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初めての共同クエスト

がたん、がたんと荷馬車の揺れる音を聞きながら、迎えに座る少年―ゼノを極力視界に入れないように田舎の景色を眺めていた。


「えーっと…まずは自己紹介から。僕はゼノ。今八歳で、知っての通りA ランク冒険者だよ」


彼の方を向いていないから分からないが、恐らく「よろしく」と微笑んでいることだろう。

ふんっ、子供扱いする人間によろしくする私じゃないわ。


「―私はルーファ。本来Sランクだけど経験値不足でBランク。現七歳」


何があっても「よろしく」なんて言わないし、微笑んでも、目を合わせてもあげないんだから。

―え?それこそ子供っぽい?二百五十歳がやることじゃないって?

ふんっ、放って置きなさい。今の私は七歳なのッ!


「…君はどうして冒険者を?見たところ貧しい出じゃないよね?」


―はぁ?何、貧乏じゃなかったら冒険者なんてやっちゃいけない訳?!

思わず叫びそうになって、堪える。

ちょっと待って、私。なんかすごく悪役っぽくなっている!

深呼吸、深呼吸―落ち着いて。相手は子供。子供なの。


「―別に。ただ世界を見て見たかっただけ」


本当は自由気ままなスローライフを送るため…なんだけど、まぁアンタには関係ないわ。


「ふぅん?あ、依頼の森に着いたみたいだよ。」


はぁああああ?!お前から聞いておいて、「ふぅん?」って何?「ふぅん」って!!

あああああッ!このクソガキぃぃぃぃい!

見た目だけ良い性悪男!クソガキ!底層貴族ッ!!


「―さて。クエストを始めようか」


………そればかりは賛成ね。


**


「…ルーファッ!!オーク三体ッ、そっち行ったッ!!」

「―了解」


不本意ながら…まっこっとっにっ!不本意ながら、私は今ゼノと共闘をしている。

性悪でもAランク冒険者なだけあり、まぁ実力派ソコソコ。

前前世だったら小隊の隊長だっただろうね、ってくらいの実力。

まぁ問題なのはソイツが八歳ってことなんだけど。


「あああああああ…」


せめて不能だったら罵れたのに…ッ!

涼しい顔した万能系が一番嫌い!私は二百五十年間努力してここにいるんだっつーのッ!!


「天地一閃―小夜早暁」


真っ青な森にオークの赤い血が飛び散る。

双剣にまとった氷の魔力が彼らの生命を永久に絶った。


ゼノに対する恨みをオークの軍勢にぶつけても、彼に対するイライラは収まることを知らなかった。


「〈探索〉」


森に残るオークは残り二十三。一体は恐らくボスのキングオーク。

来たときは百近かったのに、いつの間にか五分の一になったらしい。

そこまで理解して〈捻話〉を発動させる。対象者は森にいる少年。


『ゼノ。聞こえる?今から湖側の森広間にオークを全体集合させる。それで一気に殺るけど手出ししないで』

『…!ちょっと、ルーファ―』


ゼノの答えを待たずに〈捻話〉を終了し、魔力矢で各個体を誘導する。


ふっ、こういう時に年の甲が役に立つのよ!

"大魔導士"と"戦女神"の力、とくと目に焼き付けるといいわッ!


「…ッ!湖ッ、見えた――っ!!」


誘導させたオーク集団の存在も感じながら、クエスト終了へ向けて魔力を練る。

前世は全属性を平等に使えたけど、今世は〈氷〉との相性が特にいいらしい。

〈氷のSSSランク冒険者〉とか格好良いかもしれないわね―っ!


「〈氷牢獄〉〈氷地獄〉〈吹雪〉―っ!」


足止めと束縛用の魔法―〈氷牢獄〉と、相手の耐久値を削る魔法―〈氷地獄〉。

そして〈吹雪〉で目くらましと凍傷を与える。


『『『『がうっ、がぅぅぉおおッ!ガァァアアアア!!!』』』』



結界によって仕切られた向かいの銀世界を眺めながら微笑む。

〈探索〉に引っかかる生命反応が一つ一つと消えて…いや、凍っていく。


「あ~あ♪やっぱりキングオークは生き延びちゃったか★」


そう私が呟くのと同時に、私の上―正しくは私が張った結界の上に大きな拳が落ちてきた。


パリンっ


簡易結界に罅が入る。

あの大きな拳を小さな罅一つで受け止めたルーファリアを褒めるべきか、ルーファリアの結界に罅を入れたキングオークを褒めるべきか。


「ふふふ。"簡易"結界も壊せない豚さんは生姜焼きがお似合いだよ★」


どうやらオークを貶す―という三つ目の選択肢だったらしい。

そして―


『があああああああああああッッッ!?!?』


キングオークの体の中から、魔力の炎が燃え広がる。


「私に喧嘩を売った時点で、貴方の負けだよ★豚さん?」


彼女の無の瞳が映すのは、灰となって地へ落ちていくキングオークの姿。

不思議なことにその炎は森を一切焼くことなく、キングオークだけを燃やし―殺していった。


「―ね?私がSランク相当の冒険者だって、信じてくれた?」


クルリと戦闘服の裾を翻して哂う少女。

―果たして今までの彼女の毛嫌いは何だったのか。

"静海"の名がピッタリな彼女は、まるでさっきとは別人だった。

その瞳に、その心に如何なる感情を映すことはなく、ただ静かに彼女は微笑んだ。


「――――あぁ。君は本当に――」



"人間なのか?"という疑問は、彼の喉の奥へ消え去った。

〈特性能力抑制魔導具〉―彼女の首から覗いた黒色のチョーカーがソレを物語っていたから。


「じゃあ、帰りましょう?ギルドへ報告しなくちゃ★」


まるで本能のまま―。

最早人間を止めた…いや、人間を超えた彼女の後姿を眺めながら、ゼノは密かに戦慄と期待を覚えた。



ルーファリアちゃんは"サキュバス"の暴食本能に引きずられています。

さて★ぱっと見貴族のゼノの正体は―?

これからもお楽しみください。


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