が勘違いをしないとならないの?」
ヒューレッドには身に覚えがまったくなかった。マリルリを妊娠させるようなことをした覚えはないし、むしろ20も後半となった今でも女性とそのような関係になったこともない。
「失礼ながら、マリルリ様はお子ができるための行為というものをご存じでしょうか?私は、マリルリ様に触れたこともございません。それゆえ私の子ができるはずがないのです。」
「まあ!私が嘘をついているとおっしゃるのですかっ!?そんな……ヒューレッド様、ひどいわ。」
マリルリは大げさに声を張り上げると、オーバーなリアクションで目元を拭い、その場にしゃがみ込んでしまう。そして、声を上げて泣き出す……ふりをした。
「私と結婚できるのですよ?聖女である私と結婚できるのです。とても良いことでしょう?嬉しいことでしょう?なぜ、駄目なのですか?」
「いえ。身に覚えがないからで……。」
「まあ!まあ!ヒューレッド様がいつも私のことを熱い眼差しで見つめてくださっていたのは知っておりましたわ。私はその視線で……ぽっ。」
マリルリは頬を赤くして自然な演技で告げる。
「とにかく、私ではございません。いつもマリルリ様のおそばにいる方々のお子ではないのでしょうか?」
視線だけで子ができてたまるかっ!とヒューレッドは心内で毒づいた。
それに、ヒューレッドはマリルリのことを好意的に思ったことは一度もなかったのだ。確かに万人受けをするような見た目をしている。それに外向けの性格は清楚でこれぞ、聖女という雰囲気が漂っている。
そんなマリルリに惚れない男の方がおかしいだろう。
だが、ヒューレッドは知っているのだ。マリルリの本性を。
「まあ。あの方たちも私のことを……?でも、私はヒューレッド様が良いのですわ。」
マリルリの側にはいつも侍っている男性がいる。それも5人も。そんな侍らせている男がいるにも関わらず触れたこともないヒューレッドの子を妊娠したというのは無理があるのだ。
だが、マリルリはその無理を通そうとしている。
なぜならば、マリルリはその5人とすでに関係を結んでおり、マリルリのお腹にいる子の父親が誰か判別できないからだ。そこで白羽の矢がたったのが、硬派で女性と噂のたったことがない根暗なヒューレッドだ。ヒューレッドなら騙されて結婚してもらえると思ったのだ。
結婚するだけならば、侍っている5人のうちの誰でも結婚することが可能だろうが、マリルリは一人にしぼることが惜しいと思っていたのだ。侍っている見目麗しい青年のうちの一人を選んでしまえば、その青年が独占欲を持ってマリルリを独占しようというのは目に見えていた。
ヒューレッドならば女性関係に疎く、大人しく目立たないのでマリルリが結婚後も誰かと関係を持とうが許してくれるだろうという打算で、マリルリはヒューレッドに迫っているのだった。
「ふふ。ヒューレッド様は幸せなのよ。だって私と結婚できるんですもの。ね?すでに王妃様からも許可を得ましたわ。」
マリルリはそう言って聖女とは思えないほど艶やかな笑みで微笑んだのだった。